第1章 白い包帯 (美園エリカ編) 後編
そんなことがあった放課後……美園さんから声をかけられた。
美園エリカ
「真瀬さん。ちょっと一緒に遊ばない?」
真瀬莉緒
「今日ですか……?構いませんが……?」
美園エリカ
「そう……良かった。それじゃあ屋上へ行きましょう。」
美園さんがそう言うと、屋上へ向かって行った。
僕もそのあとを追いかけるように屋上へ向かった。
六郭星学園 屋上
美園エリカ
「ここが屋上ね……。」
真瀬莉緒
「眺めが良いですね。」
屋上の風景はとても眺めが良く、そよ風が気持ちいい。人の出入りはあまりなく、人見知りな人にとってはおすすめなスポットではあるだろう。
美園エリカ
「お腹……空いてない?」
美園さんからそう言われた。そう言われてみれば確かに空腹感はある。
美園エリカ
「おにぎり食べない?」
真瀬莉緒
「おにぎり良いですね。」
そう言うと美園さんはおにぎりを僕に渡した。
美園エリカ
「はい、おにぎり。中身はほうれん草。」
真瀬莉緒
「ほ、ほうれん草ですか?これまたずいぶんと変わったおにぎりですね。」
美園エリカ
「ふふ……私はね。黄緑色が好きなの。だから緑系の食材を入れるのが好みなの。」
真瀬莉緒
「黄緑色ですか。良いですね、黄緑。僕も黄緑色は大好きですよ。」
美園エリカ
「ありがとう。黄緑色が好きって言う人はあまりいなくてね……この近くで言えば、カルマくらいね。カルマも黄緑色が好きでね。その点は気が合うんだけど……。」
真瀬莉緒
「そういえば……中二病患っているとか……。小鳥遊さんそう言ってましたね。」
美園エリカ
「良いじゃない。かっこいいじゃないの。左腕に宿る私の力を……甘く見ないでほしいわね!」
真瀬莉緒
「そういえば……その包帯は何でしているんですか?」
美園エリカ
「これは私の強力なパワーを封じるための魔法の包帯よ。わかるかしら?」
真瀬莉緒
「……ただの白い包帯にしか見えませんが……?」
美園エリカ
「失礼しちゃうわね。」
真瀬莉緒
「すみません……。」
美園さんは少しむすっとした表情を見せたが、すぐに戻り、おにぎりを食べ始めた。
美園エリカ
「ふふ……我ながらあっぱれね。」
どうやら味が良いのだろう。僕も一口食べてみる。とても美味しいおにぎりだった。
真瀬莉緒
「美味しいです。このおにぎり。」
美園エリカ
「ありがとう。私、こうして誰かにおにぎりを作ったのは初めてなの。喜んでもらえて良かったわ。」
真瀬莉緒
「初めてなんですか?それはそれは……。」
美園エリカ
「お世辞は良いのよ。まずはおにぎりを食べましょう。」
真瀬莉緒
「あ、そうですね。食べましょう。」
僕たちはほうれん草の入ったおにぎりを黙々と食べた。
真瀬莉緒
「ふう……美味しかったです。」
美園エリカ
「ありがとう。……それで、今日誘ったわけなんだけど……。」
真瀬莉緒
「はい……なんでしょうか?」
美園エリカ
「曲のコンセプトを決めておきたいと思ってね……。」
真瀬莉緒
「コンセプトですか……そうですね。何がありますかね……。」
美園エリカ
「私はフルートが吹けるからフルートを使った曲を作っていきたいわ。」
真瀬莉緒
「フルートですか……うーん……難しいですね。今のところは浮かぶものが見当たらないですね。」
美園エリカ
「そう……せっかく私のこの左腕の力を見せれるところだったのに……。」
真瀬莉緒
「…………美園さんはどうして中二病に?」
美園エリカ
「失礼ね。たしかに中二病の部類には入るけど……まあ、とあるものに憧れてね……」
真瀬莉緒
「とあるもの……ですか?」
美園エリカ
「まあこれは追い追い話すわ。」
真瀬莉緒
「その包帯のことにも関わるんですか?」
美園エリカ
「ううん。これはただかっこいいからつけているだけよ。」
真瀬莉緒
「そうなんですか?……外すとどうなるんですか?」
美園エリカ
「……外すとどうなるか……。我が左腕の力が解放されるのよ。」
真瀬莉緒
「腕の力ねぇ……。」
美園エリカ
「信じてないわね!見せてあげる我が左腕のチカラを!」
美園さんは左腕の包帯をほどく。
美園さんの左腕は…………特に変わりはなかった。
ただただ綺麗な純白の肌だった。
真瀬莉緒
「別に何も変わりはないじゃないですか。」
美園エリカ
「そうかしら……ふふふ……ふふふふ……!」
真瀬莉緒
「いや、ふふふって……。まあ……良いです。とりあえずフルートを使った楽曲を考えてみます。」
美園エリカ
「よろしくね。」
そう言ってその日は解散することになった。
フルートを使った曲……考えないと。
六郭星学園寮 莉緒・カルマの部屋
小鳥遊カルマ
「帰ってきたのか。おかえり。」
真瀬莉緒
「は、はい……。」
小鳥遊カルマ
「……ルームメイトなんだから少しはタメ口でもどうなんだ。」
真瀬莉緒
「う、うん……。」
小鳥遊カルマ
「……まあいいか。で?……どうだったんだ?美園とは?」
真瀬莉緒
「あ、うん、それで……。」
僕は美園さんとのやりとりを小鳥遊くんに話した。
小鳥遊カルマ
「なるほど……フルートか……。あいつの得意楽器だからな。」
真瀬莉緒
「難しいんだよ……フルートはあまり使うことがないから……」
小鳥遊カルマ
「そうか……。」
真瀬莉緒
「でもまあ、一応ではあるけれどこんなのはどうかなとは思うものはあるんだ。」
小鳥遊カルマ
「本当か!それ少し聞かせてくれないか?」
真瀬莉緒
「うん……構わないけど……。」
僕は部屋にあるピアノを使って今思いついている楽曲を演奏する……
演奏が終わると小鳥遊くんは笑みを浮かべていた。
小鳥遊カルマ
「やるじゃん。その曲なら文句なしだ。」
真瀬莉緒
「ありがとう。今がこれが精一杯かな?」
小鳥遊カルマ
「そうか……。」
小鳥遊くんは何かを考えている。考え込んだのち、あることを言った。
小鳥遊カルマ
「この曲を課題だけで済ますのはもったいないな。」
真瀬莉緒
「もったいないか……。でもどうするの?歌われる機会なんてあんまりないよ。」
小鳥遊カルマ
「そんなことはない。実は来年の2月に声優が出すCDの曲のオーディションが開かれるんだ。」
真瀬莉緒
「オーディションか……。ちなみにどの声優さんの?」
小鳥遊カルマ
「この声優。どうだ?期間は十分にあるぞ。」
真瀬莉緒
「オーディションか……でも、美園さんの意見も聞かないと……。」
小鳥遊カルマ
「それもそうだな。でもあいつ、この声優のファンだからな。この声優のオーディションがあると言ったらきっと喜んで参加するぞ。」
真瀬莉緒
「へえ、この声優さんのファンなんだ。美園さんもアニメ好きなんだな。」
小鳥遊カルマ
「ああ、だからもしよければオーディションの件は考えておいてくれ。……じゃ、俺はちょっと出かけるから、ゆっくりしておいてくれ。」
そう言い残して、小鳥遊くんは部屋から出ていった。
真瀬莉緒
「オーディションか……。」
そう呟いて僕は眠りについた。