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何なのかわからない。アーカイブ  作者: 中松弘子
シーズン弐
23/52

第二十話 動画撮影



「それじゃあ撮影始めまーす」


 黒いキャップ帽を前後反対に被ったグレーのシャツの男が、スマホを片手に、暗い夜の廃墟の前で、声を張り上げ叫んでいる。


 持っているスマホをタップし、その廃墟前に佇む五人の青年たちにスマホを向ける。五人は、いきなりテンションを上げ、スマホの前で喋りだす。


「さぁそれではやってきました。ここが、幽霊が出ると噂される廃墟です!」


「こえーマジこええ」


「やべぇ、マジやべぇよ」


 五人のうち、真ん中に立っているホワイトメッシュの青年が、大声で宣言する。その左隣にいる黒髪の二人の青年たちが、口々にリアクションをする。二人とも、同じ背丈で、同じ黒いTシャツ、同じ顔をしている。


「いやぁ、マジ怖えって、俺汗止まんないよ」


「いや、お前はデブだからだろ」


 五人のうち、真ん中の右隣にいるふくよかな青年が、眼鏡を外して、汗をハンカチで拭う。すると、その右隣にいる金と黒のツートンカラーの髪の青年が、それに突っ込む。


「さぁそれでは、廃墟の中に、入っていきましょう!」


 メッシュの男が大声で仕切り、五人の青年達は、廃墟の中に入っていく。スマホを持ったキャップ帽の男も、その後をついていく。


「怖いですねぇー。やべぇ……」


「うわっ空気ひんやりする。怖えー」


「マジだ。何で!? 何でこんな空気冷たいの!?」


 五人は、真っ暗な廃墟の中を、それぞれ持っている懐中電灯で照らしながら横一列になって探索していく。その廃墟は、元々はラブホテルだった場所で、一階はエントランスになっており、奥に、二階につながる階段がある。エントランス入って左右のところには、長い廊下が伸びており、廊下のエントランス側の壁には、端までびっしり、部屋の扉が並んでいる。ところどころ壁が壊れ、中の部屋の様子が、丸見えになってしまっている。


 五人は、エントランス右の、長い廊下を歩いていく。廊下の横幅は広いため、そこを、横一列になって歩いていく。


 ドンッ!


 突然、廊下中程のところで、五人の左側から、大きな音が聞こえてくる。


「うわっ!」


 一番左端にいる黒髪の男が右隣にぶつかり、そのまま、ドミノ倒しに尻もちをついて横に倒れていく。五人の後ろにいたキャップ帽の男は、スマホを、五人の顔に一人ずつ当てていく。


「カーーーット!」


 エントランス内に男の大声が響き渡り、ホテルの入り口から、灰色のスーツを着た、七三分けの男が入ってくる。男は、真っ先に五人の所へ走っていき、音の鳴った壁の部屋の扉からは、白い、Tシャツを着た黒髪のおかっぱ頭の男が出てくる。


「ちょっとちょっとぉ、あのさぁ、もうちょっと自然な演技できねぇかなぁ」


 七三分けの男は、五人の青年たちに向かって、腰に手を当て喋っている。右手には丸めた、何かの冊子を握っている。


「もうちょっと、疑う感じでさぁ。”えっ?”的なさぁ」


「でも、マジビビったんすよ。音デカすぎっすよ!」 


 一列の真ん中にいるメッシュの男が、七三分けの男に文句を言う。七三分けの男は、横にいるおかっぱ頭の男の頭部を丸めた冊子で叩く。


「確かにおめぇも音デカすぎだ! あれじゃあ嘘くせぇわ。今度はもうちょっと音抑えろ」


「すんません……」


 おかっぱ頭の男は、七三分けの男に頭を下げる。


「大丈夫かぁ~」


 廊下端にある部屋の扉が開き、中から、黒い全身タイツを被った男が心配そうに何事かと出てくる。七三分けの男は、全身タイツの男に叫ぶ。


「ああ、大丈夫大丈夫! ……まったく、これだからずぶの素人は」

 

