第４章 黄色い写真を添えて (霧宮ナツハ編) 後編
六郭星学園 音楽室
僕たちは作曲の最終段階に入っていた。これでもかと言うくらい熱心な練習をしている。
恋のパートナーになってからは初めての練習ではあるが、上手く続いている。
真瀬莉緒
「ここがこうで、ここはこうしてください。」
霧宮ナツハ
「ええ、わかったわ。こうね……。」
霧宮さんのヴィオラはとても心地よい音色を響かせていた。
真瀬莉緒
「良い音色です……。霧宮さん。」
霧宮ナツハ
「ふふふ……ありがとう。」
真瀬莉緒
「この調子ならもうすぐで完成しそうです。」
霧宮ナツハ
「ええ、これなら大丈夫ね。それじゃあ、終わったら学食にでも行きましょうか。」
真瀬莉緒
「そうですね。ちょうど良い時間ですからね。じゃあ行きましょうか。」
霧宮ナツハ
「ええ。それじゃあ行きましょう。」
僕たちは練習を切り上げて学食へ行くことになった。
六郭星学園 食堂
食堂に行くと担任の神谷先生がいた。
神谷乙音
「おお！２人ともお疲れ様！」
真瀬莉緒
「神谷先生……！」
神谷乙音
「作曲は順調？私も楽しみにしているからね〜！」
霧宮ナツハ
「ありがとうございます。そう言っていただけるとありがたいです。」
神谷乙音
「あ、そういえばナツハ！シオンやエリカから聞いたわよ！無理して撮影してたんでしょ！」
霧宮ナツハ
「あ……。それは……すみません。」
神谷乙音
「先生はね。こんなんでも生徒の心配はちゃんとしているんだからね。必要があるならば、すぐに助けを求めて良いんだからね。」
霧宮ナツハ
「神谷先生……。」
神谷乙音
「さ、莉緒も座って。先生とご飯でも食べよう！」
真瀬莉緒
「あ、はい！」
僕と霧宮さんは神谷先生に言われるがままに食堂でご飯を食べながら、曲のことを話した。
神谷乙音
「そっかー！それじゃあもうすぐ完成するのね。ちなみに歌詞とかはできているの？」
真瀬莉緒
「歌詞ですか……？それは……。」
僕が少しうろたえていると……
霧宮ナツハ
「歌詞は私が作ります。どうしてもこの曲に書きたい言葉があるんです。」
神谷乙音
「ほおほお……。作りたい歌詞ねえ……。」
霧宮ナツハ
「この歌詞は今度の課題発表の時までには間に合わないですが、声優さんに見てもらう時までには間に合わせます。」
神谷乙音
「そっかー！じゃあ、莉緒はそれで良いの？」
真瀬莉緒
「僕ですか？僕は……。」
霧宮さんの作る歌詞……少し気になるな。期待してみよう。
真瀬莉緒
「はい。霧宮さんに託したいと思います。」
霧宮ナツハ
「莉緒くん……ありがとう。絶対に間に合わせるからね。」
神谷乙音
「よーし！それなら問題無し！それじゃあ２人の作曲した曲、楽しみにしているからね！」
真瀬莉緒
「は、はい。ありがとうございます。」
僕たちは神谷先生にお礼を言い、食事を終えてそれぞれの部屋へと戻った。
六郭星学園 莉緒・ノクアの部屋
風亥ノクア
「お、おかえり。どうだった今日は？」
真瀬莉緒
「今日はとても良かったよ。霧宮さんとの曲作りも順調に進んでいるよ。」
風亥ノクア
「そうか……それは良かった。」
真瀬莉緒
「それに……歌詞も霧宮さんが考えてくれることになったよ。」
風亥ノクア
「ナツハが？……そうか。ナツハならなんとかなるか。」
真瀬莉緒
「うん。どんな詞を書くかわくわくが止まらないよ。」
風亥ノクア
「そうだね。きっと良い歌詞を作るさ……きっとね。」
真瀬莉緒
「ん……？」
風亥ノクア
「なんでもないよ。さ、そろそろ寝なきゃね。」
