第2章 ブラックインパルス (星野シキア編) 後編
六郭星学園 音楽室
あれから数日。僕たちは再び練習に取り掛かった。星野さんのエレキギターの技術はとてもいい。コンセプトも決まり、作曲や曲調はほぼ出来上がっていると言ってもいい。
そういえば、星野さんは鹿崎先生が言っていたことを考えているのだろうか。
声優さんのオーディションに参加をしてはどうかということを……
僕は気になり出し、それとなしに聞いてみようと思い、星野さんに聞いてみた。
真瀬莉緒
「星野さん……あの……。」
星野シキア
「どうしたの?……もしかして……オーディションのこと……。」
真瀬莉緒
「……はい。」
星野シキア
「ごめん……まだ決まらないの……どうしても引っかかることがあってね……。」
真瀬莉緒
「引っかかること……?」
星野シキア
「ちょっとね。……ところで莉緒は夢はあるの?」
真瀬莉緒
「夢か……。そうだね……。」
夢……考えたことがなかったかもしれない。
真瀬莉緒
「たしかに……今はないかもしれないです。」
星野シキア
「そう……。」
真瀬莉緒
「強いて言うならばこの楽曲を完成させるのが夢……ですね。」
星野シキア
「…………。」
星野さんはそのまま黙り込んでしまった。
何か言ってはいけないことを言ったのだろうか。
何かを考え終わったためか、ぽつりとつぶやいた。
星野シキア
「……私もね。夢はあったの。」
真瀬莉緒
「その夢は?」
星野シキア
「…………。」
再び黙り込む。すると意外な返事が飛んできた。
星野シキア
「ねえ、今から遊びに行かない?」
真瀬莉緒
「今からですか?」
星野シキア
「そう。付き合ったら話してあげる。私の持っていた夢。」
真瀬莉緒
「……わかりました。行きましょう!」
悩む理由はなかった。夢を知れるならと思う好奇心で止まらなかった。
星野シキア
「じゃあ行きましょう。」
僕は星野さんに言われ、そのままついて行った。
ボウリング場
僕たちはボウリング場にやってきた。僕はボウリング場に行ったことがなかったので初めてのボウリングだ。
星野シキア
「莉緒はボウリング得意?」
真瀬莉緒
「やったことないです。」
星野シキア
「そう。じゃあやりましょう。」
真瀬莉緒
「は……はい。」
僕たちは靴を借りて、玉を選んで早速ボウリングを始めた。
第1フレーム。最初に僕が投げた。結果は8本。素人ながら上手くできたかもしれない。
星野シキア
「なかなかじゃない。」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。」
星野シキア
「じゃあ……私ね。」
星野さんは若竹色のボウリングの玉を手に持ち、真剣な眼差しで、玉を転がした。
星野シキア
「ストライク。やったわ。」
真瀬莉緒
「すごいです!おめでとうございます!」
星野シキア
「ありがとう。これくらいなら余裕だけどね。」
そう言うが、顔は満更でもなさそうな様子だった。
星野シキア
「さ、莉緒。次はあなたよ。」
真瀬莉緒
「あ、はい……。」
僕はまた玉を投げるが……
真瀬莉緒
「あれ……?ガター?」
もう1度投げてみる。やはりガターだった。
1投目の記録はただの運だったんだろうか。
星野シキア
「ふう……莉緒。手を貸して。」
真瀬莉緒
「えっ……ちょっと……。」
投球の姿勢が悪かったのか、星野さんは僕の姿勢を正してくれた。
星野シキア
「そう。これで投げれば……。」
真瀬莉緒
「こ、これで……。えい!」
ボウリングの玉が真ん中に転がる。そして……
真瀬莉緒