 すると、五人を今まで映していたキャップ帽の男が、七三分けの男に近寄る。


「この映像どうします?」


「もう一回エントランスに入るところからだ」


「マジっすか!?」


 七三分けの男が当たり前かのようにそう宣言すると、メッシュの青年が大声を上げる。


「あんた、元テレビの人なんだから、さっきの映像うまいこと編集して、倒れた直前からとか、できんじゃねぇのかよ」


 七三分けの男は、イライラしながらメッシュの青年に答える。


「あのなぁ、そこで編集しちまうと、すぐ視聴者にバレんだよ。それに、そんなに編集は、魔法みたいにうまくいくもんじゃねぇんだよ! わかる?」


 それを聞くと、五人は全員黙ってしまう。 


「それじゃあもう一回、撮るからな! 他の奴らは定位置に戻れ! お前らはもう一度、エントランスに戻れ!」


 七三分けの男は、そのままエントランスへ戻っていく。五人は立ち上がり、口々に話す。


「あの人、ほんとに元テレビ職員なのかな」


「一応、テレビ番組やってたみたい。でも、すぐ辞めたらしい……」


「一体、なんで辞めたんだろ」


 すると、スマホを持ったキャップ帽の男が、五人の話に口を挟む。


「それは、テレビ局で突然、番組が作れなくなっちゃったんだよ」


「え?」


「あの人、俺と同じテレビ局にいたんだけど、凄い人でさ、バラエティ番組を結構作ってたんだよ」


 五人は、キャップ帽の男を見つめる。


「それが突然、ある時から、番組が作れなくなっちゃって。何でかは言ってくれないんだけど、何か、番組を企画しようとすると、他の奴に企画を、譲っちゃうんだよね」


 キャップ帽の男は、エントランスで立っている七三分けの男を見ながら、五人に話す。


「そんなことあるんですか?」


「ああ、多分何か、精神的なものだったんだろうな。忙しすぎたんだよ。テレビ局ってのはここと違って、色々大変だからさ」


 五人は、それを聞くと俯いてしまう。キャップ帽の男は、五人に顔を向ける。


「まあだから、頑張って、この心霊検証企画は成功させてやろうな!」


 五人とキャップ帽の男は、エントランスに戻っていく。再び、撮影は再開される。


「よーい、スタート!」


 その後、 スムーズに撮影は成功した。エントランスからスマホを回しはじめ、スタッフが鳴らした微かな壁の音に軽く反応を示す。廊下奥の部屋に入り、部屋の右側、シャワールームにいる全身黒タイツのスタッフをスマホのカメラから見切れさせる。


「あれ……」


 突然ビーっと、変な音が聞こえだす。スマホの画面が真っ黒になり、キャップ帽の男は焦り始める。


「嘘……嘘だろ……おい!」


「マジやめてくださいよ。今度は何ですか? 冗談じゃないですよぉ」


 五人の青年は、演出の一つだと思いキャップ帽の男に近づく。キャップ帽の男は焦りながら、スマホを何回もタップし続ける。


「電源が切れた……」


 スマホを叩きながら呟き、キャップ帽の男は、その場に佇む。さっきまでシャワールームに隠れていた全身タイツの男が近寄ってくる。


「大丈夫ですか?」


「いや、つかねぇんだよ。壊れたのか?」


「マジ?」


 その場にいる全員が、キャップ帽の男のスマホを覗く。五人の青年のうち、太っている眼鏡の青年が、七三分けの男を呼びに部屋を出て行く。


「……おい、どうした。スマホが壊れたか?」


 しばらくし、部屋に七三分けの男が入ってくる。太っている眼鏡の男も一緒に入ってきて、キャップ帽の男に近寄る。七三分けの男は、別のスマホをズボンのポケットから取り出す。


「おい大丈夫か。中のデータは」


「いや、撮影はし終わってるんでたぶん大丈夫だとは思います」


「そうか。じゃあとりあえず撤収か」


 七三分けの男はそう言うと、そそくさとその部屋を出て行ってしまう。とりあえず全員がそのまま撤収し、その日のロケは終了する。


 それから翌日、七三分けの男は、早速自宅で、動画を編集することにする。スマホは壊れていたが、データは残っており、自宅のパソコンで編集を行う。


 そこそこ、怖い映像になっている。七三分けの男は、その動画を見ながら、満足そうにニヤニヤ笑っていた。


「よしよし、いいぞいいぞ」


 シャワールームにいる黒い全身タイツの男が映像右端に見切れ、そのままベッド前にいる五人の背後へと映像が動く。


 そこで、映像が止まる。


「ん?」

 

 しかし、映像の再生時間は進んでいる。どんどん進んでいき、七三分けの男は、映像を止めようか悩み始める。


「これ、どうすんだ……」


 すると、映像の中に立っている五人の青年たちが少しづつ、顔を右向きに振り向き始める。


「えっ……」


 五人全員の顔が、ゆっくりと、右向きに動いている。


 七三分けの男は、思わず声を上げた。


「は?」


 右向きに、五人の顔だけが、動いている。五人の青年たちは、完全に右を向き、動きを、止めようとしない。七三分けの男は、まさかと驚愕する。


「これは……」


 どんどん、五人の顔は、こっちに向いて動いてくる。七三分けの男は、唖然とし、その様子を見つめる。


「あ、あ、ああ!」


 思わず、七三分けの男は、その場で大声を上げてしまう。映像の中の五人の青年たちの顔色は全員、真っ白になり、皆、白目でこっちを見つめている。


「おい、ふざけんじゃねぇぞ!」


 その様子に、七三分けの男は叫ぶ。


「ついてきてんじゃねぇか!」


 七三分けの男は、その後、テレビ局で自殺した。


 ヒロ&アキト´s解説 


 ヒロ「この人、三話の人かな」


 アキト「確かに。類似点が多いな」


 ヒロ「局をやめてもついてきていたんだね」

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