第3章 茜空での約束 (来川ナナ編) 後編
六郭星学園 音楽室
あれから数日。僕たちは作曲に取り掛かっている。創作ダンスの方はほぼ全て完成をしている。あとは作曲をどこまでアレンジできるかのところまで来ている。
真瀬莉緒
「ここをこうして……そう。そこを……。」
来川ナナ
「はい……。」
来川さんはピアノを丁寧に弾きこなす。ピアノの腕は確かなものだ。
真瀬莉緒
「ピアノ……上手ですね。」
来川ナナ
「あ、ありがとう。」
真瀬莉緒
「……………………。」
来川ナナ
「……………………。」
タイミングが悪かったのか、ちょっとだけ無言が続いた。
すると来川さんがふとこんなことを言った。
来川ナナ
「ねえ、たまにはどこかに行かない?」
真瀬莉緒
「どこか……ですか?」
来川ナナ
「ええ、ここ最近は2人でいることないから、どこかに行かない?」
真瀬莉緒
「そうですね……。」
曲もだいたいは完成に近いから……まあ、たまには良いだろう。
真瀬莉緒
「そうですね!行きましょう……!」
来川ナナ
「じゃあ早速行きましょう!」
そうせかされて僕たちはボウリング場に向かった。
ボウリング場
真瀬莉緒
「あの……僕、ボウリングやったことないんですけど……」
来川ナナ
「本当に!?……じゃあ教えてあげる!」
来川さんに目を丸くしながら驚かれた。相当なことなのだろうか?
やったことはないものの、まずはボウリングの玉を持ってくる。
持ってくるとまずは来川さんが薄茶色の玉を投げる。
来川ナナ
「えい!」
声を出すと同時にボウリングの玉を投げる。ボウリングの玉はピンを全て倒した。
来川ナナ
「やったわ!ストライクよ!」
来川さんはストライクを出した。僕もストライクを出したいが上手くいくだろうか?
来川ナナ
「さ、次は莉緒くんの番よ。」
真瀬莉緒
「はい……。」
僕はボウリングの玉を投げる。
しかし、ボウリングの玉はピンに当たることはなかった。
真瀬莉緒
「ガターか……。」
来川ナナ
「諦めちゃダメ!もう1回投げてみましょう!」
そう言われて僕はもう1回投げる。
またボウリングの玉はピンに当たらなかった。
来川ナナ
「大丈夫!私がついているから!頑張って!」
来川さんは一生懸命に僕を応援してくれた。
僕が何度もガターを出しても、応援してくれた。
来川ナナ
「フレー!フレー!り・お・くん!」
必死になって応援をしてくれている……期待に応えないと!
僕は思い切ってボウリングの玉を投げる。すると……真ん中を転がっていった。
真瀬莉緒
「…………!!」
そして……ボウリングのピンは全て倒れた。
真瀬莉緒
「やった……!ストライクだ!」
来川ナナ
「莉緒くん!おめでとう!」
来川さんは僕がストライクを出したことを自分のことのように喜んでくれた。
真瀬莉緒
「ありがとうございます!」
来川ナナ
「良いのよ。これは莉緒くんが頑張った証拠よ。……さあ!ここからは負けられないわよ!」
真瀬莉緒
「望むところです!」
その後、来川さんとボウリングで勝負することになり……結果は……言うまでもなく、来川さんの勝ちだったが、僕とスコアがあまり変わらなかった。
僕はそのスコアを見てとても嬉しくなった。
真瀬莉緒
「これが……僕の結果……!」
来川ナナ
「ふふ……おめでとう!」
真瀬莉緒
「ありがとうございます!」
来川さんは僕の結果におめでとうと言ってくれた。僕はボウリングがとても楽しいものだと初めて思った。
六郭星学園 屋上
ボウリングから戻り、僕たちは汗だくの身体を学園の屋上で涼むことにした。
涼むだけではなく、何か会話をしないとと思い、僕は口を開けた。
真瀬莉緒
「今日はとても楽しかったです。ありがとうございます。」
来川ナナ
「何にもだよ。こちらこそありがとう。」
真瀬莉緒
「あはは……。」
僕は何も言えず愛想笑いをしてしまった。
すると来川さんは僕の心臓をドキドキさせることを言った。
来川ナナ
「ねえ……莉緒くんはさ……好きな人……いる?」
真瀬莉緒
「好きな人……ですか?」
来川ナナ
「シキアとか……ミカとか……クラスメイトとかでいる……?」
真瀬莉緒
「…………いないかな?」
来川ナナ
「そう……。」
真瀬莉緒
「来川さん……?」
来川ナナ
「私ね……実は好きな人ができたの。」
真瀬莉緒
「えっ……?本当ですか?」
来川ナナ
「うん。その人はね……鈍臭いところはあるけど、天然でもあるけど、とても優しい人なの。それでね……なによりも周りの人のことを考えてくれるの。」
真瀬莉緒
「そうなんですね……。」
来川ナナ
「その人はいつも私の隣にいてくれた。そして、私の好きな色のことを否定しなかったの。」
真瀬莉緒
「…………えっ…………。それって……。」
来川ナナ
「私……………………莉緒のことを好きになったの。」
真瀬莉緒
「来川……さん…………。」
来川ナナ
「今はまだ付き合う付き合わないとかの答えはいらない。でも卒業するまでには答えをください。」
真瀬莉緒
「………………。」
来川ナナ
「莉緒……これからもよろしくね。」
真瀬莉緒
「わかりました。答えは卒業までにはしっかりとお応えします。」
来川ナナ
「ありがとう……。」
真瀬莉緒
「じゃあ……そろそろ……戻りましょうか……。」
来川ナナ
「ええ。」
六郭星学園 寮
部屋に戻ると僕は考え込んでしまった。
来川ナナ
「私……………………莉緒のことを好きになったの。」
真瀬莉緒
「……………………。」
僕はその言葉が頭に焼き付いてしまっている。
…………けれど僕は来川さんの気持ちに応えられるのだろうか……。
僕は悩み出してしまった……しばらくすると……
ギギ……ガガ……
な……なんだこの耳鳴り……!?
