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ローファンタジー

神主見習いと神と巫女見習い

作者: 本羽 香那

拙作の「神主見習いと少女」の後日譚ですが、上記の作品をご覧いただきなくても、読めますので、ご安心してご覧ください。

因みに神主見習いや巫女見習いはオリジナルの言葉です。

また設定もオリジナルです。


武 頼庵(藤谷 K介)様の「イラストで続きを書いちゃお!!企画」の参加作品です。

イラストは、武 頼庵様が制作されたイラスト1・2、幻邏様が制作されたイラスト3全て使用させていただきました。


(たける)、ノリコは桜が見たい!!」

「桜が咲くまでもう少しだから、我慢しろ」

「ノリコは尊と一緒に出来るだけ早く桜が見たい!!」

「何で俺が一緒にノリコと桜を見に行かなきゃいけないんだ。別に用事があるわけでもないんだろ」

「うん、別に予定はないよ。でも桜を見に行きたいのは神であるノリコの意向。だから尊、明日から桜を見ることが出来るところに連れて行って」

「嫌だね。そこまでする義理はない」


 尊は現在もう少しで高校生となる中学3年生の神主見習い。浅葱色の袴の着て神社の周りを掃いている中、この神社の神であるノリコに無茶な頼みをされていた。尊はいつもノリコに振り回されているため、彼女には愛想を尽かしており、今回も適当にあしらっていたところだった。


「尊、もしかして今、神様と話しているのか?」

「ああそうだよ。ほっといてくれ」

「いつも言っておるだろう。もっと敬意を持って話せと。相手はここを守る神様なのだぞ」


 後ろからノリコが、そうだそうだ私をもっと敬えと挑発をしてくる。そのことに対して更に尊のイライラが加速した。


「神様は桜が見たいと仰っているのか。なら、明日桜を見に行け。手続きはこちらでしておくから神様を楽しませてこい」


 そうやって声をかけてきた人物は上機嫌に尊の元から離れていった。


「あのくそ親父。いつも勝手なことをしやがって」

「物分かりが良いお父さんね」

「威張るんじゃねえ」


 尊の父はこの神社の神主であり、尊を神主見習いにした張本人である。彼は尊が霊感が強いことを理由に、尊の意思を無視して神主見習いにさせたのだった。事実、尊の霊感は大変強く、尊の父ですら見えない神であるノリコを普通に見ることが出来るし、話すことも出来るのだ。このことを知った尊の父は、ノリコが望むことを尊にさせるようこのように毎度毎度尊の意思を無視して勝手に手を貸しているのである。そのため、尊は今回もノリコの付き添いをせざるを得なかった。


◆◆◆◆◆


 尊の父が早速用意したチケットで飛行機に乗り、いつもよりも暖かい地方にやってきた。10日間行ってこいとのことで、泊まる宿もきちんと用意されていた。尊は、父に仕事があるから一緒に行けないからと、1人で放り出されたことにテンションが下がっているものの、ノリコは桜を見に、旅行することが出来ることにテンションが上がっていると対照的であった。


「尊、もうあらゆるところに桜が咲いていて綺麗だね。わざわざ来たんだからもっと前を向いてしっかりと綺麗な桜を目に焼き付けなよ」

「はいはい」


 尊は仕方が無く顔を上げると、道の両側に多くの桜の木が満開に咲いていた。こういう光景は毎年見ているはずなのに、やはり間近で見ると圧巻であり、息を飲んでしまう。これから見に行こうとしている名所はどれほど美しいのか、尊は少し気になってしまった。


 挿絵(By みてみん)


 尊がふと横を向くと1人の少女が横切った。艶のある長い黒髪であり、それになりより大層な美女。尊はその美しさに目を一瞬にして目を奪われてしまった。


「尊、彼女を追いかけるよ」


 ノリコは彼女を見て、すぐに追いかける。尊はノリコの行動に驚きながらも、流石に人目が多いこの中で会話をすることも出来ず、勿論引き止めることも出来ないため、黙ってノリコに付いていくしかなかった。


 暫く彼女を追いかけていると、最初は人の数が多くて姿を隠すことが出来ていたものの、人が少なくなり、嫌でも尊は目立つようになってしまった。そして、最終的には彼女と2人だけになる。しかし、彼女は周りのことが気にならないのか、全く尊のことには気づかない。尊は少し安堵するも、気は抜けないと適切な距離を取っていた。彼女は足を止める様子は全くなく、どんどん辺鄙なところに入って行った。

