第1章 桜色の木の下(土原ガク編)後編
水崎アサヒ
「ところで、志奈の課題のパートナーは誰なんだ?」
唐突に聞かれたが、私は素直に答えることにした。
真瀬志奈
「は、はい。土原ガクって言います。」
水崎アサヒ
「ガク…………?」
水崎さんの様子が急に変わった。土原さんと仲が悪いのかな…………?
真瀬志奈
「あの…………土原さんとはあまり仲が良くないんですか?」
私がそう聞くと、我に返ったのか先ほどの様子に戻った。
水崎アサヒ
「あ、ああ…………そう言うわけではないんだ。むしろ良好の方でもある。」
真瀬志奈
「そうなんですね。」
私はその一言だけ言って、後片付けを始める。
水崎アサヒ
「お、もう片付けるのか?手伝うよ。」
真瀬志奈
「いえ、楽器なので丁重に扱わないと…………。」
水崎アサヒ
「いや、その楽器はガクも使っているからな。扱いには慣れている。」
真瀬志奈
「この楽器を?…………意外ですね。」
水崎アサヒ
「ガクは私よりも丁寧な演奏技術でな。そこが羨ましいよ。」
羨ましい?…………何か裏がある言い方に感じる…………。
でも初対面で聞くのはあまり良くはないかもしれない。とりあえず片付け終わったし、部屋に行こう。
真瀬志奈
「水崎さん。部屋に行きましょう。」
水崎アサヒ
「そうだな。…………行こうか。」
六郭星学園寮 志奈・アサヒの部屋
真瀬志奈
「ここが私たちの部屋…………。」
水崎アサヒ
「広いな…………。」
部屋の中はとても広く、リビングとベッドルームが2部屋あり、両方防音になっているらしいのでベッドルームからもう一つのベッドルームからは何も聞こえない。この部屋に2人1組というのがこの寮のルールらしい。
真瀬志奈
「これなら不便なく過ごせそうですね。」
水崎アサヒ
「そうだな。よし…………明日に備えて寝るか。」
真瀬志奈
「あ、私は色々準備してから寝ますので、先にどうぞ。」
水崎アサヒ
「そうさせてもらおう。おやすみ。」
そう言って、水崎さんはベッドルームに入った。
真瀬志奈
「さて…………記録しないと…………。」
私は色々な作業をして、寝床に就いた。
六郭星学園 Bクラス教室
翌日…………教室に入ると、土原さんがいた。何かを真剣に聞いている。
真瀬志奈
「土原さん…………?」
土原さんは私に気づくと、驚いた様子で私を見た。
土原ガク
「……………………志奈ー!おっはよー!!」
真瀬志奈
「おはようございます。…………あの、何を聞いていたんですか?」
土原ガク
「あーこれ?ちょっと声優さんのオーディションがあって…………参加したいなって…………!」
真瀬志奈
「声優さんのオーディション?もしかして、この声優さんですか?」
土原ガク
「あっ!そうだよー!どうしようかなって!」
真瀬志奈
「……………………。」
私はある考えに至った。
真瀬志奈
「あの…………よければ、共同で応募しませんか?課題もこの楽曲を演奏するのはどうでしょうか?」
土原ガク
「おおー!それは名案だねー!!よーし!張り切っちゃおうかなー!!」
土原さんは迷いなく、賛同をしてくれた。
真瀬志奈
「ありがとうございます。では今度、楽器がどのくらい弾けるのかを見せてください。」
土原ガク
「おおー!もちろんだよ!それじゃあ、また今度ね!」
真瀬志奈
「はい!よろしくお願いいたします。」
私がお礼を言うと、雪谷さんたちも教室に入って来た。
雪谷マコト
「おはようございます。」
綿垣キョウゴ
「おはよう…………。」
真瀬志奈
「雪谷さん。綿垣さん。おはようございます。」
雪谷マコト
「聞きましたか?今日はBクラスの親睦会でお花見をするみたいです。」
真瀬志奈
「お花見…………?」
