第十六話 真っ赤な服の女
某有名出版会社の人気ネットホラー小説家が突然、音信不通になった。
その当時、その出版会社では、大きな組織との不正行為が表沙汰となり、信頼回復に躍起になっていた。そんなさなか、人気のネットホラー小説家が、どさくさに紛れて行方不明になっていた。
その小説家を担当していた編集者であるB氏は、行きつけの飲み屋で、心情を、少し酔っぱらいながら吐露していた。
「最近のあれのせいでイメージが悪くなっちゃって、作家さんがどんどん離れて行っちゃってる。何とかテレビやネットを使って本の宣伝をしまくってるが、売り上げは下がる一方だ。どうしたらいいか……」
すると、その隣の席で飲んでいるテレビ局勤務のC氏がB氏に言った。
「一つ、面白い企画を思いついたんだけどさ、その小説家を探すのを番組にして放映してみないか」
さらにC氏は続ける。
「見つかれば万々歳だし、見つからなくてもうまく編集でホラーっぽくしちまえばいいじゃん」
「それ、面白そうだな」
ということで、B氏とC氏は、テレビ番組を作ることになった。
人気ネットホラー小説家を探す番組企画はどんどん進んでいき、他のスタッフたちと共に、その小説家の家にカメラを持って行くことになった。
白いテレビ局のバンにカメラマン一人、音声一人、ディレクターのC氏一人、プロデューサー一人、そして、担当編集者のB氏が同乗することになる。
人気ネットホラー小説家の家というのは、意外にも、結構な山奥にある集落の古民家で、山の頂上に向かって、ピラミッド状に、道路が通っており、上から三段ずつ、家々が密集して区切られている。小説家の家は、その一番下の段の真ん中、一番麓に近いところに建ててあった。
「ここか」
テレビクルーの面々は、そこに到着すると、白いバンから降りていく。小説家の家の、インターホンを押す。
「やっぱいないな」
B氏がもう一回、インターホンを押す。ズボンのポケットから、銀色のカギを取り出し、目の前中央にある玄関の引き戸のカギ穴にカギを差しこむ。B氏は、ホラー小説家と仲が良く、いつでも入れるように、合いカギを持っている。
「それじゃあ行きましょう」
後ろに並んでいるテレビクルーたちに一瞥し、B氏は中に入っていく。テレビクルーたちも後に続き、家の中に入っていく。
「おじゃましまーす」
ネットホラー小説家の家は、ホコリ臭く、何より、汚い。まるで、誰も何年も住んでいないかのようだった。
「Aさんいますかー」
皆、靴を脱ぐのをためらいつつ、家の中に上がっていく。B氏は、小説家の名前を何回も呼び、テレビクルーたちも、キョロキョロと辺りを見回している。
B氏とテレビクルーたちは、小説家の家を、くまなく探索していく。小説家の家は二階建てで、一階を探索し終えると、今度は、二階に上がっていく。
「ここはどうでしょうか……」
二階もくまなく探索していく。しかし、何の痕跡も見つからず、B氏は、がっかりする。カメラマン含め、それを見ていたスタッフたちも、つまらなそうにその場に佇む。
「もう……行きましょうか」
何もなかったその日、皆、テレビ局に戻っていった。
それからしばらくの事、その小説家を捜索することは、一時、中断する事になってしまった。色々忙しくなったのもあったが、その小説家の自宅以外、全く情報が、出てこなかった。B氏はもう、他の小説家を、担当していた。
「はいもしもし……」
そうして、ネット小説家の捜索が中断していた時、ある所から再び、その出版社に電話がかかってきた。それは、C氏からの電話だった。
「凄いことが分かったから来てくれ」
早速、B氏は出版社からタクシーを呼んでC氏のいるテレビ局に向かう。テレビ局につき、すぐさま会議室に通される。