 

 挿絵(By みてみん)


 彼女が行き着いた先は、多くの動物が集まった所。まるでジブリに出てきそうな光景だ。こんな所が存在するなんてと、尊にはとても信じられず、今夢でも見ているのかとさえ思ってしまう。

 

「私はノリコ。貴女の名前は?」


 ノリコは尊と初めて会った時と同じように、彼女の前に現れ自己紹介をした。彼女は驚きながらも、丁寧にお辞儀をして自己紹介をする。


「初めまして、私は神楽(かぐら)美夜(みや)と申します。大変可愛らしい方ですね」


 彼女はノリコに手を差し出して笑みを浮かべた。その姿は天使のようで、後ろに後光が見えたような気がした。


「やはり、貴女は私が見えるのね」


 その言葉を聞き、尊はふと彼女の存在を不思議に思った。ノリコは普通の人には絶対見ることが出来ない存在である。それにも関わらず、あたかも人間の女の子と接するかのように、平然と話しかけるのは並大抵のことではなかった。彼女はノリコの言葉に対して少し不思議そうな顔を浮かべていた。


「あら、後ろに人がいらっしったのですね。初めまして、私は神楽美夜と申します。貴方様のお名前は何と仰いますの?」


 彼女はようやく尊の気配に気づき、後ろを振り返ってノリコに挨拶したように、至極丁寧に挨拶をしてきた。尊は少し戸惑いながらも、丁寧に挨拶をした。


「初めまして、俺は神代(かみしろ)尊です。先程彼女が勝手に話しかけてすみませんでした」

「何故謝る必要があるのよ! それじゃあまるで私が悪いみたいな言い方じゃない」

「事実そうだろう。ノリコこそ彼女に謝れよ」

「嫌よ。私、悪くないもん」

  

 尊が彼女に挨拶をしているのにも関わらず、ノリコがツッコんできたことで、2人はいつものように喧嘩をしてしまった。そのことに途中で気づき、尊は再び彼女に謝った。


「本当に2人は仲が良いのですね。大変羨ましいです。もしよろしければ一緒にお話しませんか?」


 彼女は全く機嫌を損ねたわけでもなく、寧ろ楽しそうに笑顔を浮かべていた。彼女を笑顔を見て、尊は心が一瞬にして浄化された。


「尊さんは、今ここに何が見えますか?」

「多くの桜が咲き乱れているし、様々な動物がいますよね。下には猫が2匹いるし、木の上にはフクロウが佇んでいるし、他には……」

「やはり見えるのですね」

「見えるとは……」

「確かに桜が咲き乱れているのは間違いありませんが、ここにいる動物達は本来はいませんの。ここにいるのはこの地方を治める神々ですから」


 尊は一瞬彼女の言っていることが理解出来なかった。確かに最初は夢のようだと思ったものの、時間が経ってもその光景は変わりはしなかったので、本当にアニメのような世界が存在するのだと思っていたのだ。まさか彼らが神々だとは夢にも思わず、驚いていた。動物の神がいるというのは聞いていたが、本当にいるということをここで改めて実感する。


「私はこの近くにある神主の娘で巫女見習いをしております。尊さんは神主見習いとかですか? そしてノリコ様は神様ですよね?」

「流石、巫女見習い! 私が神だと分かったのね」

「……」


 ノリコは大変嬉しそうに笑顔を浮かべて、彼女に抱きつこうとした。しかし、ノリコの体はすぅーと通り抜けてしまう。その間尊は、彼女に全てを見抜かれ驚いていた。巫女は母がそうであるため見たことがあるが、巫女見習いを実際に見たのは初めてであり、また神が見える人に会ったのも初めてであるため戸惑いが隠せなかった。しかし、返事をしないわけにもいかず、尊は少し時間が空きながらも返事をした。


「確かに俺は一応神主見習いです」

「一応じゃなくて、私に仕える立派な神主見習いでしょ」

「ノリコに仕えた覚えはねぇよ」

「私を敬う気持ちはないとでも言いたいの?」

「ああ、ない」

「即座に否定しないでよ!」


 再び2人は彼女がいることを忘れて喧嘩をしてしまう。そんな2人を彼女は温かい目で見ていた。暫くして2人はそのことに気づき、再び尊は謝って話を元に戻した。そして今度は尊の方から彼女に聞きたい質問をした。