土原ガク
「おおー!!それは楽しみだね!」
綿垣キョウゴ
「もう先生も他のクラスメイトも花見の場所に来ている。急いで行くぞ。」
土原ガク
「はーい!じゃあ早速行こうか!」
真瀬志奈
「は、はい!」
そして、私たちは中庭に行くことになった。
六郭星学園 中庭
中庭にはクラスメイトたちがワイワイとお花見を楽しんでいた。
凪野雪緒
「おーい!こっちこっち!待っていたぞ!」
私たちは凪野先生の呼ぶ方へ向かう。
そこは大きい桜が咲いており、ひらりひらりと花びらが落ちてくる。
土原ガク
「……………………。」
真瀬志奈
「……………………?」
土原さんはさっきまでの様子と違い、真面目な様子で桜を見上げていた。
真瀬志奈
「桜…………綺麗ですね。」
土原ガク
「……………………。」
私の言葉にも反応せず、桜をとにかく見上げている。
しばらくすると、私に気づいたのかいつものテンションに戻る。
土原ガク
「あっ…………どうしたのー!?」
真瀬志奈
「いえ、あの…………いつもとは違う雰囲気で桜を見上げていたなって思って…………。」
土原ガク
「えっ、そうかなー?…………まあ良いや!とにかく楽しもうよー!」
そう言って、私たちはピクニックなどで使う大きいシートに座った。
真瀬志奈
「あ、このおにぎりは…………?」
凪野雪緒
「ああ、このおにぎりは悠香が作ってくれたんだ。柳原悠香。一応先生やっているんだ。」
それを聞いた、綿垣さんはおにぎりを1口食べる。
綿垣キョウゴ
「うん。なかなか…………美味い。さすが先生だ。」
凪野雪緒
「だろ?さ、みんなも食べてな!」
凪野先生に言われるがまま、私はおにぎりを食べた。中の味は梅干しだった。
真瀬志奈
「うん。…………梅干し。」
土原ガク
「お!梅干しだ!しかも真っ赤な梅干し!!僕も梅干しを食べよう!!」
土原さんが梅干しの入っているおにぎりを探していたため、私は今、食べている梅干しおにぎりを渡してみた。
真瀬志奈
「土原さん、私の食べかけで良ければ…………。」
土原ガク
「えっ!良いの!?ありがとー!!」
土原さんは梅干しおにぎりを食べる。とても嬉しそうだ。
真瀬志奈
「土原さんは梅干しが好きなんですか?」
私は土原さんに素朴な質問をした。すると意外な言葉が飛ぶ。
土原ガク
「…………梅干しが好きっていうより、色が好きなんだー!特に赤の中でも臙脂って言う色が好きなんだ!まあ、あまりメジャーな色ではないかもしれないけれど、とにかく大好きなんだー!!」
真瀬志奈
「そうなんですね。自分の好きなことは大切にしてくださいね!」
土原ガク
「ありがとー!大切にするよ。」
真瀬志奈
「はい。」
私はそう言って、お花見パーティーを楽しんだ。とても楽しく、土原さんとも仲良くなれた気がする。そんなお花見パーティーはお開きになった。
六郭星学園寮 志奈・アサヒの部屋
あれから、数時間後。私は土原さんとの楽曲で色々と閃いた。私は部屋に帰るとすぐに作曲に取り掛かることにした。
そして、ある程度完成したため、私は誰かに聞いてもらうことにした。
ちょうどそこへ、水崎さんが帰ってきたので水崎さんに聞いてもらうことにした。
曲を演奏し終わると、水崎さんは圧倒されていた。
水崎アサヒ
「なるほど…………これはすごい!見事だ。」
真瀬志奈
「ありがとうございます。」
水崎アサヒ
「ただ、この曲はガクには似合わないな。」
真瀬志奈
「えっ…………。そうですか…………。」
水崎アサヒ
「でも、ガクに1回聴いてもらうと良いかもしれないとは思うな。とにかく頑張って。」
真瀬志奈
「……………………はい。」
私は色々と考えながら、眠りにつく。
土原さん…………。