真瀬莉緒
「あ、うん……おやすみ……。」
僕はノクアに少しだけ気になる間があり、疑問を抱いたが、夜も更けてきたため、僕も寝床に着くことにした。
六郭星学園 音楽室
あれから数日、僕たちの曲は……
真瀬莉緒
「できた……！僕たちの曲が！」
霧宮ナツハ
「ええ、これならきっと……！あの人も喜んでくれると思うわ！」
真瀬莉緒
「はい！やることは全てやり尽くしました。きっと気に入ってもらえると思います。」
霧宮ナツハ
「ええ……ここまで良くなるとは思わなかったわ。莉緒くん……ありがとう。」
真瀬莉緒
「……どういたしまして。」
六郭星学園 Ｉクラス教室
曲が完成して、僕たちはすぐさま神谷先生に音源を聴いてもらった。
神谷乙音
「すごいよ……！２人とも頑張ったね！」
真瀬莉緒
「ありがとうございます！」
霧宮ナツハ
「ありがとうございます。」
神谷乙音
「これならきっとみんなも喜ぶわ。本当に頑張った。それしか言えないわ。」
真瀬莉緒
「神谷先生……。」
神谷乙音
「って、見てるんでしょ。瑛久も。」
真瀬莉緒
「えっ……？柿本先生……？」
柿本瑛久
「あはは……ばれちゃったか。」
教室の前の廊下にいたのは柿本先生だった。霧宮さんはすかさず柿本先生にもどうだったのかを聞いていた。
霧宮ナツハ
「柿本先生……どうでしたか……？」
柿本瑛久
「えっ、あっ、いやその……。」
神谷乙音
「素直に感動したって言えば良いんじゃないの？」
柿本瑛久
「えっ、ああ……そうだよね。とても良かったよ。霧宮さん、真瀬くん。頑張ったね。」
真瀬莉緒
「あ……ありがとうございます。」
霧宮ナツハ
「ありがとうございます。」
柿本先生も褒めてくれた……
僕たちの完成した曲……みんなにも披露をするんだ……きっと、きっと喜んでもらえるだろう。
そして……運命の日が経った。
六郭星学園 大講堂
いよいよ、課題発表当日になった。課題はＫクラスから１ペアずつ発表していき、そこからＪクラス、Ｉクラスといき、Ｓクラスと回っていく。１ペアずつなので３日間に分けて発表をしていく。
そして今日はＩクラスが発表していく。
Ｉクラスのトップを飾ったのはシオンのペアだ。
シオンのペアは戦国武将の甲冑を再現した模型を作った。
浅越ハルト
「櫻井のやつ……こんなものを作りやがって……。」
浅越さんも少し驚いた様子が見れた。
中盤に入ると次は美園さんのペアが発表の時間になった。
美園さんのペアはマジックショーを披露した。
小鳥遊カルマ
「ふん……なかなかやるじゃないか。」
小鳥遊さんが認めるほどと言うことはなかなかの実力なのだろう。
そして終盤に入る……そしてＩクラスのトリを飾ったのは僕たちだ。
真瀬莉緒
「いよいよですね。僕たちの練習の成果が……」
霧宮ナツハ
「ええ……今わかるわ。でもきっと大丈夫よ。……ねぇ、これ。」
真瀬莉緒
「これは……。」
霧宮さんが渡してきたのはこの間撮った、黄色い背景の写真だった。
霧宮ナツハ
「覚えているかしら？最初はあまり知らない人だったのに、今はこの写真のように仲良くできて……ついには恋人にもなって……。」
真瀬莉緒
「ええ、あの頃の自分はこうなるとは思いませんでした。」
霧宮ナツハ
「今ならこう言えるわ。莉緒くんに出逢えて良かったって。」
真瀬莉緒
「霧宮さん……。僕も出逢えて良かったです。」
霧宮ナツハ
「行こう。今の私たちならこの曲を最高の曲にできるわ。」
真瀬莉緒
「はい！行きましょう！」
霧宮ナツハ
