第四十三話 生存者
「それじゃあ行こうか」
佐藤が二人に声をかけ、泉は、石を右手に握った佐藤の左手を右手で握る。泉のもう一方の手を、ヒロが握る。
「行くぞ」
瞬間、三人はどこかの、車の中に転送される。
「何だここ……」
運転席に座った佐藤が、唖然として前方を見つめる。目の前には古い、一軒家がある。
「おいあれ!」
後部座席のヒロが前方を指さし、運転席と助手席の間から顔を出してくる。ヒロのさした指の先を見ると、四つの黒い塊が、家の門の前でうごめいている。
「何だあれ」
助手席の泉は、不思議がっている。
「……おい! 早く出せ! おい!」
何かに気づいたらしくヒロが、車内で大声を出して叫ぶ。しきりに運転席の佐藤の座席を叩く。
「何だよ! 何だよ!」
「いいから! いいからそこの、四つの塊に車をぶつけろ! 早く!」
真剣な表情で、ヒロは大声で叫んでいる。佐藤は唖然として、ルームミラーに映るヒロを見た。
「どうしたんだよ!」
「早く!」
ヒロは、運転席横のパーキングブレーキを外す。シフトレバーを、前に動かす。
「おい! ちょっと、おい!」
瞬間、車は一気に前進し、目の前の四つの黒い塊を轢き潰す。古い民家の門に、激突する。
「……いってえ、何やってんだよ!」
「いいから!」
すると、助手席の泉が、左にある車内の窓を見ながら指さす。
「おいあれ……」
「うん? なんだ……」
頭前方を右手で抑えながら、佐藤は見つめる。遠くの方に、四つん這いになった、赤い服の女が、佇んでいた。
「早く出せ!」
泉に言われ、佐藤はシフトレバーをバックに入れる。少し右横にバックした後、向かってくる四つん這いの赤い服の女に向け、車を、激突させる。
「うわあああああああああ!」
3人とも、大声で叫んでいる。車は女に正面衝突し、そのまま目の前の民家に突っ込んでいく。玄関の扉に車体はぶつかり、女は、押し潰される。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
3人とも、乗っていた車から降りていく。見ると、車はどこかのテレビ局のバンで、前方は、真っ赤な液体でぐちゃぐちゃになっている。
「ひっでぇ……」
佐藤が車前方を見て呟き、車の後ろへ歩いていく。バンの後ろには、先に出た泉とヒロが、佐藤を見ながら佇んでいる。
「大丈夫ですか?」
「ああ、何とか」
ヒロに尋ねられ、佐藤は答える。
「おい、あれを見ろ」
泉がふと、後ろを振り向いて指をさす。見るとそこには、無精ひげを生やしたボサボサ髪の男が、さっき追突して壊した門の古民家の屋根に立っていた。
「おーい!」
3人に向け、手を振っている。
「大丈夫ですかー」
ヒロが気づき、口に両手を当て叫ぶ。どうやら、何か、知っているようだ。
「何だお前知っているのか」
泉がさしている指を下ろし、ヒロに尋ねる。
「ああ、小説で読んだことがある」
「小説?」
泉は驚く。ヒロは、説明する。
「ここに来る前、俺とアキトは小説を読んで解説動画を撮ってたんだ。何なのかわからない。とかいう題名だった……ほんとによくわからない」
「その小説に、このことが載っていたのか!」
佐藤も驚いている。
「あんたらのことも載ってたよ。夜の廃校とか行ってたよな」
「何!」
泉も佐藤も一緒に驚く。ヒロは、屋根の上にいる男に叫ぶ。
「とにかく、ここから逃げましょう! 安全な所にいた方がいいでしょう?」
「お前ら、あいつらの仲間じゃないんだな!」
屋根の上の男は、疑わしげに3人に尋ねる。ヒロは頷く。
「はい! 不思議かもしれませんが、事情は知っています。小説家さんですよね? とにかく、ここから逃げましょう」
「…………わかった」
男が頷き、3人は、男が登っている屋根の家の前へと向かう。屋根の男は、いったん二階の部屋に窓から入り、一階の玄関から、不安そうに3人の前に現れる。
「とにかく、ここから出ますよ」
ヒロは、屋根の男に右手を差し出す。男は恐る恐る、ヒロの右手を握る。
「何だよお前ら……何だよ……」
泉と佐藤は気づいた。周りで押し潰されている4つの塊は、うずくまった人間だった。
「おい、何か動き始めてねぇか」
4人の周りの4つの塊が、微妙に振動している。ヒロは周りを見ている泉に、左手を出す。
「さっさと行きましょう」
「そうだな……」
泉が頷き、ヒロの左手を握る。佐藤と泉も、手を握る。
「行くぞ!」
瞬間、4人はどこかへ移動する。目の前に、一本道の入り口で待っていた少年が立っている。
「おっさん!」
泉と佐藤を見て、少年は二人に走り寄ってくる。泉と佐藤は、右手を上げる。
「よっ!」
「戻ってこれたんだね」
「ああ! バッチリだ」
佐藤と泉は、交互に互いの顔を見合わす。そして、少年に告げる。
「お前も、家に戻れるぞ」
「ほんと!?」
少年の両目は、輝いていた。