「やった!ストライクだ!」
星野シキア
「良かった……。でも、まだまだよ。ここをこうすれば……。」
真瀬莉緒
「は、はい。」
僕は星野さんにボウリングのことを1から教えてくれた。
僕たちは時間を忘れるほど、ひたすらボウリングの玉を投げる。
星野シキア
「そう、そこをこうして……。うん良い感じ。」
真瀬莉緒
「は……はい。」
星野さんのアドバイスは的確だった。僕は腕を痛めながらもひたすらと投げて、ストライクをたくさんだした。
ひたすら投げたあと、僕たちはボウリング場の前の自動販売機でジュースを買って、近くのベンチに座った。
ベンチに腰をかけ、一息ついたとき、星野さんがつぶやいた。
星野シキア
「今日はありがとう。楽しかったわ。」
真瀬莉緒
「はあ……こちらこそ。ありがとうございます。」
星野シキア
「なかなかやるじゃない。あの短時間であのスコア。」
真瀬莉緒
「星野さんのおかげです。的確なアドバイスでしたから。」
星野シキア
「お世辞も上手いわね。でも、ありがとう。」
そう言うと互いに面と向かって微笑み合う。
少し沈黙したあと、あの約束のことを聞いた。
真瀬莉緒
「……星野さん。夢の話……聞かせてもらえませんか!」
それを聞いた星野さんは少し驚いた表情だった。
その後、少しうつむいた様子が伺えたが、決心したかのように話してくれた。
星野シキア
「私ね……声優さんに曲を作りたいって夢があったの。」
真瀬莉緒
「声優さんに……?」
星野シキア
「しかも、その声優さんは莉緒……。あなたが見せてくれた写真の人。その時はびっくりしたわ。」
真瀬莉緒
「え……そうなんですか!?」
星野シキア
「ええ、1度……その声優さんのオーディションに参加したことがあるの。でもねそこでね……」
真瀬莉緒
「……そこで?」
星野シキア
「審査員の1人が私の楽譜を見ずにビリビリに破って捨てたの。」
真瀬莉緒
「そ、そんな……!?」
あまりの卑劣な行動に驚きを隠せない。
真瀬莉緒
「他の審査員たちは……?流石にそれを見たら止めますよね!?」
星野シキア
「……そうね。他の審査員がその人より先輩……ならね。」
真瀬莉緒
「…………。」
たしかに業界と言うものには縦社会というものがある……けど、いくらなんでもありえない……僕は考えられなくなった。
星野シキア
「そのことを考えると夢ってなんなんだろうってね。そこからかな。消極的になったのも……否定する様になったのも。」
真瀬莉緒
「星野さん……。」
星野シキア
「……もし、オーディションに参加したいというならタクトとやるべきよ。」
真瀬莉緒
「え、どうして……。」
星野シキア
「どうもこうも……私は……怖いの。また私の作品が壊されるのが……。」
真瀬莉緒
「うっ……。」
言葉が詰まる。その一言だけでも辛いというのが理解できてしまう。
星野シキア
「今日は楽しかった。またボウリングしましょう。じゃあ、明日ね。」
星野さんはそう言って帰って行った。
僕は見送ることなくその場で立ちすくむ。
気がつけば門限が近くなっていた。
真瀬莉緒
「戻るか……。」
六郭星学園寮
真瀬莉緒
「ふう……ギリギリセーフか。」
無事に門限までに帰ってこれた。
??
「……!………!」
??
「…………!……!…………!」
寮に戻ると2つの話し声が聞こえる。話し声が聞こえる方には2つの人影があった。
真瀬莉緒
「あれは……。タクトくん?隣にいるのは……誰なんだ……?」
僕は話し声を聞いてみることにした……。
月川タクト
「それは……本当ですか?」
??
