第4章 黄緑色の木馬に揺られ (美園エリカ編) 前編
冬。美園さんの危険な憧れはなくなったが、中二病はいまだに健在だ。獣の方も現れることはなく、平穏な日々が続いている。
僕も無事に退院をして、音楽室で作曲の練習をしている。
六郭星学園 音楽室
美園エリカ
「……………………。」
美園さんはフルートを奏でている。久しぶりに聞くが、やっぱりいつ聞いてもプロ級だ。
真瀬莉緒
「さすがですね。これならオーディションにもきっと受かりますよ。」
美園エリカ
「ふふふ……ありがとう。……色々とあって、遅れを取り戻そうとしたけれどなんとかなりそうね。」
真瀬莉緒
「オーディションは確か、投稿制度で声優さんとは直接は会わないんですよね。」
美園エリカ
「くっ……そうね……それが悔しいけれど……。」
真瀬莉緒
「美園さんはその声優さんのファンでしたよね。」
美園エリカ
「ええ、会いたかったけれど、声優さんに曲を提供できるというのは、嬉しいけれどね。」
真瀬莉緒
「そうですね。受かるように頑張りましょう!」
美園エリカ
「ええ、私たちの曲を歌ってもらえるように頑張りましょう!……あ。」
真瀬莉緒
「美園さん……?どうされました?」
美園エリカ
「歌詞の方はまだできてなかったわよね……。」
真瀬莉緒
「言われてみれば……。どうしましょうか?」
美園エリカ
「どうするも何も、簡単よ。私が作るわ。」
真瀬莉緒
「ええ!?美園さんが?」
美園エリカ
「……?何か問題あるの?」
真瀬莉緒
「あ、いえ……なんでもないです。」
美園さんの歌詞か……中二臭い歌詞だったらどうしようかと思ったが、僕は口にしないでおこう。
美園エリカ
「ふふふ……もしかして中二病臭い歌詞を作るとでも思ってる?」
真瀬莉緒
「ええ!?いや、そんなことは……。」
美園エリカ
「いいのよ。ただ、歌詞はちゃんとしたのを考えるから大丈夫よ。」
真瀬莉緒
「そ、そうですか……。わかりました。期待しています。」
美園エリカ
「ありがとう。この腕に期待しておいてね!」
真瀬莉緒
「もちろん。期待していますよ。」
美園エリカ
「それじゃあ今日は切り上げましょうか。」
真瀬莉緒
「そ、そうですね。では……そろそろ……。」
僕たちは切り上げようとしたそのとき……。
ギギ……ガガ…………。
真瀬莉緒
「えっ…………。」
ギギ……ガガ…………。
耳鳴り……?くっ……苦しい……!
ギギ……ガガ…………。
真瀬莉緒
「ぐっ……ああああ…………!」
美園エリカ
「真瀬さん!?大丈夫!?」
僕はその声で意識を失った。
六郭星学園 保健室
真瀬莉緒
「うっ……ううん……。」
ここは……?保健室かな?
辺りを見ると美園さんがいた。
美園エリカ
「大丈夫?」
真瀬莉緒
「美園さん……。なんか迷惑をかけちゃったみたいですね……。」
美園エリカ
「良いのよ。私たちの仲なんだから。無理しないでね。困ったときは頼って良いからね。」
真瀬莉緒
「美園さん……。ありがとうございます。」
美園エリカ
「その様子だともう大丈夫そうね。じゃあ、戻りましょうか。」
真瀬莉緒
「はい。今日はゆっくり休みます。ご心配をおかけしました。」
美園エリカ
「大丈夫。ゆっくり休んで。」
僕たちはそのままそれぞれの部屋へと戻って行った。
六郭星学園寮 莉緒・カルマの部屋
小鳥遊カルマ
「おう、おかえり。」
真瀬莉緒
「ただいま。」
小鳥遊くんとのやりとりはすっかり慣れてきた。
今はこうして、ただいまを言い合えるような仲にもなった。
小鳥遊カルマ
「今日はどうだった?美園との作曲練習は?」
真瀬莉緒
「良かったよ。相変わらず美園さんのフルートの音色は魅力的だよ。」
小鳥遊カルマ
「そうか……さすがだよ。美園のやつ。」
真瀬莉緒
「小鳥遊くん……。」
小鳥遊カルマ
「まあいい……とりあえずテレビでも見るか。」
そう言って小鳥遊くんはテレビをつけた。
