第3章 茜色の夕焼けで(春井リカコ編)前編
秋。春井さんとの楽曲作成は順調だ。けれど、春井さんの冷酷な態度は相変わらずだ。ここ最近は僕に対しては冷たい態度をとることは少なくなったが、ほかの人に対する態度は厳しい。なぜだかわからないが…………。
六郭星学園 音楽室
春井リカコ
「そこ…………。フレーズを変えた方が良いわ。」
真瀬莉緒
「だったら、ここはこうした方が良いですね。」
僕は当初、春井さんに怖気づいてしまうことはあったが、今はあまりそんなことはなく、色々と提案をすることが多くなった。
春井さんも僕の提案に、渋々ながらも協力してくれる。
今日も僕が春井さんに練習をお願いしたところ、春井さんも承知してくれた。
真瀬莉緒
「そろそろ休憩しますか。」
春井リカコ
「そう…………まあ、良いわ。食堂に行きましょう。」
真瀬莉緒
「そうですね。行きますか。」
僕たちは食堂に向かうことにした。
六郭星学園 食堂
食堂に行くと、周囲の人が春井さんを見ている。確かに色々と問題はある人だ。この間も女子生徒を泣かしたことがあった。
名雲メイ
「リカコ。こっち来たら?」
偶然、名雲さんと夏目さんが食堂にいたので、僕たちは名雲さんのいる席に座る。
姉さんのクラスの薮本さんと初杉さんもいる。なんだか久しぶりな気がする。
薮本さんは食事が終わったのか、携帯ゲーム機で遊んでいる。
初杉ジロウ
「相変わらずゲームをしているね。好きなんだね。」
薮本マサキ
「まあ…………どうしても必要なスキルだからね。」
名雲メイ
「夢を追いかけるのは素敵なことよ。頑張って。」
薮本マサキ
「ありがとう。メイも頑張って。でも、その量はちょっとどうかと思うけど…………。」
名雲メイ
「そう?体重を維持するのにも必要なことよ。」
夏目ホノカ
「そうはいっても、やせ過ぎは健康によろしくないですよ。」
名雲メイ
「…………考えておく。」
春井さんはただただ、話を聞いていた。何も言わずに。
真瀬莉緒
「春井さん…………?」
春井リカコ
「何よ。」
真瀬莉緒
「いえ…………何も。」
春井リカコ
「……………………。」
夏目ホノカ
「春井さん。私たちは友達です。無理に抱え込まないでくださいね。」
春井リカコ
「友達なんて…………。そんな…………。」
春井さんはうろたえる。珍しく動揺しているのは気のせいだろうか。
春井リカコ
「そんなこと言わないで!」
大きい声でそう叫んだ。
周囲の目が僕たちの方へ向けられる。
夏目ホノカ
「春井さん…………。」
春井リカコ
「……………………。」
春井さんは逃げるように食堂から出て行った。
真瀬莉緒
「春井さん…………。」
僕たちも食堂をあとにすることにした。
六郭星学園寮 莉緒・アイクの部屋
浦川アイク
「…………そうか。春井…………やっぱり…………。」
僕は浦川さんに今日のことを話した。
真瀬莉緒
「浦川さんは…………春井さんに嫌われているんですか?」
浦川アイク
「…………かもしれない。」
真瀬莉緒
「そうなんですね…………。」
僕と浦川さんは、沈黙が続く。しばらく時間が経ち、ようやく浦川さんが重たい口を開く。
浦川アイク
「仕方ない…………気分転換でもするか。」
真瀬莉緒
「気分転換ですか?」
浦川アイク
「ああ。真瀬もどうだ?勝負してみないか?」
浦川さんはトランプを見せる。
真瀬莉緒
「たまには良いですね。トランプやりましょうか。」
僕たちはトランプで勝負をすることになった。
真瀬莉緒
「勝ちました。勝負ありですね。」
浦川アイク
「ああ…………。強いな…………大玉転がしもトランプも…………。」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。」
浦川アイク
「よし、じゃあ出かけるか…………。」
真瀬莉緒
「そうですね。僕もどこかへ行こうと思います。」
そう言って、僕は展望台に行くことにした。
六郭星展望台
真瀬莉緒
「ふぅ…………景色がきれいだ。」
秋風で涼んだ僕は春井さんのことを考えていた。
真瀬莉緒
「僕と…………春井さんは…………パートナー?…………友達…………?」
春井さんは僕のことをどう思っているのだろうか。友達なのか、ただのパートナーなのか…………それとも…………。
そう考えていると、辺りが光に包まれる。
真瀬莉緒
「な…………何だ!?」
光が消えると、1人の女性がいた。
??
「ここは展望台ね…………。」
真瀬莉緒
「あ、あの…………あなたは…………?」
虹谷アヤ
「ああ。真瀬莉緒…………。私は虹谷アヤ(にじや あや)。とある人物を追いかけて、ここにやって来たの。」
真瀬莉緒
「どうして僕の名前を…………?いや、それよりもある人物って、誰ですか…………?」
虹谷アヤ
「ああ。その人の名前は春井リカコ。彼女よ。」
真瀬莉緒
「春井さん!?いったい何故…………?」
虹谷アヤ
「彼女は重い罪を犯した。それだけよ。じゃあ、彼女を連れて行くわね。」
真瀬莉緒
「だ、ダメです!!」
僕は大きい声で、そう言った。
虹谷アヤ
「止めるのね。…………何度目になるのか…………。」
真瀬莉緒
「えっ…………。…………今回が初めてです。僕は春井さんが悪いことをするような人間ではないと信じています。絶対に、あなたなんかには…………!」
虹谷アヤ
「…………その言葉も何度目か…………。」
真瀬莉緒
「……………………。」
虹谷アヤ
「良いわ。今回も見逃してあげる。後悔するだけだから…………。」
そう言うと、辺りがまた光に包まれる。
真瀬莉緒
「くっ…………。」
光が消えると、虹谷と言う人はいなくなっていた。
真瀬莉緒
「何だったんだ一体…………。」
ギギ……ガガ…………。
真瀬莉緒
「えっ…………。」
ギギ……ガガ…………。
また耳鳴り……?くっ……苦しい……!
ギギ……ガガ…………。
真瀬莉緒
「ぐっ……ああああ…………!」
意識が遠のく…………。そう思ったときだった。