「ええ、間違いないわ。アタシの知り合いに今度……が、…………にいるのは事実……よ。」
隣の人は女子……か。ん?あれはよく見ると、Iクラスの霧宮ナツハ(きりみや なつは)さんか?確か、プロのモデルをやっていた人だったはず……。
霧宮ナツハ
「……気をつけて。その子が大切ならこのことは話さない方が言いかもしれないわ。」
月川タクト
「……わかりました。考えます。」
霧宮ナツハ
「……よろしく。」
霧宮さんはそのままその場を離れていった。
月川タクト
「……ん?莉緒?」
真瀬莉緒
「あ……。」
気づかれてしまった……。まずいかもしれない……。
月川タクト
「もしかして……今の話……。」
真瀬莉緒
「……ごめん。少し聞いてた。」
月川タクト
「……そうか。別に良いんだ。それに……莉緒にも話さないといけないことではあるから……。なあ、莉緒はシキアと曲を作るのか?」
真瀬莉緒
「まあ……そうなるね。」
月川タクト
「だとすれば気をつけた方が良い。シキアにとっても1番の壁にぶつかるかもしれない……。」
真瀬莉緒
「……?それってどういうこと……?」
月川タクト
「それは……。」
鹿崎咲也
「おーい!そろそろ消灯時間だぞー!」
月川タクト
「あー……そうか、もうこんな時間か……。悪いけどまた今度でいいかな?」
真瀬莉緒
「……わかった。」
月川タクト
「ごめんね!じゃあ……戻るか。」
真瀬莉緒
「…………。」
その後結局、タクトくんは寝床についた。
タクトくんと霧宮さんが話していたことは何だったのか…疑問を残したまま意識が遠のいていく。
六郭星学園 文化祭当日
今日は文化祭。年に一度のお祭りで、六郭星学園にとっては記念すべき最初の文化祭。
休み時間は騒がしい廊下も今日はずっと騒がしくなる。先生も生徒も関係なくお祭り騒ぎ。
僕は星野さんと古金さん、来川さんの4人で模擬店を回っている。
古金ミカ
「うひょー!楽しいですな!お姉さんも盛り上がっちゃうよー!」
来川ナナ
「ミカ。あんまりはしゃがないで、さっき他クラスの男子にぶつかったでしょう?」
古金ミカ
「それは携帯ゲームやっていた男子の方も悪いって!それより、次はあそこに行こう!」
来川ナナ
「えっ、あっちょっとミカ!」
古金さんは来川さんの背中を押しながら、執事・メイド喫茶の模擬店に入って行った。
星野シキア
「全く、ミカはいつもあんな感じ何だから……。」
真瀬莉緒
「まあ、古金さんの性格は悪くないんじゃないですか?」
古金さんの性格はとても明るく、笑える冗談をいつも口にしている。そんな明るい子と一緒のクラスも最近とても楽しいという思いが強い。
星野シキア
「まあね。でも……時々、ミカが大人しい子だったらどうなるのかしらみたいなことも思うようになってね。」
真瀬莉緒
「大人しい子ですか……。考えたことないですね……。」
2人で古金さんの話について盛り上がりそうになった時、古金さんたちがタクトくんと姉さんたちを連れて戻ってきた。
姉さんたちも執事・メイド喫茶に入っていたらしい、姉さんたちと合流した割には柊木さんと夜坂さんがムカっとしている様子が見れる。
柊木アイ
「全く……ミカは何でメイドさんのスカートをめくろうとするの!」
古金ミカ
「まあまあ、いいじゃない!周りにいた男子はみんな大盛り上がりだったじゃん!」
柊木アイ
「その代わりにメイドだった子に思いっきりビンタされていたじゃん!!…………ケントくんが。」
夜坂ケント
「……………………。」
なるほど……たしかに頬に手跡が思いっきりついている。かなり赤い。ただ何故か頬ではなく、腕を押さえている。
真瀬莉緒
「夜坂さん?大丈夫ですか?」
夜坂ケント
「あ、いや……なんでもない。大丈夫だ……。」
どうも歯切れが悪いような……。もう少し追求をしようとすると、タクトくんがふとこんな一言を言った。
月川タクト
「ケント、機嫌直したらどうだ?ビンタした女の子も真瀬さんがとっちめたんだから。」
真瀬志奈
「ちょっと!タクトそれは言っちゃだめ!!」
真瀬莉緒
「あー……姉さん……またか。」
姉さんは何故かわからないが、パンチ力が強い。瓦なんて10枚程度なら1発で全部割ることもできる。
真瀬志奈
「またって……仕方ないじゃない!困っているし、冤罪でビンタしたんだからそれなりの対応は必要よ。」
真瀬莉緒
「それはいいけど、加減ってものを……」
真瀬志奈
「わかったから!……もう!機嫌損ねたわ。こうなったらシキアと莉緒の作曲を聞かせてもらうしかないわね!」
真瀬莉緒
「えっ!?作曲!?」
真瀬志奈
「いいじゃない。皆さんもいいですよね!」
柊木アイ
「うん。僕も聞いてみたいな。」
夜坂ケント
「まあ……特に異論はないか……。」
古金ミカ
「おお!それは楽しそうですな!」
来川ナナ
「2人の作曲を聞いて見たいです!」
真瀬莉緒
「ええ……。」
僕は特に断る理由はないが問題は星野さんだ。ボウリングの帰りにあんなことを言った反面、やりづらくはないのだろうか?
