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何なのかわからない。アーカイブ  作者: 中松弘子
シーズン死
52/52

第四十九話 男



 空には丸い、黒い月が浮かんでいる。


 世界中、暗い闇に包まれ、辺りは、何の音もしない。


「わかった……わかったよ……」


 男は、一人呟く。世界には、その男しか、存在していなかった。


 男は、コートを羽織り、あるビルの階段を登っていた。男には、ある目的があった。


「わかってる……わかってるよ……」


 ぶつぶつ言いながら、階段を登る。階段の一番上に着き、目の前のドアを開ける。


「わかってる……」


 何もない殺風景な部屋に、木でできた簡単な書斎机と、黒い、タイプライターが置いてある。


「わかった……わかったよ……」


 タイプライターは、カタカタと音をたてながら、何かの文章を打ち続けている。それは、物語のような、セリフのような、文章の集合体だ。


「わかったよ……わかってる……」


 男は呟き、コートの右ポケットから拳銃を取り出す。それを、タイプライターに向ける。


「わかったよ……」


 バンッ!という大きな音がし、タイプライターは、動きを止める。男は拳銃を落とし、天井を見つめ続ける。少女の笑い声が、部屋中に響き渡る。


 外は、真っ青な青空が広がっていた。


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