「ええ！」
僕たちはピアノとヴィオラの前に立ち、準備をする。
そして――合図をして、演奏を始める……
曲が終わる……みんなの反応は……？
男子生徒Ａ
「す、すげえ……」
女子生徒Ｂ
「こ、これはすごいわ……！」
男子生徒Ｃ
「やるじゃねえか！さすがだぜ！」
全員から拍手喝采が止まらない。僕たちはみんなにも喜んでもらえる曲を作れたんだ。
神谷乙音
「………………。」
柿本瑛久
「あ……はいっ。ハンカチ。」
神谷乙音
「……ありがとう。」
ステージから降りた僕たちは喜びを分かち合った。
霧宮ナツハ
「莉緒くん！やったわね！」
真瀬莉緒
「はい！霧宮さん！やりましたよ！この感触なら……きっと、声優さんにも喜んでもらえますよ！」
霧宮ナツハ
「ええ……歌詞もできているわ。今度の水曜日に打ち合わせがあるからそこであの人がどう思うかわかるわ。」
真瀬莉緒
「はい……期待して待ちましょう！」
霧宮ナツハ
「ええ。きっと大丈夫よ。……きっとね。」
そして……打ち合わせの日の水曜日になった。
某所 会議室
打ち合わせの日。僕たちは某所の会議室にいた。
真瀬莉緒
「いよいよですね……。」
霧宮ナツハ
「ええ、大丈夫よ。みんなの反応を見たでしょう？あの反応なら問題ないわよ。」
真瀬莉緒
「そうです……よね。」
すると、会議室のドアが開く。そこにはマネージャーさん、そして声優さんがいた。
声優さんたちが入るやいなや僕たちは立ち上がった。
霧宮ナツハ
「お久しぶりです。隣の子は真瀬莉緒と言います。」
真瀬莉緒
「真瀬莉緒と言います。よろしくお願いいたします。」
僕は一礼をすると声優さんも礼を返してくれた。
そして、座ると早速、本題に入ることになった。
声優さんは曲はどうかと聞いてきた。
霧宮ナツハ
「はい。曲の方ですが、こうなっております。」
霧宮さんは迷いなく淡々と答えていく、その表情はかなり真剣で、モデルの撮影以上の時より真剣だった。
霧宮さんと声優さんの話し合いはとてもスムーズに進んでいる。
霧宮ナツハ
「曲の方はこちらになります。聞いてください。」
僕たちはデモテープを声優さんに聴いてもらった。
曲が流れているときの声優さんはとても穏やか表情で聞いていた。
曲が流れ終わる。声優さんの評価は……？
霧宮ナツハ
「どう……ですか？」
声優さんの顔を見ると……。
とても良い表情だった。そして……
霧宮ナツハ
「歌詞はこちらになります。よろしくお願いいたします。」
声優さんはじっくりと歌詞を見ている……そして……
歌詞見終えると、声優さんからＯＫがもらえた。
霧宮ナツハ
「あ、ありがとうございます！」
真瀬莉緒
「ありがとうございます！」
声優さんは曲をとても褒めてくれた。こちらこそありがとうと、そう言ってくれた。
そのあとは世間話をして、しばらくしてから解散となった。
帰り道
真瀬莉緒
「良かったですね！」
霧宮ナツハ
「ええ、本当に嬉しい。私たちの曲が世の中に広まるのは……！」
真瀬莉緒
「みなさん気に入ってもらえると嬉しいですね。」
霧宮ナツハ
「そうね。きっと気に入ってもらえるわ。」
真瀬莉緒
「確か今度の木曜日でしたよね。」
霧宮ナツハ
「そうよ。その日に私たちの曲がお披露目になるのよ。」
真瀬莉緒
「楽しみですね。」
霧宮ナツハ
「ええ、今からわくわくするわ！」
真瀬莉緒
「はい……どうなるのか……今から楽しみです！」
そして……数日後。
六郭星学園 大講堂
ＳクラスからＫクラスまで全クラスの生徒がずらりと並ぶ。
