第二十六話 鬼米来子の話
私の職場には、身長が2m以上ある、長身の、女性が働いている。
名前は、『鬼米来子』といって、長髪で、スタイルはすらりとしており、いつも、マスクをしている。
私は、食品工場で働いているのだが、ほとんどパートのおばちゃんたちがいるその中に一人、2m以上もある若いモデル体型の女性が、マスクと食品工場用のキャップをかぶり、一緒になって働いているのだ。
終始マスクをかぶっているため、顔はよくわからないが、目元を見るに、物凄く、美人だと思う。
私は、その女性がうちの工場に来た時から目をつけていた。同僚たちやパートのおばちゃんたちは、気味悪がっていたが、私は、一目ぼれだった。
そんな彼女だったが、同僚やおばちゃんたちから、名前をもじって『鬼米来ちゃん』と、陰で呼ばれるようになっていた。
あまりにも酷すぎる。ただ身長が人より少し大きいということだけで、人を、人外扱いする。そんな幼稚なこと、いい歳こいた大の大人たちがすることなのか。
私は、彼女に何かあったら相談に乗ると、下心半分で話しかけた。すると、彼女は
「ありがとうございます。今のところ、特に何もないので大丈夫です」
と、目元をほころばせながら答えてくれた。
私はちょっと、心配だったが、大丈夫だと言ってくれたので信じることにした。
しかし、それは起こってしまった。
彼女がいつものようにベルトコンベアで流れてくる商品を梱包していた時、おばちゃん連中が嫌がらせで、勢いよく、彼女にぶつかってきたのだ。
その瞬間、彼女は前のめりに倒れ、ベルトコンベアに思いきり顔を打ち付け、マスク全体が、真っ赤な血で染まっていく。
おばちゃん連中は、事故だと言っていたが、その時そのおばちゃん連中は、その場所にいるよう言われていない。
私は、あまりにも酷いので、そのおばちゃん連中を怒鳴りつけ、同僚に止められたが、彼女を、すぐさま医務室に連れていくことにした。
彼女は、医務室に行くのを嫌がった。マスクの下の素顔を見られるのが恥ずかしいそうだ。
なので、私は医務室の前まで付き添い、その後のことは彼女に任した。
しばらくすると、彼女は新しいマスクをして医務室から出てきた。私を見るなり、深々とお辞儀をし一緒に仕事場に戻る。
その後もちょくちょく、おばちゃん連中の嫌がらせは続いた。私はその都度おばちゃん連中を怒鳴り、上司に報告した。彼女が何も言わないため、しつこく嫌がらせをし続けたのだ。
私は何度も怒鳴り、何度もおばちゃん連中に忠告をし、何度も上司に報告をする。
そんなある日のこと、おばちゃん連中は、唐突に、来なくなった。
あっさり起こったので驚いたが、おばちゃん連中は、工場を、辞めてしまった。
私がさんざん、言い続けたせいなのか、辞めますとだけ電話をしてきて、立て続けに、辞めてしまった。
私はやっと平穏が戻り、彼女とまたゆっくり親しくなれると思い、彼女に、話しかけるようにした。
「今日も、頑張ろうね」
「はい……」
「それ、重そうだから運んであげるよ」
「ありがとうございます……」
いろいろ声をかけたり、手伝ってあげたりする。
そしてとうとう、その日は来た。
「あの、話があるんだけど」
「どうしたんですか?」
「あ、あの……さ、き、君のこと、実は……好きなんだ」
つい、言ってしまった。彼女と一緒に親しく会話をしながら作業してる最中に、勢い余って言ってしまった。
「え……」
彼女は、しばらく無言になっている。
「……わかりました」
「え?」
「あなたとなら、付き合ってもいいです」
私は、その言葉を聞いて喜びのあまり両手を上に上げてしまった。
「やったぁ!」
それから私は、次の休みの日に、彼女とデートに行く約束をした。
そして、デート当日、彼女は、白いワンピース服を着て私の前に現れた。しかし、マスクをしている。
なんでマスクをしているのか尋ねたら、まだ恥ずかしいらしく、凄く緊張しているのが伝わってきた。
とりあえず私は、彼女と、近くの遊園地に遊びに行く。いろんなアトラクションに乗り、あっという間に、時間は過ぎていく。
そしてとうとう、もうそろそろ帰らないといけない時間になってしまった。
「あのさ……観覧車に乗らない?」
私は、勇気を振り絞って彼女に告げる。
「いいですよ」
彼女も頷く。
私たちは、係員にチケットを渡し観覧車に乗り込む。二人が乗り込むと、観覧車のドアは閉まり、二人きりの空間になる。
「……」
思わず、二人とも無口になってしまう。こんなこと久しぶりだ。彼女をちらちら見ながら、外の景色を眺める。
「……あの!」
急に二人共の声が重なり、どっちも瞬間黙ってしまう。相手の言葉を待ち続ける。言葉の譲り合いを経て、私が、彼女に告げる。
「あの、マスク……取ってくれないかな?」
ドキドキしながら、彼女に尋ねる。観覧車はちょうど、真上に来ている。
「わかった……私も、我慢できないから……」
彼女は、プルプル震えながらマスクの右端のひもに右手をかける。
ゆっくり、マスクを外す。
「え……?」
食品工場には、二人の刑事が訪れていた。
「ええ先日、行方不明届が出されているんですが知りませんか」
「すみません。わかりません……」
食品工場の社員は答える。
「そうですか……でも、彼女たちは、その女性と揉めていたんですよね?」
「はい。確かに揉めてました」
「……わかりました。ありがとうございます」
おばちゃん連中は、山の中で発見された。
ヒロ&アキト’s解説
ヒロ「なんだよさっきの女!」
ヒロ「突然目の前で消えやがった……」
ヒロ「今度はなんだ?」
ヒロ「もうマスクなんてしなくてもいいだろ……それに、あの頭の取れたでかい人形はなんだよ」