月川タクト
「シキア……?いけるのか?」
星野シキア
「…………。」
やっぱり悩んでいる。まあ……無理矢理やる必要は……
星野シキア
「わかったわ。やるわよ。」
真瀬莉緒
「え!?いいんですか!?」
星野シキア
「ええ……。それに、私は少し確かめたいことがあるの。」
真瀬莉緒
「確かめる?何をですか?」
星野シキア
「それは……後々話すわ。……それで?どこで披露すれば良いのかしら?」
真瀬志奈
「そうね……音楽室は空いているからそこで演奏して貰おうかしら?」
星野シキア
「わかったわ。それじゃあ、音楽室に行きましょうか。」
柊木アイ
「それじゃあそうと決まれば、早速音楽室に行こう!」
柊木さんが先陣を切り、僕たちは音楽室に向かった。
六郭星学園 音楽室
音楽室に来た僕はピアノの方に。星野さんはエレキギターの方に向かい、準備に取り掛かる。
姉さんたちは音楽室にある椅子を僕たちの近くに持っていき、座って待っている。
真瀬莉緒
「準備できました。星野さんはどうですか?」
星野シキア
「ええ、いつでもいいわ。莉緒……頼むわね。」
真瀬莉緒
「はい。では、皆さん。聞いてください。」
僕が合図を出し、僕と星野さんは演奏を始める……
演奏が終わる。僕と星野さんは目が合う。その後互いに上手くできたと思い頷く。
みんなの反応は……
柊木アイ
「……良い曲だね!切ないような曲調だけど、心が温まるよ。」
夜坂ケント
「ああ、この時点でこの仕上がりならさらに感動するんだろうな。」
みんなからもお墨付きをもらう。僕はとても嬉しくなった。
星野シキア
「…………。」
真瀬莉緒
「……星野さん?」
星野さんは喜ぶことはなく、ただみんなからの感想を聞いていた。
月川タクト
「…………。」
タクトくんは何かを考えている星野さんをただ黙々と見ていた。
星野シキア
「これが……私と莉緒の……力……。」
真瀬莉緒
「えっ……?」
星野さんは微かな声ではあったがそう呟いていた。
月川タクト
「変われる……。きっとシキアなら変われるよ。」
タクトくんも微かな声でそう呟いた。
星野シキア
「莉緒……。」
真瀬莉緒
「星野さん……。」
星野シキア
「この間……言っていた件だけど……もし、本当にいいなら……あなたと作った……。」
??
「こんなところにいたのね!」
夜坂ケント
「……な、なんだ!?」
全員が声が聞こえた方向を向く。そこにいたのはタクトくんと話していた、霧宮ナツハさんだった。
来川ナナ
「えっ!?プロモデルの霧宮ナツハさん!?」
柊木アイ
「噂には聞いていたけどやっぱり本当にいるとは思わなかったな……。」
霧宮ナツハ
「今はそんなこと言っている場合じゃないわ。それにクイズ番組に出ているノクアもこの学園にいるじゃない。」
来川ナナ
「まあ……それもそうですね。」
霧宮ナツハ
「それより……タクト。あのことは……そこにいる子に言ったの?」
月川タクト
「…………。」
霧宮ナツハ
「言っていないのね。」
星野シキア
「あの……?私に何か?」
霧宮ナツハ
「どうするの?」
月川タクト
「……わかりました。俺が言います。」
星野シキア
「タクト……?」
月川タクト
「…………。シキア、今回の莉緒くんと一緒に参加するオーディションに梶木がいる。」
星野シキア
「…………!?」
それを聞いた時、星野さんはその場で倒れてしまった。
月川タクト
「シキア!?」
柊木アイ
「大丈夫!?ちょっと救急車を……!?」
来川ナナ
「私が呼びます!シキアをそのままにしてください!」
真瀬志奈
「莉緒……」
真瀬莉緒
「姉さん…………。」
僕と姉さんは突然のことで何も動けることができなかった……
霧宮ナツハ
(……気をつけて。その子が大切ならこのことは話さない方が言いかもしれないわ。)
月川タクト
(……わかりました。考えます。)
霧宮ナツハ
(……よろしく。)
あの時話していたのはこのことだったのか……
梶木……星野さんがこうなるということは星野さんの楽譜を破り捨てた人と同じなのだろう。
梶木への反応が相当強く、星野さんにとって梶木は黒い衝撃なんだ……。このまま星野さんと曲を作ってもいいのだろうか……
その疑問を抱き始めながら、僕は星野さんの意識を回復するのを待つしかなかった。