第一話 最高のヒロイン
中学生の時酷いいじめに遭って以来、俺は学校に行ってない。
不登校を続け、今年でもうはや一年。家に引きこもり、
毎日ゲームとマスターベーションに勤しむ日々は正直もう飽きている。
ただ、家の外には出たくない。俺は、人間が怖い。
底無しの悪意で、他人を傷つける事だけが生き甲斐の人間は実際にいる。
怖い、怖い、怖い、怖い、
将来も、未来の展望も見えない今の生活。ただ、人といるより断然マシだ。
人間は嫌い。みんな死ねばいい。俺を傷つける奴はみんな死ねばいい..。
そんな事を平気で考えてしまう、自分が死ねばいい..。
渡良瀬剣は、自室で首を吊り自殺した。
♢
「やったぞ!異世界人の召喚に成功した!!」
と思ったら、異世界に転移していた。
「あの....。いまいち要領得ないんすけど..。俺死んだはずっすよね..」
「死んだぁ?お前は前の世界で死んだのか?」
「はい..。そうですけど、死んだら異世界に来るとかそういう仕様なんですかね」
「いや、異世界人の召喚に成功したのは其方が初めてじゃ」
ーなるほどね..。異世界人の召喚..。それも周りを見渡す感じ、設定はベタだけど
中世ヨーロッパといったとこか?学校の教科書に出てきたベルサイユ宮殿の内装と
良く似ているな。豪勢なシャンデリア、大理石の柱ーーだとすると、
今俺に話しかけてきた目の前のおっさんは、異世界の王国の、”王”といったところか?
「すまぬ申し遅れた。吾輩の名はーー」
「あぁ良いですよ!王様ですよね?謁見であるにも関わらず、先程のタメ口など
数々の無礼をどうかお許し下さい!!」
「別に構わぬ。吾輩の名は、ここテロニカ王国第64代国王、
ルードリッヒ・バンペルージュ。
お願いだ異世界人よ!どうか其方の力で我が国を救ってくれ!」
やはりそう来たか。異世界に召喚された時点でその目的なんて大体一緒。
魔王とか亜人族とかがいて、そいつらから国を守って欲しいぃーみたいな?
「魔王軍の侵攻は長く続き、今や王都の喉元にまで差し迫っている」
「まぁ..。そんなとこですよね..。で、召喚されて、魔王もいる。
って事は、俺には何か<特別な力>が与えられている。と?」
「あぁ、話が早くて助かるわ。古の書による伝説によると、異世界人には
神より強大な加護を授かるとーー」
ここまでは予想通りー
「して、その俺に与えられた加護というのは?」
何だろう?やっぱりどんな敵でも一撃でぶっ飛ばせる圧倒的なパワー?
それともあらゆる攻撃魔法を使いこなす最強の魔法使い?どんな相手でも
従属させられる支配の力??ーームフフ
「回復能力じゃ!それもトップクラスの!自己回復だけでなく、
其方の半径5m以内にいる周囲の人間の回復まで
行えるぞ!ムムム..、これは凄い!<呪い>の無効化まで..ん?
どうしたのじゃ?どうして暗い顔をしておる?素晴らしい能力なはずじゃが..」
「あはは..。すみません。ただ、異世界転移でまさかの回復役....。
もっとこう、敵をわんさか薙ぎ倒す系の力じゃないんですかね....」
「あっはっは!其方もやはり男じゃのう!しかし回復能力は非常に重要じゃ!
それに其方のいう敵を薙ぎ倒すような人間は、もう既に存在しておる。
確か今日あたり魔王城の単騎遠征から帰ってくるはずなんじゃが遅いのう..。
其方には最初に、彼女の治療をしてもらおうと思ったんじゃが....」
ーバタン
その時だった。俺の背後にある巨大な扉が開き、中に人が入ってきた。
その人は、鎧を着ている腰の曲がった老婆。杖が無いから前傾姿勢で辛そうだ。
彼女は額に汗を流しながら半歩ずつ亀のようなスピードで、地を這うように
俺のいる方に近づいてきた。
「王様、誰ですかこのお婆ちゃん?」
「おぉ..。見上げる程大きくなりおって!飴はいるかい?」
「いや..、大きくなるも何も、会うの初めてですよね?王様!
本当にこのお婆ちゃん誰なんですか?」
「うーむ..。知らぬなぁ....」
おいおいおいおい!この城は知らない人間を上げるのか?セキュリティシステム
ガバガバすぎるだろ!そして極め付けはこのお婆ちゃん!!
