第2章 千歳緑の葉が舞って(土原ガク編)後編
土原ガク
(ねえー!2人ともやめようよー!!こんなことをしてもみんなに迷惑かかるって!)
綿垣キョウゴ
(土原…………少し黙っていてくれ。)
錦戸アケミ
(こっちは色々迷惑なのよ!引っ込んでくれるかしら!)
土原ガク
(うーん。聞こえなかったのかなー!!)
土原ガク
(やめろって言ってるだろ。)
綿垣キョウゴ
(……………………!?)
錦戸アケミ
(……………………!?)
真瀬志奈
「…………ということなんです。」
水崎アサヒ
「やっぱりそうか…………。ガクはやっぱり無理をしているんだ。」
やっぱり…………?
真瀬志奈
「あの、土原さんは何か無理をしているんですか?」
水崎アサヒ
「ああ…………これを言っても良いのか…………。ガクは親がいないんだ。」
真瀬志奈
「親が…………いない…………!?」
水崎アサヒ
「親がいたときはそれはもう真面目だった。マコトを上回るくらいとにかく真面目だ。」
真瀬志奈
「あの雪谷さん以上に?…………初耳です。」
でも親がいないか…………。
真瀬志奈
「あの…………土原さんの親は別れたとか…………?」
水崎アサヒ
「いや…………むしろそっちの方が良かったのかもしれない。」
真瀬志奈
「それって…………?」
水崎アサヒ
「失踪したんだよ。親が2人とも。何かのプロジェクトに参加して以来な。」
真瀬志奈
「あるプロジェクト?それは何ですか?」
水崎アサヒ
「それはわからない。そこからガクはおかしくなった。」
真瀬志奈
「それで…………あのテンションに?」
水崎アサヒ
「ああ。学力に関しては今までとは変わっていないが、それ以外はとにかく変わった。」
真瀬志奈
「……………………。」
水崎アサヒ
「でも、これで分かったことがある。ガクはまだ真面目な性格を持っている。無理をしているんだ。」
真瀬志奈
「無理をしているんですか…………?」
水崎アサヒ
「ああ、志奈。ガクと課題のペアだろう?何とかならないのか?」
真瀬志奈
「そう言われても…………土原さんのことはあまり知らないですし…………。」
水崎アサヒ
「そうか…………確かに無理知恵はできないな。…………すまない。」
水崎さんは頭を下げた。
真瀬志奈
「頭を下げないでください。それにこれから知れば良いだけですから。何か良い方法はありますかね?」
水崎さんは私の発言を聞くと、しばらく考え込んでいた。
水崎アサヒ
「そうだな…………デートをしてみるのはどうだ?」
真瀬志奈
「デ、デートですか?」
水崎アサヒ
「そうだ。志奈とガクで、どこかに出かけるのはどうだ?無理はしないで欲しいが…………。」
真瀬志奈
「そうですね…………。」
私は考え込んだ。スキンシップを兼ねてのデートなら…………良いかもしれない。
真瀬志奈
「…………スキンシップを兼ねてなら。」
水崎アサヒ
「そうか!なら決まりだ!ガクには私から話すから2人でどこかに出かけるんだ。…………頼んだぞ。」
真瀬志奈
「は、はい。」
私は土原さんとデートをすることになった。…………そして、デート当日。
六郭星展望台
土原さんと六郭星展望台にやって来た。水崎さんの提案でのデートだが、土原さんも快諾してくれた。スキンシップを兼ねてならと言って。
土原ガク
「良い天気だねー!!こんな日は外へ出るに限るねー!!」
真瀬志奈
「はい!今日は風もあって気持ち良いですね!」
土原ガク
「そうだねー!それに今日はお弁当を作ってくれたんだよねー!ありがとー!」
そう。私は今日のためにお弁当を作って来た。おにぎりだけだが、たくさん作って来た。
梅干しが好きとのことなので、梅干しおにぎりを多めに作った。
真瀬志奈
「今日は私のためにありがとうございます。たくさん梅干しおにぎりを作ったので食べてみてください!」
土原ガク
「ありがとー!じゃあ早速いただきます!」
土原さんはとても嬉しそうにおにぎりを食べる。
土原ガク
「うん!おいしい!」
良かった…………お気に召したようだ。私も作ったかいがある。
真瀬志奈
「良かったです。私も食べますね。」
私たちは梅干しおにぎりを食べながら、色々な雑談を繰り広げた。
食べ終わると、今度は土原さんが持ってきた遊具で遊ぶことにした。
土原さんの持ってきた遊具はみんな臙脂色でとても赤く鮮やかだった。
遊具で遊び終えると私たちはベンチに腰を掛けて、休憩することにした。
土原ガク
「いやー楽しかったよ!今日はありがとー!」
真瀬志奈
「いえ、こちらこそありがとうございます。今日は私のお誘いに乗ってくれて。」
土原ガク
「良いんだよー!!課題のペアなんだし!これからも頑張っていこー!!」
真瀬志奈
「は…………はい。」
どうしよう…………水崎さんに教えてもらったことを聞けずになりそう…………。
土原ガク
「……………………ねえ、志奈ちゃんにとって、僕ってどんな感じなのかなー?」
真瀬志奈
「土原さんですか…………?」
土原ガク
「そう!志奈ちゃん、もしかすると僕のことで色々聞きたいことがあったんでしょー?教えてあげる!なんでも聞いて!」
真瀬志奈
「そうですね…………じゃあ…………教えてください。土原さん…………無理してないですか?」
土原ガク
「……………………。」
土原さんはニコニコしたままだが、どこか動揺を隠せていなかった。
土原ガク
「僕は…………無理してないよー!!」
土原ガク
「と、言いたいところだけど。…………アサヒから聞いたんだよね?僕の親のこと。」
真瀬志奈
「はい…………。」
土原ガク
「ごめんねー。今はまだ話せないや。追々で良いかな?…………きっと話せると思うよ。」
真瀬志奈
「はい。構いません。土原さんのこと信じてますから。」
土原ガク
「ありがとー!その日まで待っていてね。」
真瀬志奈
「はい。…………あ、そういえば…………この間の作曲のアレンジが閃いたんですよ。聞いていただけませんか?」
土原ガク
「お!それはぜひ聞かせてもらおうじゃないかー!!」
真瀬志奈
「はい。では…………。」
私は念のために持ってきた楽器を取り出し、土原さんに聞かせる…………
聴き終わると、土原さんはニコニコしていた。
土原ガク
「良い曲だねー。…………うん。」
ニコニコとはしているがあまり喜んではいないような気がする。
そう思っていると、強い風で木の葉が舞った。
真瀬志奈
「あっ…………。」
土原ガク
「夏だけど寒くなって来たねー。戻ろうか。」
真瀬志奈
「いや、でも…………。」
土原ガク
「……………………ごめんね。まだ覚悟ができないんだ。」
真瀬志奈
「土原さん…………?それって…………もしかして…………」
土原ガク
「…………この話はまた今度にしよー!今日はありがとー!」
真瀬志奈
「あっ…………はい…………。」
強引にお礼を言われ、私たちは学園に戻ることにした。
土原さんは帰り道は終始無言だった。学園に戻ると、いつものテンションでみんなと話をしていた。
水崎さんに今日のことを話すと、深いため息をし一言だけ言う。
「待つしかない。」…………そう言って水崎さんは出かける。
水崎さんがそういうのなら私は土原さんを待っています。
土原さんにどんな過去があるのかはわからないけれど、とにかく乗り越えることを祈るだけ…………