「これを、見てくれ」
会議室にいるC氏が、興奮気味にB氏に近寄ってくる。後ろには大きな薄型のテレビがあり、その前にある会議用のテーブルの上には、コードでテレビとつながれたテレビカメラが置いてある。
C氏は、振り向いて手に持っているリモコンのボタンを押す。
「Aさんいますかー」
それは、だいぶ前に行ったネットホラー小説家の家の中の映像だった。しばらく後ろのテレビで映像を流し、C氏は突然、映像を止める。
「これを見てくれ」
C氏は、映像を止めると、一部分を拡大していく。そこには、小説家の家の二階、大きな部屋の窓が映っている。
二階の大きな部屋の窓は、雨戸が閉じられ、部屋の中が、真っ暗になっている。
「ここだよここ」
興奮気味に、C氏はテレビに近寄って指をさす。
窓の外の雨戸の右端、縦に長い小さな隙間に、小説家A氏の、左半分の顔が微かに映っている。
「一瞬だったが、見つけたんだよ」
C氏は、誇らしげにB氏に喋る。
「でも、何でA氏がこんなところに……一階の瓦屋根の上にA氏が立っていたってことか?」
「俺にもわからないよ。でも、今日もう一回行ったほうがいいな」
B氏とC氏は、再びテレビクルーを連れ、小説家の家に向かった。
小説家の家に向かう途中、テレビ局のバンの助手席に座っているB氏が、何かに気づく。
「あれ……」
それからしばらく時間が経ち、白いバンが、小説家の家の前に到着する。皆、白いバンから降り、持ってきた拡声器で、小説家の名前を叫ぶ。
「Aさん! いるんでしょ! 出てきてくださいよ!」
拡声器を持って、B氏が叫ぶ。辺りはもう真っ暗で、照明をたかないと、いけなくなってきている。
「Aさん! 出てきてくださいよ! Aさん!」
「うるせぇ!」
二階の瓦屋根から、青白い顔をしたA氏が飛び出てくる。頬はこけ、ひげ面で、髪は、ぼさぼさになっている。
「一体、どうしたんですか。出版社と連絡を絶って……」
「俺は、気づいちまったんだよ!」
B氏の呼びかけに、A氏は叫ぶ。
「ある時、俺は気づいちまったんだ! うちの家のほうに、変な女が、この山の頂上から降りてきてんだよ!」
A氏は、瓦屋根の上から、目の前の山の頂上に向かって、指をさしている。どうやら、ピラミッド状に区切られた道路の頂点から、道路伝いに、変な女が、A氏の自宅に、毎晩、来るそうだ。
「奴は、家の中にも入ってきたんだ! 四つん這いで……見た目は赤い服を着た人間の女なのに、四つん這いで、二階の俺の書斎に入ろうとしてきたんだ!」
B氏もC氏も唖然としてしまう。A氏は続ける。
「だから俺は、二階の窓を全部雨戸にして、二階の瓦屋根の小さなスペースに隠れて生活してたんだ。あいつに襲われないように……」
「いいからとりあえずそこから降りてきてください。危ないですから。テレビ局か出版社近くのホテル泊まりましょう」
B氏とC氏はA氏を説得する。
「見ろ!」
再び、A氏は二階の屋根から山の頂上を指さす。皆振り返るが、向かいの家が邪魔で見えない。しかし、屋根の上に立っているA氏からは、山の頂上から、赤いワンピースを着た女が、四つん這いでこっちに向かって走って来ているのが見えている。
「ああ来る! 来る! みんな、逃げろ!」
A氏は、恐怖でB氏とC氏たちに警告をする。すると、その様子を見た全員が、A氏に叫ぶ。
「わかりました! Aさん、今からそっちに行きますから待っててください」
B氏もC氏も、全員、両手を地面につける。
「今から、行きますね!」
ヒロ&アキト´s解説
ヒロ「これクルー全員……」
アキト「行く道中、遭遇しちゃったんだろな」