「美夜さんは巫女見習いは嫌ではないのですか? 俺は正直に言って嫌です」

「尊、あのね……」


 ノリコは尊にツッコミを入れようと思ったものの、その重い空気の中、口を挟む勇気は出ず、黙り込んでしまう。彼女は少し考えて、尊の問いにゆっくりと口を開いた。


「私は嫌かどうかは分かりません。小さい時からそのように言われておりましたから。それに今は兄が留学しているため、ここから離れるわけにいかなくて。それにそもそも私が成人するまではここを離れられないですから、あと少なくとも6年ほどはここにいると思います」

「ちょっと待って! 美夜さんはもしかして中学1年生なの?」

「はい、今は中学1年生です。もう少しで中学2年生になりますが」

「嘘だろ!」


 高身長で顔が大人っぽい見た目、そして丁寧な言葉遣いと、何処からどう見ても高校生に見え、とてもではないが、少し前まで小学生だったとは、また自分よりも年下だとは夢にも思わなかった。寧ろ成人していますと言われる方がまだしっくり来るぐらいだった。そのため、尊は彼女を年を知り、大変驚いた。彼女はよく間違われますと微笑む。


「そろそろ日も落ちて来ましたから、私はそろそろ帰らなくてはなりません。残念ですがここでお別れですね」


 尊はふと空を見上げると、前に見た澄んでいた青い空が、薄暗く赤みついた夕焼けの空に変わっていた。時間がもうこんなにも経っていたのだと、今実感した。尊は彼女にさようならと言おうとしたら、ノリコがとんでもないことを言ったのであった。


「美夜、明日もここに来るの?」

「はい、参ります」

「なら、私達も明日ここに来ても良い?」

「勿論。大歓迎です」

「じゃあまた明日ね」

「はい、また明日お会いしましょう。さようなら」


 彼女とノリコはお互いに手を降ってお別れをした。ノリコは先程に増して上機嫌である。


「何勝手に約束してんだ」

「彼女といると楽しいもの。だから明日も遊びたいなって思ったの」

「彼女に迷惑だとは思わないのか」

「全く思わないわ。美夜も喜んでくれたじゃない」

「そんなの社交辞令だろ」

「違うもん。喜んでくれたもん」


 相変わらず最後は、いつもの2人のやり取りでその日は終わったのであった。


◆◆◆◆◆ 


 尊はノリコが勝手に約束したため、昨日の場所に来ざるを得なかった。ノリコは上機嫌にスキップをしていた。


「ノリコ様、尊さん、こんにちは」

「こんにちは」

「こんにちは」 

  

 3人は最初を軽くこのように挨拶をして、多く茂った芝生の上に座る。それからと言うのは昨日と同様お話をするだけであった。しかし、それは大変楽しいものであり、昨日と同様にあっと言う間に時間が過ぎてゆく。ノリコはまた明日と彼女と再び約束を取り付けて、この日も2人はいつも通りのやり取りをしながら、その日も終えたのであった。



 それから7日間毎日あの場所で彼女と会うこととなった。話すのは自分の神社のことや学校のこと、家のことと有り触れた話題ばかり。しかし、それは飽きることはなく時間を許す限り続くのだ。尊と彼女の話はけっこう意気投合することも多く、尊はこんなに楽しいと思ったことは初めてだった。尊は彼女を気に入ったことにより、ノリコに仕方が無い付き合っていたため、最初はそこまで乗り気ではなかったものの、彼女と一緒にいると楽しくて心地良いというプラス方向に気持ちは変わっており、彼女との時間がずっと続けば良いのにと思うほどであった。


◆◆◆◆◆


 9日目もあいも変わらず3人で楽しく話していたのだが、そこで大きな事件が起こった。なんと大きなフクロウの形をしたモヤが現れたのである。3人は思わぬ事態に驚きを隠すことは出来なかった。


「尊、あれは不味いわ。神がモヤに取り憑かれ始めているわよ」

「神なのに取り憑かれることってあるのか?」

「神だって弱る時もあるわ。その隙をついてモヤが神を狙ったのよ」


 いままで様々な形のモヤを見て退治してきたが、神が取り憑かれているパターンは初めてである。今までは直接攻撃をしていたものの、今回はどのように退治すれば良いのかが、尊には全く分からなかった。


