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何なのかわからない。アーカイブ  作者: 中松弘子
シーズン壱
5/52

第五話 茶色く濁った



 男は、両親を車に乗せ、山を登っていた。


 車中では、両親たちと、たわいもない会話をし、山を頂上目指し登っていく。


 車は、簡単に山の頂上に着き、男は、両親とともに車を出て、頂上の絶景を楽しんでいる。


 しばらく絶景を楽しんだ後、男は、あることに気づく。


 それは、その頂上までの道を、苦しそうに登ってくる、長髪の、白いワンピースを着た女性だった。


 男は変だなと思い、それを見つめる。


 その山は、あまり有名な山ではなく、何かこれといった凄いものが、あるわけでもない。男はたまたま、両親と車で旅行をし、山を見つけて、ちょっと冒険するつもりで、登ってみただけだ。


 黒い長髪の女性が、白いワンピースを着て、苦しそうに登って来るような場所ではない。


「大丈夫ですか?」


 男は不審に思いながらも、女性に声をかける。すると女性は


「お願いです……救急車を……」


 と言ってきた。


「わかりました。すぐ呼びます」


 男はその言葉を聞き、すぐにスマホで、救急車を呼ぼうとする。スマホの電源を入れ、メニュー画面を表示させる。


 メニュー画面のアンテナが、圏外を表示している。


「つながらないか……」 


 男は、その女性に顔を向けると、覚悟したように女性に告げる。


「あの、スマホつながらないので、一緒に病院まで送りますよ」


 話を傍で聞いていた両親に了解をもらい、女性を、自分の車の助手席に乗せる。運転席に、自分も乗り込む。


「よし」

 

 車のエンジンをかけ、車を発進させようとする。しかし、エンジンがかからない。


「あれ……」


 さっきまで普通に動いていたのに、車は、動かなくなっている。


「おかしいな……さっきまで動いていたのに……」


 男は、疑問だらけのまま、助手席の女性に話しかける。


「あの、自分が今から歩いて、下に下りて助けを呼んできますので、ここで待っててください」


「わかりました……」


 助手席の女性は、苦しそうな顔をしたまま、男に頷いている。男は、車を出て両親に、山を下へ歩いて下りていくことを伝えた。


 男は、山を歩いて下りて行った。しばらく山道を歩き、ふと立ち止まる。こっちに向かい走ってくる、軽自動車に遭遇する。


「すみません。止まってください」


 軽自動車を止めようと、大声で走ってくる軽自動車に叫ぶ。車は止まり、助手席と、運転席のドアの窓が開く。


「どうした」


「あの、気分が悪い女性がいるんです」


 運転席と、助手席のドアの窓から、男女が顔を出す。男は、その男女に説明をする。


「わかった。乗れよ」


 運転席の男が頷き、後部座席のドアが開く。男は、その男女に感謝を述べ、軽自動車の後部座席に乗り込む。


「ありがとうございます」


 男は、後部座席に乗り込むと、軽自動車は、ゆっくりと発進する。両親と女性が待つ、山の頂上へ、車は走っていく。


 山の頂上に着き、長髪の女性と両親は、軽自動車の後部座席に乗り込む。男は、運転席の男と座席を交代して、再び山を下りていく。


 助手席にいる女性が、運転席に座っている男をじっと見つめている。後部座席にいる長髪の女性は、相変わらず、苦しそうな顔をしている。


 山を下りていき、今度は、恰幅のいい男性が、車に向かって走り寄ってくる。


「危ない!」


 男は急ブレーキをかけ、軽自動車を止める。走り寄ってきた恰幅のいい男性は、軽自動車のボンネットの上に手を置き、運転席に走り寄る。


「あの、助けてください。下の崖に車が落ちちゃって、上がれないんです」


「俺たちも今、助けを呼びに行くところなんです。だから、あなたのことも報告しときますから待っといてください」


 助けを懇願する男性に、男は答える。目の前の道路左端に、茶色い物が見えている。


「わかりました待ってます」


 走り寄ってきた男性は車を離れ、軽自動車は発進する。助手席の女性は、運転席にいる男を、じっと見つめている。


 そのまま、軽自動車は下山する。しばらく走っていると、近くに、大きな鳥居が見えてくる。


「すみません。止まってください」


 後部座席の長髪の女性が、大声を上げ、軽自動車は急停止する。


「どうしたんですか」


「あの、あの神社にお参りしたいんです」


 長髪の女性が、大きな鳥居を指さしている。


「えっ、でも病院に行かないと」


「お願いします。行きたいんです!」


 長髪の女性は、今まで苦しそうな表情を浮かべていたのに、必死の形相で男に懇願をしている。運転席の男は、長髪の女性を、怪しむ。


「うーん…… わかりました。行きましょう」


 軽自動車を大きな鳥居の前に止め、男たちは、神社にお参りすることにする。


 その神社は、ラーメンをご神体とする、とても変わった神社だった。ラーメンに関わるものが飾られていたり、授与所では、ラーメンが売られていたりする。近くには、釣り堀があり、釣りもできたりする。


 男は、長髪の女性を怪しみながらも、その神社を見て回る。ある場所で、男は立ち止まる。


「何だこれ」


 それは、大きな水晶玉のようだった。しかし、中は透明ではなく、茶色く濁っている。


「何だこれ、ラーメンのスープか。凄い濁ってんな……」


 しばらく神社をうろうろとし、男は、神社を出ていく。


 すると、あることに気づく。


 自分と両親以外、誰も、いなくなっている。


 そこで、男は目覚める。


 男は、リビングのソファから起き上がる。1LDKの、自分のマンションの部屋のリビングだ。


 変な夢を見たなと思い、すぐ隣にあるキッチンに向かう。キッチンの上にある戸棚を開け、カップ麺を取り出す。


 ラーメンの夢を見たのは、最近カップ麺ばかりの生活をしていたからかと、再び苦笑いをする。今週、ほんとにカップ麺を食べることが多かった。


 キッチン台にあった、テレビのリモコンに手を伸ばす。リモコンのスイッチを押し、正面の、テレビをつける。


「今日、二台の車が正面衝突をし、3人の死者が出ました」


 テレビで、女性キャスターがニュースを読んでいる。


「現場は当時、昨日の大雨で……」  


 そこに、事故現場が映し出されている。


 道端に、茶色く濁った、土嚢が積まれている。


 ヒロ&アキト´s解説


 ヒロ「ラーメンの神社?」


 アキト「面白いな。実際にカップ麺ばっか食ってたからそういう夢を見たんだろうけど、最初に出てくる長い髪の女と道中の男女は多分違うんだろな」


 ヒロ「彼らは最後のニュースの人?」


 アキト「かわいそうだな」

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