第二十二話 柳の木はよくしなる
私の住んでいるところには、巨大な、一本の柳の木が植えてある。
自宅前の道を隔て、風も吹いていないのにいつも、左右に、ずっと揺れている。その先には、横に流れる、大きな川がある。
私は、いつも仕事場へ向かう時、その柳を見ながら出かけている。その巨大な柳の木はいつしかみんなから、「しなりの柳」と呼ばれていた。
そんなある夜のこと、いつものように仕事場から自宅に帰っていると、自宅前のその柳の木の前に、一人の、サラリーマン風の男がぼーっと突っ立って柳を見ていた。
私は、その男を素通りし、自宅の一軒家のドアを開ける。すると、自宅に入る私に気づき、男は、踵を返してどこかへ向かって歩いていく。
そういうことが、度々あった。ある時なんかは、数人が、柳の前に突っ立って談笑をしながら、柳の木を見つめていた。
私には、その理由がわからなかった。何故こんなに、柳の木の前に人が集まるのだろう。
そんなある夜のこと、また、自宅に帰ろうとすると、一人の男が、だいぶ夜更けだというのに、柳の木の前に突っ立っていた。
私は、気になって、その男に声をかける。
「あのー、すみません。いったい何を見ているんですか?」
男は、何も言わず柳の木の枝を指さす。
「枝ですか? 確かにすごい揺れてますよね。風もないのに……」
私は、枝を見つめ、男に喋りかける。相変わらず、柳の木の枝は激しく左右に揺れている。
「違う……」
男はそう言うと、踵を返しどこかへ行ってしまう。私は、その後姿を眺め、再び柳の木を見つめる。
いったい、何が違うのだろう。その日は黙って、自宅に帰る。
それからしばらく経ったまたある夜、今度は居酒屋で少し酒をひっかけた私は、千鳥足気味で自宅に帰っていた。
「飲みすぎた。気持ち悪い……」
ふらふらになりながら、自宅へと歩いていく。すると、視界の端に、自宅前の柳の木が入ってくる。
私は、立ち止まる。
「……そういうことか」
たくさんの、半透明の人々が、柳の枝に首を吊っている。
みんな、両眼を見開き、だらりと舌を垂らしている。
「……」
私は、唖然とする。全員、こっちを見ている。
ヒロ&アキト´s解説
ヒロ「何故か人が集まっていたのってそういうことだったんだね」
アキト「呼ばれていたんだ」