神谷乙音
「ただいまより、六郭星学園卒業式を行います。」
卒業式が始まる。１年間ではあるが、このクラスに出会えてよかったと実感する。
１人１人名前が呼ばれていく。
神谷乙音
「真瀬莉緒。」
真瀬莉緒
「はい。」
始めに男子が呼ばれる……そして、みんなの名前もそれぞれ呼ばれる。
神谷乙音
「霧宮ナツハ。」
霧宮ナツハ
「はい。」
神谷乙音
「櫻井シオン。」
櫻井シオン
「はい。」
神谷乙音
「美園エリカ。」
美園エリカ
「はい。」
そうか……卒業するんだ……。そう思うと悲しみに溢れていく……
神谷乙音
「以上で卒業式を終了いたします。」
そして、あっという間に卒業式が終わる。
本当にあっという間だった。卒業式も学校生活も。
ただ……唯一の救いは……。
櫻井シオン
「みんな同じ大学に進学するんだね！」
霧宮ナツハ
「ええ、しかもこの間のテストの上位５０人が全員一緒って……。」
美園エリカ
「ふふふ……まさに奇跡に近いわ……！」
そう。僕たちは同じ大学に進学することになった。
櫻井シオン
「それより、莉緒とナツハの曲が発表されるんでしょ？楽しみね！」
真瀬莉緒
「うん、今週の木曜日にね。」
美園エリカ
「楽しみね……期待しているわ。」
霧宮ナツハ
「ふふふ……ありがとう。」
真瀬莉緒
「楽しみにしていてください！」
美園さんとシオンにそう言われて僕はさらに自分に対して期待が高まってきた。
そして……
六郭星学園 寮 莉緒・ノクアの部屋
真瀬莉緒
「いよいよだ……。」
風亥ノクア
「いよいよだね。発表の時が。」
真瀬莉緒
「うん。僕と霧宮さんの曲が初めて世に広がるよ。」
今日はここに霧宮さんが来る。ノクアは霧宮さんが来たら別の部屋に行く段取りだ。
真瀬莉緒
「そろそろ来るかな？」
そうしているうちに部屋のドアが開く。そこには霧宮さんがいた。
霧宮ナツハ
「お待たせ。」
風亥ノクア
「じゃあ俺は出るから……ナツハ。」
霧宮ナツハ
「……？」
風亥ノクア
「楽しんで。」
霧宮ナツハ
「……ええ、ありがとう。」
ノクアはそう言われるとすぐに部屋から出て行った。
霧宮ナツハ
「さて、そろそろ始まるわね。」
霧宮さんはテレビをつけた。
するとすぐに声優さんの出る番組が始まった。
そして――声優さんの出番が回る。
ＭＣ
「それではお願いいたします！」
女性声優
「この曲に込めた彼女の想いを……歌わせていただきます！」
そう言うと僕たちが作ってきたメロディーが流れる……
曲が終わる……僕たちはやったんだ……。
……けれど、歌詞を聞いて少しだけ霧宮さんに疑問に思っていた。この歌詞の意味って……もしかして……。
霧宮ナツハ
「ねえ……莉緒くん。私たちってさ、恋人だよね。」
真瀬莉緒
「そうですよ。それが……？」
霧宮さんは僕の手を握り僕の目を見てこう言った。
霧宮ナツハ
「ねえ……名前を言って。ずっと思っていた。恋人なのに、そんな仰々しいなんて……私……嫌。」
真瀬莉緒
「霧宮……さん。」
霧宮ナツハ
「ねえ、お願い。私の名前を言って。」
真瀬莉緒
「…………。」
僕は考えることなんてないんだ。霧宮さんに言われたんだ。理由いらない。
真瀬莉緒
「ごめん……ナツハ。」
霧宮ナツハ
「いいの……それでいいの。」
真瀬莉緒
「好きだよ。ナツハ。」
霧宮ナツハ
「私も……莉緒。」
僕たちは思い切り抱きしめ合った。
虹谷アヤ
「彼女は違うのね……すると他の誰かかしら……？他を当たりましょう……。」
霧宮ナツハ編 完