「尊、今回は攻撃ではなく、モヤを浄化していくよ。時間も体力も多く消費するけど、仕方が無いわ」

「分かった。で、どうすれば良い?」

「私がまず舞をするから、モヤがだいぶ収まってきたらこの大麻(おおあさ)でゆっくりと収まるよう念じて欲しい。決して大声を上げても、大麻を振り回しても駄目よ」

「分かった」


 尊が返事をすると、ノリコは花柄のワンピースではなく、十二単の姿に一瞬にして変わった。綺麗な桜が描かれた大きな扇子を広げてノリコは今すぐに舞おうとした。


「あの、私も一緒に舞ってもよろしいでしょうか? 確かに力としては微力です。ですが、ここは私達が住む所です。ですので、私もあのモヤを退治したいのです」


 声を大きく張って前に出たのは彼女であった。彼女の眼差しは真っ直ぐにノリコに向いており、本気であることを伝えていた。ノリコは少し疲れるけど良いのかと聞いたが、彼女は即座にその覚悟は出来ておりますとキッパリと言い切った。そのため、一緒に舞おうと彼女の願いを許可した。彼女は正装は出来ませんがと、巫女装束ではなく、チェック柄のワンピースのまま、自ら常に携帯している扇子を取り出し、扇子を広げる。


「美夜、今から舞うよ」

「はい」


 ノリコと彼女はゆっくりと舞い始めた。彼女は少し顔が硬くなっており、緊張しているようだった。しかし、ノリコと彼女は大きな動作で舞を舞う。最初は彼女がズレていたものの、だんだん動きが共に合うようになり、モヤもどんどん早く小さくなっていった。ノリコと彼女の舞う姿を尊はただその場で見守るばかり。その美しい舞に酔いしれていた。

 モヤの大きさがだいぶ小さくなったところで、ノリコと彼女は共に倒れてしまった。


「ノリコ、美夜さん、大丈夫?」

「……だいじょうふ」

「……だいじょうれす」


 ノリコも彼女も共に舌が回っていなかった。そのため、尊は側にある木陰のところまで連れていき、ノリコと彼女を寝かせた。そして、元の位置に戻り、尊はノリコから預かった大麻を取り出した。ゆっくりと静かに唱えて必死に浄化をしていく。かなりの体力が奪われていくなか、尊は完全に消えるまでただひたすら静かに唱え続けた。 

 モヤが消え去り、フクロウの姿が元に戻った。尊は無事モヤを退治することが出来て安心したと同時に嬉しく思った。


「尊、助けてくれてありがとう」

「いえ、神様がご無事で良かったです」


 突如フクロウが尊に向かって話し始めた。尊はまさか動物であるフクロウが喋るとは夢にも思っていなかったため、戸惑ったものの、しっかりと返事はした。


「こんな不甲斐ない姿を見せてすまんのう。わしはかなり高齢の時に祀り上げられた神じゃから、少しのことですぐ弱るんじゃ」

「今回はどうして弱ってしまったのですか?」

「わしは元々ここらへんの春を迎えるための神。だからそれに向けて今回は力を発揮していたのじゃが、思った以上に力を使っての。だから体が弱ってしまったんじゃ」


 尊は昔、ノリコに神は祀り上げられた時の年齢のまま存在すると教えられたことを思い出した。そのため、神は見た目はその時のままであるし、力もその時のままだ。そのため、祀り上げられた年齢によってもそもそも力に差があるのであった。


「昔は聖斗(あきと)が若かったから問題なかったし、最近は神威斗(かいと)がいたから大丈夫だったんだじゃがの。今回はわしと聖斗だけでは少し厳しかったようじゃ」


 聖斗というのは彼女の父のことであり、神威斗というのは彼女の兄のことだった。神の力は、神が本来持つ力と神主や巫女、神主見習いや巫女見習いの力によって決まってくる。今回は神主や巫女見習いの年齢や神主見習いの不在によってバランスが崩れてしまったのだ。実はこのようなことは珍しくなく、本来なら他の神主や神の力を借りてするべきなのだが、今回このようなことが初めてだったので対応が出来なかったのだった。


「またノリコ氏にも感謝してもしきれん。本当は今すぐ直接お礼を言いたいのじゃがな。それに美夜もこんなに力を付けていたとは驚いた。成長しているのじゃな」


 ノリコに対してはすぐに感謝を伝えることが出来ないことに少し悲しそうだったが、彼女に対しては笑顔を向けていた。尊は幼い時から知っている彼女の成長に母性本能みたいなものを感じているのだろうと思った。


