第四十話 狭間
「それはわかったが、これからどうする」
再びネットカフェの個室に戻った二人は、座椅子に座り、目の前のパソコンを起動する。
「とりあえず、これからここへ行こう」
泉がパソコン画面を指さす。そこには「振り向いてはダメな道」という都市伝説が書かれていた。
二人はとりあえず、その日はネットカフェに泊まり、朝になったら石を使って、その場所に移動した。すると、その道路は二人の目の前にあり、辺りはもう、夕方になっている。
「時間はかかるんだな……」
泉が呟く。
「ここがその、”振り向いてはダメな道”か……どこにでもある、何の変哲もない道だな」
すると、佐藤の横に少年が立っていた。
「うわぁっ! 何だ!」
佐藤は驚く。
「おっさんたち誰」
少年は、横にいる佐藤達を見つめ尋ねる。
「えっ? えーと……俺たちは不思議研究……」
「同好会だ」
泉が眼鏡を上げながら答える。
「ふーん……」
少年は適当に、相槌を打つ。
「おっさんたちも、自分たちのいた世界に戻りたいんだね」
二人は驚いて、少年を見つめた。
「まさか、君も俺たちの世界から来たのか?」
「……うん、でも、もう戻れないんだ……俺」
「そうか……振り向いたんだな?」
「違う……振り向かれちゃった……」
少年は、泉の質問に俯いて答える。泉と佐藤は、互いに顔を見合わす。
「もう……会えないんだ……俺の友達たちに……」
「なぁ少年、ちょっとここで待っててくれるか? 俺たちが今からあの道を通って君を戻す方法を見つけてくるから」
「佐藤!」
泉は驚いて佐藤を見つめる。少年は、両目に涙を溜めていた。
「まだ戻れるかどうかの確証はないんだぞ。そんなこと約束して大丈夫か」
「でも、この子あまりにもかわいそうじゃないか」
佐藤は、真面目な顔で泉に答える。泉は軽く、溜め息を吐く。
「はぁー、わかった……少年、安心しろ。戻れるぞ」
「ほんと?」
少年は、顔を上げ二人を見る。二人は、頷く。
「それじゃあ行くぞ……」
「ああ!」
前を向き、二人は歩き出す。
「とりあえず少年、そこで待っとけよ! すぐ戻ってくるからな!」
振り向かず、佐藤は少年に右手を振る。そのまま二人は、少年の前から消えた。
泉と佐藤の周りは、一気に霧が広がっていた。辺りは急に暗くなり、コツコツと、二人の足音だけが聞こえている。
「振り向くなよ……振り向くなよ……」
泉が呟きながら、佐藤とともに歩いている。佐藤は無言で、前を向いて歩く。
すると、二人の周りの霧が晴れた。目の前に普通の一本道が現れる。
「あれ……? 終わったぞ」
「え?」
二人とも呆気にとられている。辺りを見まわし、話し合う。
「そうか……俺たちは、元々ここの人間じゃないから関係ないのか……」
「そうか!」
泉が気付き、佐藤は驚く。二人は、互いの顔を見合わして笑顔になる。
「そうと決まれば! 辺りを探索するぞ!」
佐藤は右肩をぶんぶん回しだす。二人は一本道を、力強く歩き始めた。
泉と佐藤には、確信はなかった。だが、何となく理解をしていた。異様な噂話がある所には、必ずそれを発生させている存在があるということを。そして、その存在を利用すれば、異次元間を移動することができると。
しかも、こっちには自分たちを色んな場所に転送できる石の装置がある。
二人は、道なりに歩き、ふと立ち止まった。
「何だあれ……」
見ると、ちょっと先の道路右端の電信柱に、茶色の長いコートと白いマスク、山高帽みたいなものをかぶった長髪の高身長の人間が、大きい頭のない人型の人形を抱きしめ立っていた。
「すげぇな……ありゃ何だ」
佐藤も驚いている。泉は近づく。
「お前は誰だ。いったい何者だ」
すると、その長髪の人間は無言でマスクを外す。見ると、口は真っ赤に血塗られ、白いギザギザした牙のような真っ赤な歯が、たくさん上下についていた。
「うわ! こいつ、人間じゃない!」
瞬間、長髪の人間は涙を流し始める。そこで、二人は気づく。
「まさか、女性の異生物か……何でこんなところに……」
「ココニ……クレバ……モドレルッテ……」
女は泣きながら、左手に持っているスマホを見せる。泉はスマホを、恐る恐る覗く。
「なるほど……お前もこの都市伝説を信じて来たんだな……」
「ンッグ……ココデ……カレヲ……イキカエラセタクテ……」
女が抱きしめていたのは、頭のない男の遺体だった。
「何か知らないが、だいたい想像はつくな……お前も、戻ってやり直したいんだろ」
「おい、どういう事だ」
佐藤が走って近寄ってくる。泉は佐藤に説明する。
「多分、彼女は今抱きしめている彼を食ってしまったんだろう。愛していたが、本能には抗えなかった……」
「……ウアアアアアアアア!」
女は崩れ、野獣のように大声で泣き叫ぶ。相当、今まで辛かったようだ。
「で、どうするつもりなんだ」
佐藤は泉に尋ねる。泉は答える。
「そうだな。うーん……こいつも連れていくか」
「は?」
「一緒についていった方が、何かあったときにいい即戦力になるはずだ」
「でも、その何かあった時の”何か”になる可能性もあるんだぞ」
「大丈夫だろ。彼女は大切な人を失ったんだ。俺たちと同じで」
「いやぁー、でも……」
泣いている女を見つめながら、佐藤は不安そうに首を傾げる。泉はきっぱりと、女に告げる。
「お前も一緒についてこい! 俺たちも、お前の彼を助ける手助けをしてやる」
「ホントニ……」
女は涙を流しながら、顔を上げる。泉は右手を差し出す。
「大丈夫だ。行こう」
女が左手で泉の手をとり、その場に立ち上がる。女は、両目の涙を片手で拭う。
「それじゃあ行くか!」
泉が再び歩き出す。三人は、再び一本道を歩き始めた。




