第九話 山の木こり
むかしむかし、ある山の頂上に、一組の、老夫婦が住んでおりました。
おじいさんは、山の木こりをしており、山の木を切り倒しながら、生計を立てておりました。
そんなある日のこと、おじいさんが、山で木を切っていると、山の木々の中から、こんな声が聞こえてきました。
「山の木こりは力持ち、山の木全部切り倒す……山の木こりは力持ち、山の木全部薪にする……」
おじいさんは、不思議に思い、その声のする木々のほうを見てみました。すると、そこに、小さい二本足の白い生き物が、ゆらゆらゆらゆらと、左右に揺れ、後ろを向いて立っていました。
おじいさんは、狐か狸が、化けて人を驚かそうとしているんだろうと思い、再び木を切り始めました。すると、
「山の木こりは力持ち、力があっても金はなし……」
と、おじいさんを馬鹿にするようなことを言い始めました。
「何をあの化け物、わしが無視をするんで、わしの悪口を言い始めたな」
そう呟くと、おじいさんは腹が立ち、持っていた斧を、その白い生き物に向かって思いっきり投げつけました。すると、
スパンッ!と何かが真っ二つに切れる音がし、その白い生き物が、縦に真っ二つに切り裂かれてしまいました。
「山の木こりは力持ち、力を出して人殺す……」
切られた白い生き物はそう言って、おじいさんの目の前から消えていきました。
おじいさんは、投げた斧を取りに行き、その斧を拾うと、再び木を切り始めました。
そして、次の日のこと。
また、おじいさんがいつものように木を切り倒していると、
「なんだありゃ」
おじいさんの真上の空に、お天道様とは別の、大きく光る光の玉が、ぷかぷかぷかぷか浮いていました。
「こりゃあ大変だ。光がこっちに向かってくるぞ!」
光の玉は、どんどんおじいさんのほうへ近づいていきます。おじいさんは、その場で、後ろに尻もちをついてしまい、なかなか逃げることができません。
光の玉は、おじいさんの目の前に落下し、その光の玉の中から、真っ白な、人型をした生き物が現れます。
「山の木こりは力持ち、山の木全部切り倒す……」
白い人型の生き物は、昨日聞いた、白い生き物が言っていた言葉を、そのまま繰り返し言ってきます。その生き物は、おじいさんに、どんどんと近づいてきます。
「山の木こりは力持ち、山の木全部薪にする……」
おじいさんは、唖然としたまま、その白い人型の生き物を見つめます。すると、その白い人型の生き物は、右手をすっと出し、おじいさんの額に、右手を当ててきました。
「山の木こりは力持ち、力があっても金はなし……」
そう言うと、おじいさんの前から、光の玉とともに、その白い人型の生き物は、ふっと消えてしまいました。
唖然としたおじいさんは、そのまましばらく尻もちをついています。
「なんじゃ……」
それからというもの、おじいさんは元気になり、山の木々をたくさん切り倒せるようになりました。たくさん薪を作り、たくさんお金を稼ぎます。
「いやぁ、あの白い光のおかげで、大金持ちになれた」
「よかったですね。おじいさん」
そうおばあさんと毎日話し合って、楽しくおじいさんは暮らしておりました。そんなある日のこと、
「ばあさんや、ちょっと来てくれ」
おじいさんにそう呼ばれ、おばあさんが行くと、囲炉裏の前でおじいさんが、腕を抑え座っておりました。
「どうしたんですかおじいさん……」
「わしの腕が痛むんじゃ」
おじいさんは、腕を抑え、苦しそうにしています。おばあさんは言いました。
「使いすぎですよ。この頃ずっと、山の木を切り倒していたんですから」
「そうかもしれんのぉ……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
おじいさんは、急に苦しみだし、抑えていた腕を前に出すと、すくっとその場に立ち上がりました。
「どうしたんですかおじいさん! 何してるんですか!」
おばあさんは驚いて、後ろに尻もちをついています。おじいさんが、おばあさんに近寄っていきます。
「山の木こりは力持ち、山の木全部切り倒す……」
「どうしたんですか! おじいさん! やめてください!」
おじいさんは、おばあさんに馬乗りになり、おばあさんの首に両手で掴みかかります。
「おじいさん、苦しい、おじいさん……」
「山の木こりは力持ち、山の木全部薪にする……」
おばあさんが嫌がっても、その手を、放そうとはしません。おじいさんは、繰り返し何やら、ぶつぶつ独り言を呟いています。
「山の木こりは力持ち、力はあっても金はなし……」
「やめて、おじいさん、やめて……」
「山の木こりは力持ち、力を出して人殺す」
「やめでぇー!」
ぼきっと骨が折れる音がし、おばあさんは、動かなくなりました。
「……はっ、ばあさんや、しっかりしろ! しっかりしろ!」
おじいさんは、そこで気がつき、目を見開いたままの、口を開けたおばあさんの肩を揺すります。
「ばあさんや、しっかりしろ! ばあさん……痛いっ!」
再び、おじいさんは腕を抑えます。痛みが強すぎて、思わず天井を見上げてしまいます。
「ばぁさぁん! ああああああああああ!」
おじいさんは、叫び声をあげます。ぶちぶちぶちっという音が聞こえ、おじいさんの両腕、両脚、頭は、何かに引っ張られるように、その場で四方に吹っ飛んでいきました。
ヒロ&アキト´s解説
ヒロ「おじいさんたちかわいそうだね」
アキト「それにしても、この白い生物ってあれだよな」
ヒロ「光る物体もそういうことだし、昔話としては珍しいよね」