第四十一話 富士山
「そういや、あなたの名前を聞いてなかったんだが何て名前なんだ」
泉はまっすぐな一本道を歩きながら、何気なくコートの女に尋ねる。佐藤もちらっと女の方を見つめる。
「鬼米来子……」
「鬼米来子! そりゃあ、変わった名前だ!」
佐藤が驚く。泉はさらに尋ねる。
「君は、この世界の生物なのか。それとも、どこか他の世界から来たのか」
「ワカラナイ……」
すると、来子のスマホが鳴り始めた。見ると、どこかの動画配信サイトの通知だった。
来子は、スマホをタップする。
「ヒロでーす。アキトでーす」
スマホの方から、声が聞こえる。
「何だ?」
来子が立ち止まり、二人とも立ち止まる。泉は、来子のスマホを覗き込む。
「……うっうぐっキエアアアアアアアアア!」
スマホの中で、金髪の男の口から顔のついた触手が飛び出している。そして、甲高い金切り声を発している。
「おい佐藤! これ見ろよ!」
泉が手招きし、離れて二人を見ていた佐藤が近寄る。どうやらそれは、配信サイトのアーカイブ動画のようだ。
「おいこれって……」
二人は顔を見合わす。スマホでは、ヒロが部屋から出て行く。
「こいつの所へ飛ぶか」
泉は、佐藤に尋ねる。
「ああ」
佐藤は、短パンの右ポケットから四角い石を取り出す。それを右手で握る。
「とりあえず手をつなごう」
左手を出し、泉の左手とつなぐ。泉は右手を来子の左手とつなぐ。来子は、右手でスマホを持ち、男の遺体を抱きしめている。
「行くぞ!」
佐藤が号令をかけ、三人は瞬時に移動する。すると、辺りの景色は変わらなかった。
「えっ?」
三人とも、辺りを見回す。泉が呟く。
「ここは、異常な空間だから効かないのか……」
「いや違う!」
佐藤は、目の前を指さす。すると、目の前にヒロが立っていた。ヒロの目の前に年老いたよぼよぼの爺さんが立っており、ヒロの背後から、ボロボロの布切れみたいなものを羽織った黒髪ボサボサ頭の人間のような生物が、ダッシュで走っていっている。
「やばい! 行くぞ!」
何かを察し、泉は佐藤に叫んで走り出す。佐藤も走り出し、ボサボサ髪の何かに思いっきりタックルする。
「ウガァアアアアア!」
すんでの所で佐藤に抱きつかれ、ボサボサ髪の生物は呻き声を上げる。泉も足に抱きつく。
「早く抑え込め!」
「暴れんなって!! ちょっと待ってくれよ!」
「なんだよあんたら……」
「縛れ! とにかく手足だ!」
「キィィィィィィィェェェェェェェェェェァァァァァァ!」
辺りは騒然としている。何とか、泉の白衣の左ポケットに入っていたワイヤーで手足を縛り、ボサボサ髪の生物を抑え込む。しかし、ボサボサ髪の生物は、赤い目玉をぎらつかせ、縛られながらも暴れ続けている。
「この野郎、往生しやがれ!」
泉が、もう一方のポケットから小型のスタンガンを取り出し、佐藤に投げて渡す。佐藤はそれを、ボサボサ髪の首筋に当てる。
「ギィヤアアアアアアアアアアア!!」
バチバチバチバチっと音がし、暴れていたボサボサ髪の生物は両足を地面にダンっとぶつける。
「ふぅ……大人しくなった……」
「ざまぁみろ!!」
佐藤はため息をつき、泉は啖呵を切る。ヒロは、唖然としていた。