ギギ……ガガ……
真瀬莉緒
「が……苦しい……!」
苦しくなり……意識が遠のいていく……。
目が覚める。
僕は床に倒れ込んでいた。
真瀬莉緒
「一体なんだったんだろう……。」
僕は不思議に思うままひとまず布団に潜り込んだ……。
夜坂くんがいない部屋は静かではあるが今日は一段と静かな空間に感じる……
真瀬莉緒
「来川さん……。」
僕は考えこみながら眠りへとついた。
六郭星学園 Kクラス教室
翌日……僕たちは創作ダンスの練習の続きをしている。
来川ナナ
「ここはそうして……。そう!そんな感じ!」
古金ミカ
「ナナ様〜。ここは?」
来川ナナ
「そこはソロパートのダンスだけど、あまりにも過激なものは禁止だからね。」
古金ミカ
「はいはい。」
星野シキア
「やろうとしていたのね……。」
僕たちは色々と練習重ねながらわきあいあいと続けていた。
真瀬莉緒
「…………。」
星野シキア
「…………?莉緒…………?」
真瀬莉緒
「あ、いえ……すみません。」
古金ミカ
「お?これはもしやの考えごとですな?」
真瀬莉緒
「あ、いや……その……。」
来川ナナ
「…………。」
真瀬莉緒
「すみません……。」
来川さんの視線が強く……謝るばかりだ。
来川ナナ
「莉緒……大丈夫だからね。さ、続けましょう。」
真瀬莉緒
「は、はい!」
慌てながらも僕はしっかりと練習をしようと思った……その時、笛花先生が、やってきた。
笛花奏
「真瀬さん。来川さん。来川医療センターの方から連絡があったわ。今すぐ来てくださいとのことよ。」
真瀬莉緒
「え、医療センターからですか?」
笛花奏
「ええ、詳しいことは聞いていないけれど、急いで行った方がいいかもしれないわ。」
来川ナナ
「わかりました。今すぐ行きます。」
僕たちは創作ダンスを切り上げて来川医療センターの方に向かった。
来川医療センター
来川ナナの父親
「…………。」
診察室に入ると来川さんのお父さんが何も言わずに考え込んでいた……。
来川ナナ
「お父さん……?」
来川さんがそう言うと来川さんのお父さんが重たい口を開く。
来川ナナの父親
「夜坂くんのことなんだが……目は覚ましたんだ。」
来川ナナ
「ケントが!?」
来川ナナの父親
「ああ……けれど……まぁ直接見た方が早いだろう……」
そう言われると僕たちは夜坂くんの病室に向かう。
来川医療センター ケントの病室
夜坂ケント
「………………。」
来川ナナ
「ケント……!?」
夜坂くんは目を覚ましてはいる……けれど、生気がまるでないくらい沈黙が続いている。
僕は夜坂くんが戻るのを諦めようかと思ったとき……
来川ナナ
「ケント……。」
来川さんは夜坂くんの手を握る。
来川ナナ
「ケント……また同じことを言うかもしれないけれど、私たちは文化祭で創作ダンスを踊るの。だから……だから……あの薄茶色のハチマキで応援して欲しいの。だから……待っているから……。」
そう言うと来川さんは病室を出ていった。
僕も後を追うように病室を後にした。
病室前の廊下では来川さんが待っていた。
真瀬莉緒
「来川さん……。」
来川ナナ
「莉緒……私、ケントのことも待っているから。だから……頑張ろう。創作ダンス。」
真瀬莉緒
「………………そうですね。頑張りましょう!」
僕はもう1度。――もう1度信じよう。僕たちは夜坂くんに見てもらうために、創作ダンスに取り組んだ……そして…………。
六郭星学園 文化祭当日
いよいよ文化祭当日になった。僕たちは体育館で準備をしていた。
来川ナナ
「みんな、準備はいい?今までの練習の成果……見せるわよ!」
クラスメイト
「おー!!」
そして……創作ダンスを僕たちは踊る……
曲が終わり、僕たちに温かい拍手を見ていた人たちからもらえた。
結局……夜坂くんは来なかった……
と思ったら……。
星野シキア
「あら……?あそこにいるのはケントじゃないの?」
来川ナナ
「え……あ!ケント!!」
体育館のステージの1番奥に夜坂くんがいた。薄茶色のハチマキを頭につけて……。
来川ナナ
「ケント……!」
僕たちは創作ダンスを見ていた人たちに一礼をして、すぐに夜坂くんのところへと向かった。
すぐ近くにいくと……来川さんが開口一番に声をかけた。
来川ナナ
「ケント……?」
夜坂ケント
「…………。」
僕たちは連れてこられただけか……そう思ったとき……!
夜坂ケント
「来川……莉緒……すまなかったな。色々と。」
来川ナナ
「ケント!!」
僕たちはホッとした。無事に夜坂くんが元に戻って来てくれたことに。
隣にいた鹿崎先生がさらに嬉しいことを伝えくれた。
鹿崎咲也
「夜坂は来週には退院できるとのことだ。来川……真瀬……ありがとうな。俺の生徒を。」
僕たちはとても安堵した。
これからは夜坂くんも学園生活を送れるんだ。
来川ナナ
「莉緒……ありがとうね。」
真瀬莉緒
「いえ……こちらこそ……。」
創作ダンスも、夜坂くんのことも無事に解決し……来川さんとの作曲作りも最終段階に近づいている…………!