表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何なのかわからない。アーカイブ  作者: 中松弘子
シーズン壱
7/52

第七話 実験



「ここって出るらしいよ」


「そうそう、マジで出るみたいよ」


 心霊スポットとしてとても有名な廃墟の中で、若い男女が会話をしている。男のほうは、ツーブロックの黒髪で、青色のワイシャツ、首にはシルバーのネックレス、紺色のジーパン、そして、黒のスニーカーを履いている。女のほうは、セミディの髪型で、髪色はアッシュブラウン、白いTシャツ、デニムのスカーチョ、茶色のⅤカットバンプスを履いている。


「ほんとに出るんですか……」


 黒縁の丸眼鏡をかけた黒髪ボブヘアーの女性が、ビクビクしながらその後を歩いている。グレーのブラウスに黒色のパンツ、紺色のスニーカーといういでたちだ。


「ミカちゃんはこういうところ初めてなんだっけ」


 男女の男のほうが、後ろからついてくるボブヘアーの女性に尋ねる。男の横を歩いている女が答える。


「ミカは初めてだよ。こんなところ、普通行かないでしょ」


「確かに」


 男は苦笑する。


「アヤさんとリョウさんは、二人とも行ったことあるんですか」


 ミカと言われた後ろの女性は、前を歩く二人に尋ねる。


「ああ、俺とアヤは何回も行ってるよ」


「ほんとこいつ、物好きな男だからさ、ミカも気を付けなよ~」


「何言ってんだよ。そんな物好きじゃねぇよ」


 ミカの前を歩く二人は、軽口を言い合っている。すると、三人の前に大きな広間のような場所が現れ、三人は立ち止まる。コンクリートむき出しで、所々、大きな穴が開いている。


「ここで何するんですか?」


 後ろのミカは二人に尋ねる。


「実はここでね、ある儀式をしようと思ってるの」


「儀式?」


 アヤが質問に答えて、ミカのほうに振り返る。ミカは、唖然とする。


「ミカさん、私たち友達だよね?」


「え……」


 急にかしこまり、アヤがミカに尋ねてくる。ミカは唖然としたまま、アヤを見つめる。


「まぁさ、軽い気持ちで、やってみればいいからさ」


 リョウも笑顔で、ミカに振り返る。ミカは急に、不安になってくる。


「あの……どういうことですか」


「いやだからさ、ミカさ、お願いだから私達の生贄に……」


「ちょっと待ったぁ!」


 突然、ミカの背後から、男の大声が聞こえてきた。ミカは振り向く。そこには、二人の男が立っていた。


 一人は、クルクルパーマに四角い眼鏡、白いポロシャツ、黒い短パンに白い靴下、黒のスニーカーシューズを履いた、いかにも神経質そうな眼鏡の男で、もう一人のほうは、茶色のとんがり頭に赤いバンダナ、茶色く筋肉隆々の肌に赤のタンクトップと赤の短パン、赤い靴下に赤いスニーカーシューズと、さながら、テレビに出てきそうな有名ジムのインストラクターみたいな風貌だった。


