第3章 茜空での約束 (来川ナナ編) 前編
秋。来川さんの本当の意思がわかり、僕はそれに応えるかのように作曲をする。
一方で来川さんの方でも創作ダンスをやっている。そこも順調に進んでいる。
真瀬莉緒
「よし。これで準備はできたぞ。」
僕は何をしているかと言うと、創作ダンスで使う曲を僕らが作っている曲にすることにしたからだ。
これは来川さん自身の提案で、他のみんなもそれに賛成してくれた。
真瀬莉緒
「これをみんなに聞いてもらおう。」
僕は教室へ向かおうとしたとき……大きな爆発音と共に眩い光が辺りを包み込んだ。
真瀬莉緒
「な……なんだ!?」
光がなくなるとそこには1人の女性が立っていた。
真瀬莉緒
「あ、あなたは……?」
虹谷アヤ
「どうも、真瀬莉緒さんですね。私は虹谷アヤ(にじや あや)。よろしくね。」
真瀬莉緒
「は、はあ……。」
急に現れた人はそう言った。何が目的なのだろうか。
虹谷アヤ
「早速だけど、来川ナナさんいるわよね。彼女を連行させるから。」
真瀬莉緒
「れ、連行?何故ですか!?」
虹谷アヤ
「彼女はある容疑がかかっているの。それでもあなたは止めるのですか?」
真瀬莉緒
「容疑か何かは知りませんが、来川さんに危害を加えようとするのは許せません。」
虹谷アヤ
「…………。」
真瀬莉緒
「どうか、お引き取りをお願いいたします。」
虹谷アヤ
「仕方ないわね。でもあなたが後悔するだけですよ。」
そう言って再び光が照らされ虹谷という人は消えていた。
真瀬莉緒
「一体なんだったんだ……?まあいいや、とりあえずみんなのところに行こう。」
六郭星学園 廊下
みんなのところに行くため学園の廊下を歩いていると、男女が揉めている光景が目に入った。
??
「あなたがいると迷惑なの。やめてくれる?」
??
「………………。」
よくみるとあそこにいるのは綿垣キョウゴ(わたがき きょうご)くんと錦戸アケミ(にしきど あけみ)さんだ。
錦戸アケミ
「……今日はもういいわ……。帰る。」
綿垣キョウゴ
「……また、死にかけるぞ。」
錦戸アケミ
「うるさい!!」
おっかないな……目をつけられないように気をつけよう……僕は急いで教室に向かった。
六郭星学園 Kクラス教室
教室に着くとみんなが待っていた。待たせるわけにもいかないので、僕は早速、創作ダンスに使う曲を流した。
星野シキア
「へえ……良い曲じゃない。」
古金ミカ
「たまらない曲ね!これなら踊りたくなるねー!」
良かった……みんなからはお墨付きをもらえた……作った甲斐がある。
来川ナナ
「莉緒のおかげで良い曲が作れたね。」
真瀬莉緒
「ああ、でもこれからだよ。ここから創作ダンスを作らないと!」
そう、まだ創作ダンスが終わっていない。まずはそこから作らないと。
古金ミカ
「よーし!ではこんなのはどうでしょうか!?」
古金さんは軽快なステップで踊りを見せた。
古金ミカ
「ナナ様!どうなの?いい感じ?」
来川ナナ
「うーん…………良いけど、みんなで踊るとなるとやっぱりそのダンスは厳しいと思うわ。みんなで踊る用のダンスを作らないと。」
古金ミカ
「そっかー……それなら仕方ないね。」
来川ナナ
「はい。でもそう言う意見は必要よ。他に意見がある人がいたら教えてください!」
男子生徒A
「はい!ここはボックスとかはどうかな?」
女子生徒B
「はいはい!ここのパートでソロダンスとかはどう?」
クラスメイトのみんなは次々と提案をしていく。来川さんはそれに応えるかのように試行錯誤を重ねていった。
来川ナナ
「そこはね……ボックスは入れない方が良いかな……ソロパートはここのパートの方が良いかもね。」
来川さんはクラスメイトの意見についてしっかりと向き合っている。色々とあったことを思うとかなりの成長が見られている。
来川ナナ
「よし!これで行こう!みんな、頑張りましょう!」
クラスメイトたちはそれに応えるかのように「おー!」と答えた。
その直後、Kクラスのドアが開く。
柊木アイ
「失礼します!すみません!来川さんはいらっしゃいますでしょうか!?」
そこには姉さんのクラスメイトの柊木さんがいた。
来川ナナ
「あ、はい。いますけど……?」
柊木アイ
「あの……ケントくんが目を覚ましました!」
夜坂くんが目を覚ました……!?
来川ナナ
「そ、それでお父さんはなんて……?」
柊木アイ
「それが……至急、莉緒くんと来て欲しいとのことで……。」
僕と一緒に……?