「あの……もしかしてもう退治終わりました?」

「美夜、先程終わったよ。本当にありがとう」


 彼女は目を覚まし、退治が無事終わったかどうか確認をすると、神は彼女に終わったことを告げ、感謝を述べた。


「いえ、私の力がもっと強ければこんなことにならずにすみましたのに……」


 彼女は神にこんな酷い目に合わせてと申し訳なく思っているようで、項垂れてしまった。


「美夜は十分強かったぞ。本当に美夜が力を貸してくれたおかげで助かったのじゃから」

「でも……」


 神は彼女を励まそうとしたものの、彼女はまだ罪悪感を感じていた。相変わらず項垂れている。そのため、尊も彼女を励まそうと口を開いた。


「美夜さん、自信持ってください。神様もそう言ってますし。それに巫女である俺のお母さんよりも全然力が強かったし、これからもっと力がつくと思います」

 

 巫女と巫女見習いの違いは、いざという時に自分の力を1人で最大限に発揮出来るかどうかということだ。これは神主と神主見習いも同様である。そのため、尊の母は弱い力ではあるものの、自分の力で最大限の力を発揮出来るため、立派な巫女である。巫女になるのには年齢は関係なく、尊の母は9歳と年齢が1桁の時に巫女になっていた。ただ普通は巫女になるためにはやはり長い年月を要し、だいたい20代後半が多い。中には30代に乗って巫女になる者もいるのだ。彼女が巫女ではなく、巫女見習いであるということは、まだまだ伸びしろがあることを示していた。


「そうですね。私、もっと力を付けてここを守れるようになりますわ。せめてお兄様が帰ってくるまでは私と父でここを守れるように。どうしても無理そうでしたら他の方の力も借りようと思います」


 彼女は一気に元気になり、無邪気に笑みを浮かべる。その姿はやはり天使のようで、尊が直視出来るものではなかった。


「あの、俺達明日には帰らなくてはいけないんです。短かったけど本当に楽しかったです」

「もうお別れなのですね。本当に寂しいです。また遊べたら良いなと思いますが、お互い都合がありますから厳しいでしょうから、すぐには厳しいかもしれませんね」

「はい。でもまたいつか必ず会いましょう」

「そうですね。ではまたいつか」


 尊と彼女はお互いに大変名残惜しそうに別れを告げる。普通の人ならすぐに会えるだろうが、神主見習いと巫女見習いの2人は忠誠心はあるかどうかはともかく、基本自分の神に従うため、本人の意志とは関係なく神と一緒にいることとなる。フクロウの神は有名な神社であるものの、元々年配の神であるため簡単には移動は出来ないし、ノリコは有名神社の神で若いため、普段様々なところに手助けも行っているし、長期休みになると毎回尊を連れていく。今回は本当にたまたま空きがあっただけだった。きっとこの先も予定が入り、おいそれとは会うことが出来ないのは目に見えていた。


 尊は疲れて眠っているノリコを連れて宿に戻った。そして、次の日の朝に飛行機に乗り、無事家に帰った。家に帰った後でノリコがようやく目を覚まし、何故起こさなかったと尊はノリコに1週間もネチネチと文句を言われることになるのだった。


◆◆◆◆◆


 あれから6年後の春。尊は大学3年生となっていた。まだ神主見習いであるものの、あの時に比べると力が大変強くなっていた。尊は去年と同じように準備をし、午後から講義を受けようと大学内に入ろうとした時だった。


 挿絵(By みてみん)


 艶のある長い黒髪に、それに何より大層な美女。思わず目を惹かれてしまう。この感じは6年前のあの時と全く同じであり、尊は思わずその美女に声をかけてしまった。


「もしかして、美夜さん?」

「え? 尊さん?」


 彼女は当然声をかけられ驚きを見せるが、それと同時に尊であると分かったことが本当に嬉しそうであった。尊も彼女であると分かったため、嬉しさで笑みが溢れた。


「あの、私今日からここの学生になりました。ですので、ここに住むことになるのですが、あの時のようにまた一緒に話しませんか?」

「勿論。これだけ長い間会っていなかったので、話題は沢山ありますよ」


 それから2人はよく話し合うようになり、ノリコを交えて楽しく過ごすようになるのだが、2人が将来夫婦となり、ノリコの神社を支えていくことになることはまだ誰一人として知らない。


 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] てぇてぇ( ˘ω˘ )
[良い点] 尊とノリコの冒頭のやりとりから引き込まれました。そして、満開の桜が咲く中での美夜との出会いが、とても印象的ですね。フクロウをはじめ動物たちが出てくるところも興味深かったです。 人間の周り…
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