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何なのかわからない。アーカイブ  作者: 中松弘子
シーズン死
46/52

第四十三話 生存者



「それじゃあ行こうか」


 佐藤が二人に声をかけ、泉は、石を右手に握った佐藤の左手を右手で握る。泉のもう一方の手を、ヒロが握る。


「行くぞ」


 瞬間、三人はどこかの、車の中に転送される。


「何だここ……」


 運転席に座った佐藤が、唖然として前方を見つめる。目の前には古い、一軒家がある。


「おいあれ!」


 後部座席のヒロが前方を指さし、運転席と助手席の間から顔を出してくる。ヒロのさした指の先を見ると、四つの黒い塊が、家の門の前でうごめいている。


「何だあれ」


 助手席の泉は、不思議がっている。


「……おい! 早く出せ! おい!」


 何かに気づいたらしくヒロが、車内で大声を出して叫ぶ。しきりに運転席の佐藤の座席を叩く。


「何だよ! 何だよ!」


「いいから! いいからそこの、四つの塊に車をぶつけろ! 早く!」


 真剣な表情で、ヒロは大声で叫んでいる。佐藤は唖然として、ルームミラーに映るヒロを見た。


「どうしたんだよ!」


「早く!」


 ヒロは、運転席横のパーキングブレーキを外す。シフトレバーを、前に動かす。


「おい! ちょっと、おい!」


 瞬間、車は一気に前進し、目の前の四つの黒い塊を轢き潰す。古い民家の門に、激突する。


「……いってえ、何やってんだよ!」


「いいから!」


 すると、助手席の泉が、左にある車内の窓を見ながら指さす。


「おいあれ……」


「うん? なんだ……」


 頭前方を右手で抑えながら、佐藤は見つめる。遠くの方に、四つん這いになった、赤い服の女が、佇んでいた。


「早く出せ!」


 泉に言われ、佐藤はシフトレバーをバックに入れる。少し右横にバックした後、向かってくる四つん這いの赤い服の女に向け、車を、激突させる。


「うわあああああああああ!」


 3人とも、大声で叫んでいる。車は女に正面衝突し、そのまま目の前の民家に突っ込んでいく。玄関の扉に車体はぶつかり、女は、押し潰される。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 3人とも、乗っていた車から降りていく。見ると、車はどこかのテレビ局のバンで、前方は、真っ赤な液体でぐちゃぐちゃになっている。


「ひっでぇ……」


 佐藤が車前方を見て呟き、車の後ろへ歩いていく。バンの後ろには、先に出た泉とヒロが、佐藤を見ながら佇んでいる。


「大丈夫ですか?」


「ああ、何とか」


 ヒロに尋ねられ、佐藤は答える。


「おい、あれを見ろ」


 泉がふと、後ろを振り向いて指をさす。見るとそこには、無精ひげを生やしたボサボサ髪の男が、さっき追突して壊した門の古民家の屋根に立っていた。


「おーい!」


 3人に向け、手を振っている。


「大丈夫ですかー」


 ヒロが気づき、口に両手を当て叫ぶ。どうやら、何か、知っているようだ。


「何だお前知っているのか」


 泉がさしている指を下ろし、ヒロに尋ねる。


「ああ、小説で読んだことがある」


「小説?」


 泉は驚く。ヒロは、説明する。


「ここに来る前、俺とアキトは小説を読んで解説動画を撮ってたんだ。何なのかわからない。とかいう題名だった……ほんとによくわからない」


「その小説に、このことが載っていたのか!」


 佐藤も驚いている。


「あんたらのことも載ってたよ。夜の廃校とか行ってたよな」


「何!」


 泉も佐藤も一緒に驚く。ヒロは、屋根の上にいる男に叫ぶ。


「とにかく、ここから逃げましょう! 安全な所にいた方がいいでしょう?」


「お前ら、あいつらの仲間じゃないんだな!」


 屋根の上の男は、疑わしげに3人に尋ねる。ヒロは頷く。


「はい! 不思議かもしれませんが、事情は知っています。小説家さんですよね? とにかく、ここから逃げましょう」


「…………わかった」


 男が頷き、3人は、男が登っている屋根の家の前へと向かう。屋根の男は、いったん二階の部屋に窓から入り、一階の玄関から、不安そうに3人の前に現れる。


「とにかく、ここから出ますよ」


 ヒロは、屋根の男に右手を差し出す。男は恐る恐る、ヒロの右手を握る。


「何だよお前ら……何だよ……」


 泉と佐藤は気づいた。周りで押し潰されている4つの塊は、うずくまった人間だった。


「おい、何か動き始めてねぇか」


 4人の周りの4つの塊が、微妙に振動している。ヒロは周りを見ている泉に、左手を出す。


「さっさと行きましょう」


「そうだな……」


 泉が頷き、ヒロの左手を握る。佐藤と泉も、手を握る。


「行くぞ!」


 瞬間、4人はどこかへ移動する。目の前に、一本道の入り口で待っていた少年が立っている。


「おっさん!」


 泉と佐藤を見て、少年は二人に走り寄ってくる。泉と佐藤は、右手を上げる。


「よっ!」


「戻ってこれたんだね」


「ああ! バッチリだ」


 佐藤と泉は、交互に互いの顔を見合わす。そして、少年に告げる。


「お前も、家に戻れるぞ」


「ほんと!?」


 少年の両目は、輝いていた。


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