来川ナナ
「わ、わかりました。……けれど、今は……。」
古金ミカ
「ナナ様大丈夫!私たちに任せて!」
星野シキア
「ええ、私たちがなんとかするから。今すぐ行ってあげて。」
来川ナナ
「わかった……ありがとう!行くわよ莉緒くん!」
来川さんは2人にお礼を言って医療センターに向かった。
来川医療センター
医療センターに来た僕らは来川さんのお父さんに話を聞くことにした。
来川ナナの父親
「…………夜坂くんのことだが……。やはり例の研究の実験台にされていたらしい。」
僕はそれを聞いて、言葉を失った。まさか……自分の周りの人間がこんなことに……。
来川ナナ
「それで……ケントは助かるの?」
来川ナナの父親
「ああ……そこが問題なんだ。」
来川ナナ
「問題って……?」
来川ナナの父親
「既に手術は成功している。……しかし、目を覚ましたと言ってもまた意識を失ってしまっているんだ。」
来川ナナ
「ケントが……また意識を失ってる……?」
来川ナナの父親
「おそらくだが、研究よりも何かで苦しんでるのかもしれない。こればかりは夜坂くん自身の問題になってくるんだ。」
来川ナナ
「そんな……!」
来川ナナの父親
「ただ1つ。1つだけ方法がある。」
真瀬莉緒
「…………!?」
僕はその言葉でやっと我に帰った。
来川ナナ
「その方法って……?」
来川ナナの父親
「電気ショックで無理矢理起こす。ただし、それは何かしらの症状は残ってしまう。あまりおすすめはできない……。」
来川ナナ
「…………そうね……。ケントが目を覚ましてくれるのを待つしかないわね……。」
真瀬莉緒
「夜坂くん…………。」
夜坂くんはぶっきらぼうな性格ではあるけど、本当に仲が良い人とは楽しく接してくれる。例えば……
数ヶ月前…… ビリヤード場
夜坂ケント
「来たな、ビリヤード場。」
真瀬莉緒
「うん。それで?勝負するんだっけ?」
夜坂ケント
「ああ、ルールはフリープレイ。玉を多く穴に落とした方が勝ちだ。」
真瀬莉緒
「わかったよ。それじゃあ……やるか。」
夜坂ケント
「ああ、ビリヤードの腕、見せてもらうぞ。」
僕たちのビリヤード勝負……勝ったのは……!
ビリヤード勝負。勝ったのは僕だった。
夜坂ケント
「負けか……。」
真瀬莉緒
「夜坂くんもとても強かったよ。」
夜坂ケント
「お世辞はいい。……でも、楽しかったな。」
真瀬莉緒
「うん。でも始めたばっかりだよ。もう1ゲーム……やるでしょ?」
夜坂ケント
「ああもちろん。まだまだこれからだ!」
そんなこともあったなと思っているうちに医療センターの外はすっかりと茜色の空になっていた。
来川ナナの父親
「何か夜坂くんに言うことはあるか?」
来川ナナ
「そうね……。」
来川さんは夜坂くんの手を握り、こう言った。
来川ナナ
「ケント……約束。今度の文化祭で私たち創作ダンスをするの。そのダンスを見に来てほしいの。」
真瀬莉緒
「………………。」
来川ナナ
「その文化祭で創作ダンスの応援をしてほしい。お願い……これをつけて……目を覚まして欲しい!」
来川さんは薄茶色のハチマキを夜坂くんの寝ているベッドの横に置いた。
来川ナナ
「そのハチマキで……応援団として来て欲しい……お願い……。待っているから。」
そう言うと来川さんはそこから離れていった。
真瀬莉緒
「夜坂くん……僕も待っているから……。」
僕もそう言い残し、来川さんの後を追いかける。
来川医療センター前の公園
来川さんは公園にいた。僕は一緒にベンチに座ろうと来川さんをベンチに促して座った。
来川ナナ
「…………。」
真瀬莉緒
「…………。」
互いに無言が続く…………。
口を開いたのは来川さんの方だった。
来川ナナ
「ねえ……莉緒くんは……薄茶色は好きって変だと思う?」
真瀬莉緒
「薄茶色ですか……?」
来川ナナ
「私ね、前に友達とケンカをしてその子が交通事故で亡くなったって話を言ったっけ。……あ、お父さんが言ったわね。」
真瀬莉緒
「……そうでしたね。」
来川ナナ
「そのケンカした理由はね……薄茶色なの。その友達は薄茶色なんて、いらないって言ってね。私の好きな色だったから、それで怒っちゃって……。」
真瀬莉緒
「そうだったんですか……。」
来川ナナ
「薄茶色が好きって……変かな?」
真瀬莉緒
「変じゃないと思います。」
僕は即答で答えた。
真瀬莉緒
「変なんかじゃないです。赤や青みたいに有名な色ではないかもしれないですが、薄茶色にもちゃんとした意味のある色なんです。好きな色に否定される要素なんてないです。」
僕が言うと来川さんは少し笑みを浮かべた。
来川ナナ
「…………ありがとう。そう言ってくれたのは2人目。」
真瀬莉緒
「そうなんですね。……ちなみに1人目は?」
来川ナナ
「1人目はケント。ああ見えて、ケントは薄茶色が好きなの。それであのハチマキの色も薄茶色なの。」
真瀬莉緒
「そうだったんですね。」
来川ナナ
「よし。じゃあ……薄茶色を変な色と言わなかった莉緒くんとも約束。」
真瀬莉緒
「約束……?」
来川ナナ
「ええ……約束は私と一緒にケントが必ず聞いてくれる曲を作るのと、その曲がその声優さんに歌ってくれるそんな曲にすること。」
真瀬莉緒
「来川さん……!」
来川ナナ
「莉緒くん……約束!」
真瀬莉緒
「わかりました!夜坂くんが目を覚ますような曲かつ、声優さんが歌ってくれる曲を作りましょう!」
来川ナナ
「莉緒くん!ありがとう!」
僕たちはその約束を守るため指切りをした。
外はすっかりと茜空になっていた。
茜空での約束は絶対に守ろう……そう誓った。
そう誓い、僕たちは六郭星学園に戻ることにした。
来川ナナ
「莉緒くん。帰ったら、早速練習しましょう。」
真瀬莉緒
「もちろんです!頑張って良い曲を作りましょう!」
僕たちはその日は夜まで曲の練習をして、自分の部屋に戻った。