たまたまついていたチャンネルのテレビ番組はゲーム番組だった。確かAクラスの人が憧れてここのスタッフになりたいと言っていたような気がする……。
小鳥遊カルマ
「この番組、意外と面白いな……。」
真瀬莉緒
「そうだね。あまり観てはいなかったけれど、なかなかの面白さだね。」
小鳥遊カルマ
「でも真瀬はメルマが好きなんだろ?」
真瀬莉緒
「まあね。確かにメルマは面白いし、心の拠り所ではあるけど、これとは次元が違うよ。」
小鳥遊カルマ
「それもそうか。まあ、この番組も違った面白さだからな。」
真瀬莉緒
「うん。そうだね。」
小鳥遊カルマ
「………………そういえば、今度の2月に期末テストがあるんだったな。」
真瀬莉緒
「あ!しまった……すっかり忘れていた……。」
六郭星学園のテストは1年に1回しか行われない。しかもそのテストは1年間に学んだものが出題範囲になっている……つまりはかなり膨大な範囲のテストが行われる。
真瀬莉緒
「大変だ……!勉強しないと!」
小鳥遊カルマ
「そうだな。俺もすっかり忘れていたよ……。互いに猛勉強しないとな。」
真瀬莉緒
「そうだね……。頑張らないと。」
数日後……
六郭星学園 Iクラス教室
真瀬莉緒
「すみません。こんなことに付き合ってもらって……。」
美園エリカ
「良いのよ。真瀬さんのためだもの。それに私もやばいかもしれないから……。」
櫻井シオン
「はいはい!やるよやるよ!」
シオンが仕切り、僕たちは勉強を始めた。
ちなみに霧宮さんはモデルの仕事で不在だ。
僕たちは色々な教科の勉強を行い、時に真剣に、時に雑談をしたりしながら勉強を進めていった。
そんなときに、こんな話題が繰り広げられた。
櫻井シオン
「そういえば私、手相が見れるの!気分転換に手相を見てあげる!」
美園エリカ
「ふふふ……面白そうね。じゃあ……。」
櫻井シオン
「手相って普段は左手を使うから包帯を外してね。」
美園エリカ
「なっ……仕方ないわね。」
美園さんは椅子から立ち上がって、ポーズをとった。
美園エリカ
「我が左腕よ……我の力を取り戻そう……!はああああああああああ!」
そう言って左腕の包帯を外した。
美園さんの左腕はとても白く、綺麗だった。
櫻井シオン
「なかなか白い肌!」
美園エリカ
「ふふふ……ありがとう。」
櫻井シオン
「よ〜し。どれどれ……?」
シオンは美園さんの手を見つめる。
櫻井シオン
「ほお……。恋愛運がありますな。」
美園エリカ
「恋愛運?」
櫻井シオン
「しかも結構な線ね。意外と近くに相手がいるかも!」
美園エリカ
「えっ、それって……?」
真瀬莉緒
「……………………。」
僕たちは互いに意識してしまう……。
櫻井シオン
「な、な〜んて。冗談よ!占いなんてハズレてなんぼなんだから!」
真瀬莉緒
「そ、そうだよね。はは、ははは!」
美園エリカ
「……………………。」
真瀬莉緒
「美園さん……?」
美園エリカ
「え、いや、なんでもないわよ。……そうよね。占いなんてハズレるものよね。……うん。」
真瀬莉緒
「美園さん……。」
櫻井シオン
「さ、この手相占いはおしまいにして、勉強に戻りましょう!」
シオンがそう言うと、仕事が終わったのか、霧宮さんが入ってきた。
霧宮ナツハ
「ふう……お疲れ。」
真瀬莉緒
「霧宮さんお疲れ様です。仕事終わったんですか?」
霧宮ナツハ
「ええ、無事にね。それよりもカメラマンさんから遊園地のチケットをもらったのよ。しかも4枚。私たち4人で行きましょう!」
真瀬莉緒
「良いんですか?」
霧宮ナツハ
「ええ、テストが終わったら行きましょう。」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。」
櫻井シオン
「楽しみね!そのためには勉強をしないと!」
真瀬莉緒
「そうだね。勉強……しないと。」
僕たちは勉強を必死に進めた。