「今の“ちょっと待った”ってのはあれか? テレビのやつか?」


「どうでもいいこと気にすんじゃねぇよ……」


 二人の男は何やら、ごにょごにょと小さな声で言い争っている。さっき大声を上げた眼鏡の男は、何だかバツが悪そうだ。


「あなたたち一体何なの?」


 ミカの背後にいる、アヤが尋ねる。


「……よくぞ訊いてくれた。俺たち、不思議研究同好会です!」


 眼鏡をかけた男は、アヤを見て、眼鏡のブリッジを左手の中指で上げる。筋肉隆々のタンクトップの男が、横でアヤたちに話しかける。


「お前らはしょうもねぇ宗教か何かの信者か? よくもまぁこんなとこで、生贄儀式なんかやってんな……」


「私たちの儀式の邪魔をしようっていうの?」


アヤとリョウは、急に険しい表情に変わる。


「邪魔も何も、いい素材が見つかったからいいなと思って声かけたんだが」


眼鏡の男は、淡々とアヤたちに答える。アヤとリョウは発狂した。


「私たちの儀式の邪魔をするなぁ!!」


目は吊り上がり、眉は、直角に近いくらいに曲げられている。二人を見て眼鏡の男は笑う。


「いるんだよなー。気の弱い奴見つけては、心霊スポットで自分たちの信仰する神の生贄とかにしちゃうやつ」


横にいる筋肉隆々の男が、ミカに右目でウインクする。


「お嬢ちゃん、もう大丈夫だからね……安心してください!」


「おい!」


 眼鏡の男が、左横にいる筋肉隆々のタンクトップの男に顔を向ける。


アヤとリョウが、男たちに絶叫した。


「あああああああ!!」


 完全に、目が怒りで真っ赤になっていた。口からは軽く泡が噴き出ており、見た感じ、人間の表情ではなくなっていた。


「そう急かすなよ」


 眼鏡の男が、右手を前に出す。指をパチンと鳴らし、アヤとリョウの頭上に、小さな雷が落ちてくる。二人は急に、その場に倒れこむ。


「科学こそ、ジャスティス!」


「何したんですか!」


 倒れた後ろの二人を見て、すぐにミカは男たちに叫ぶ。眼鏡の男は、ミカに答える。


「大学の機材を使った気絶だよ」


 二人の男は、ミカに近づいてくる。ミカは、まさかと思い身構える。


「ああ、大丈夫。安心して、お嬢ちゃんは連れて行かないから」


 筋肉隆々のタンクトップの男は、白い歯を見せにっこり笑う。ミカを素通りし、後ろの二人を両肩に担ぎ、再びミカを素通りする。


「二人をどうするんですか!」


 ミカは、そのままどこかへ行こうとする二人の男に叫ぶ。眼鏡の男が、ミカに振り返る。


「あのなぁ……まだわかってねぇのか? この二人は、俺たちの実験体にするんだよ」


「え?」


「お前にはどうでもいいだろ! だいたいお前、このカップルに生贄にされかけたんだぞ? 助けようと思うなよ」


 ちょっと怒っているようにミカに言い放つと、眼鏡の男と筋肉隆々の男は、そのまま歩いていく。すると、筋肉隆々の男が立ち止まり、ミカに振り向く。


「お嬢ちゃん、興味あるならついてくるかい?」


 筋肉隆々の男は、再びウインクする。ミカは、一瞬困惑する。


「……わかりました。行きます」


 ミカは立ち上がる。ミカは、二人の男についていくことにした。


 それからしばらく時間が経ち、アヤとリョウは、目を覚ました。


 辺りを見回す。古臭い木材で出来た暗い畳敷きの一室で、二人とも、横に並んで倒れている。


「何だここ……」


「わかんない……」


 二人とも、困惑する。二人は部屋の中央に倒れており、その右の壁に、中身が空になった大きな本棚がある。頭の方には、型板の窓ガラスが一つあり、二人の足元には、全体が黒に近い茶色の、古臭い木製の玄関がある。玄関の先には、ノブ式の扉がある。