さっきから妙に馴れ馴れしい。まるで孫を甘やかすみたいな..。
「むむ??その鎧..どこかで??あ!??その老婆..。にわかには
信じがたいが、、もしやメリッサではあるまいな????」
「メリッサ?俺その人知らないし勝手に話し進めないでよ」
「其方!初任務じゃ!!隣の老婆に加護を行使してくれ!」
「か、加護ってどうやって使うんですか?」
「頭の中で念じるだけじゃ!詠唱も必要ないわい!」
ふーん..。自然に扱える系か、まぁ悪くはない。
えっと、俺の場合は回復能力だから、このお婆ちゃんにそれを使うイメージで..。
ー回復しろ回復しろ回復しろ回復しろ
って考えても何を回復するのやーーーー
すると直後、信じられない出来事が起きた。
何と。さっきまで隣にいたお婆ちゃんの折り畳まれたかのような
背筋はみるみるうちに伸びて行き、顔の皺も目に見えて消えていったのだ。
俺はそのあまりの一瞬の出来事で、我を忘れかけた。
ただ一つ言えるのは、さっきのお婆ちゃんが、物凄い美人に生まれ変わった事。
光沢のある綺麗な金髪に、空を入れたかのような淡い水色の瞳、そして純白の肌。
凛とした佇まいと、神々しさすら感じる容貌に、引きこもり歴一年の僕は思わず
目を奪われてしまった。
「やはりな。何事じゃメリッサ!?」
「国王様!大変申し訳ありません!!
私は順調に魔王城にまで向かっていたのですが、
道中接敵した”魔女”に、<老化の呪い>をかけられてしまったのです。
魔女はその場で姿をくらまし、
私の身体は、徐々にしわがれていく....。任務の続行は
困難であると判断し退散致しました..。
国王様!私は任務を成し遂げられませんでした!
何なりと処罰を!!!!」
「いや、呪いをかけられたのであれば仕方がない。それに、今度の任務には
新たに彼も同行させよう」
え?え?俺がこんな美人な女性と一緒に冒険!?
しかし、喜ぶのも束の間ーー
「チッ..」
「え....?」
「国王様。この男は?」
「おっと説明がまだじゃったな。その男は先程、異世界から召喚したのじゃ!
強力な回復の加護を授かっているから、きっとメリッサの役に立つわい!」
「はぁ..。そ。で、お前、名前は?」
「あ....、わ、渡良瀬剣で、です!」
「きも..。何で私がこんな童貞丸出しみたいな奴と..(ボソっ)」
「どうじゃ?仲良くやっていけそうか?」
「はい!!」
俺のメンタルはバキバキに崩壊した。いくら相手が美人な女性とはいえ、初対面
でここまでボロクソ言われたのは初めてだったからーー。
異世界転移した事の興奮で忘れかけていた”いじめ”のトラウマが蘇る..。
ーくそ!
「冗談じゃない!俺は一人で冒険する!こんな性格の悪い女ごめんだ!」
「あらぁ?国王様の命令に逆らうの?それって不敬罪じゃない?」
「くっ..。王様!!せめて別の人にお願いできませんか?こいつと一緒だなんて..」
「こいつ!?私の名前はメリッサ!いい!?
次こいつだなんて言ったらタダじゃおかない!」
「は!?メリッサだってさっき俺の事お前呼ばわりしてただろうが!」
「そうよ!!あんたみたいな童貞一々区別なんてしてられないわ!!」
「あーそうですかじゃあとっとといなくなって下さいよ!もう報告は
終わったんでしょ!?お前とずっといると気分悪くなってくるわー」
「そうね!私もあんたみたいなヘタレと同じ空間にいるだけで吐きそうよ!!」
ークソ!クソ!!
折角メインヒロインの登場だと思ったのにあれじゃあ主人公を迫害する悪女だ..。
顔だけ良いいから、どうせ小さい時からチヤホヤされて育って天狗になっている
のだろう。
「メリッサ!!」
「ははは..。もう良くないですか王様。あんな女いなくても、俺は一人で
何とかなりますよ..」
「ち、違う....。め、メリッサ!!お前まだ<呪い>が!!!!」
ーえ?
「そ..、そうじゃった....。思い出した..。<老化の呪い>を解呪するには
ある条件が必要じゃった....」
「じ、条件!?無効化出来ないんですか?」
ーご、ゴクリ
「そうじゃ..。無効化したとしても、それは一時的な解呪にすぎん..」
「で、ではどうすれば....」
「呪いをかけた魔女を殺す..。それか、、、性行為じゃな....」
「あ。前者でお願いします」
かくして、ヒロイン(笑)の呪いを解くために、魔女を殺す冒険が始まった。
しょーもないお話ですが、面白いと感じてくれたら
評価等々頂けるとありがたいです。