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第四十九話 男
空には丸い、黒い月が浮かんでいる。
世界中、暗い闇に包まれ、辺りは、何の音もしない。
「わかった……わかったよ……」
男は、一人呟く。世界には、その男しか、存在していなかった。
男は、コートを羽織り、あるビルの階段を登っていた。男には、ある目的があった。
「わかってる……わかってるよ……」
ぶつぶつ言いながら、階段を登る。階段の一番上に着き、目の前のドアを開ける。
「わかってる……」
何もない殺風景な部屋に、木でできた簡単な書斎机と、黒い、タイプライターが置いてある。
「わかった……わかったよ……」
タイプライターは、カタカタと音をたてながら、何かの文章を打ち続けている。それは、物語のような、セリフのような、文章の集合体だ。
「わかったよ……わかってる……」
男は呟き、コートの右ポケットから拳銃を取り出す。それを、タイプライターに向ける。
「わかったよ……」
バンッ!という大きな音がし、タイプライターは、動きを止める。男は拳銃を落とし、天井を見つめ続ける。少女の笑い声が、部屋中に響き渡る。
外は、真っ青な青空が広がっていた。