 リョウはとりあえず、頭の方にある窓に近寄る。窓を開けようと取っ手を探すが、開ける用の取っ手が見当たらない。


「くそっ」


 今度は、玄関のほうに行ってドアノブをひねってみる。体当たりし、ドアが壊れないか確かめてみる。


「くそっ……びくともしねぇ」


 アヤが、部屋の左の壁を叩き、大声を出して助けを呼ぶ。何の反応もなく、壁もびくともしない。


「どうしよう……」


 アヤは叫び続けて疲れてしまい、その場になよなよと崩れてしまう。リョウは立ったまま、呆然とする。


「あいつら、よくもやってくれたな……」


「ミカ、どうしちゃったのかな。あの男たちとともに逃げちゃったのかな」


「あの野郎、よくも俺たちの生贄を……」


 二人は、その部屋で、しばらく呆然とする。気づくと、部屋の中は、暗くなってくる。リョウは部屋の真ん中に立っている。


 天井にある、むき出しの蛍光灯から伸びた、電源のヒモを引っ張る。


 部屋の中が、ぼんやりと明るくなる。リョウはその場に胡坐をかき、しばらくそのままじっとして、左の壁にもたれているアヤに話しかける。


「やっぱりうまいこと、いかなかったな……今度はもうちょっと、人数を増やしてやったほうがいいな」


「だね」


 すると、天井の蛍光灯が、チカチカと明滅しだす。


「ん?」


 リョウは、天井の光の明滅に、天井を見上げる。一瞬、天井のむき出しの蛍光灯の後ろに何かが見える。


「なんだ?」


 よくよく見ようと立ち上がる。暗くなった一瞬、天井に、黒い丸いシミみたいなものが見えてくる。


「何あれ……」


 アヤもそれに気づき、その場に立ち上がりながらリョウに尋ねる。そのシミは、だんだんと、天井を広がっていく。


「……やばい」


 何かに気づき、リョウは玄関のほうに走ってドアノブを開けようとする。アヤも一緒に、リョウに走り、寄りそっていく。


「何? どうしたの!」


「出ないと! 早くここを出ないと!」


 リョウはドアノブを回しながら、しきりに何か焦っている。アヤは後ろを振り返る。


 天井から、黒い塊が、ぼこっと下に向かって出てきている。チカチカと明滅する中、暗くなった瞬間に、ちょっとずつ、天井から、黒い何かが這い出してきている。


「何あれ! ねぇ何なのよ! ねぇ!」


「知らねぇよ! うるせぇ!」


 リョウが叫び、シャツの袖を引っ張るアヤを振り払う。ドアを何度も、押し開けようとする。


 パサッと、軽い音が背後から聞こえくる。リョウとアヤは、後ろを振り向く。


 黒い塊が、縦に長く、畳に向かって垂れ下がっている。その垂れ下がったものの上の方に、大きな、女の横顔が、下を向いて垂れている。


「あ、あ、ああ!」


「あ、あ、あ……」


 バチンッという音が聞こえ、部屋の天井の電気が消える。暗い部屋のその中で、女の横顔が、ゆっくりこちらへ向けられる。


「ふふふふふ……」


「あああああああ!!」


 女の顔は笑顔になる。巨大な女の顔面が、こちらを見つめ笑っていた。



 翌日、筋肉隆々のタンクトップの男と眼鏡の男は、その部屋に、黒いバンで訪れていた。


「なるほど、こうなるのか……」


 玄関の扉を、持っている鍵で開け、白髪交じりのアヤとリョウを眼鏡男は見つめる。しわだらけになり、玄関先で、体育座りをして放心している。


 二人をまたいで、眼鏡の男は、部屋の中に入っていく。部屋の四隅天井付近につけてある、小さな隠しカメラを外す。


「この部屋、どうする?」


 筋肉隆々の男は、玄関先のアヤとリョウを見ながら、眼鏡の男に尋ねる。


「一応、俺たちの目的は実験だ……そのまま放置でいいだろ」


「そうか。了解」


「あの……私が、二人を連れていきます」


 ミカがそこに現れ、二人の男はミカを見つめる。二人の男たちについて行くことを決めたあと、ミカは、二人と一緒に、今までの一部始終を黒いバンの中で見ていた。筋肉隆々のタンクトップの男と眼鏡の男は、ミカに頷く。


「わかった。じゃあ俺も、お嬢ちゃんと一緒に、二人を家まで送るよ」


 筋肉隆々のタンクトップの男は、眼鏡の男に白い歯を見せにっこり笑う。眼鏡の男は、カメラを4つ両手に持ち、ため息をついてそっぽを向く。


「……勝手にしろ」


 笑顔のタンクトップの男は、ニコニコしながら白髪になったアヤとリョウに近づく。二人を、乗ってきた黒いバンに運んでいく。


「まったく……」


 放心状態の二人を乗せ、黒いバンは、二人の自宅に向かっていく。


 眼鏡の男は、終始不機嫌なままだった。


 ヒロ&アキト´s解説


 ヒロ「眼鏡の男と赤いタンクトップの男は一体何者なんだろう」


 アキト「何を目的にこんなことしてんだろな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