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上官に恋人役を頼んだら婚約届を渡された件  作者: 白雲八鈴


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10/13

◆肉祭り?手伝わないヤツには食べる権利はない!


 翌朝、朝日が昇る前から宿泊していた宿舎を出て、王都に向かって全速力で駆け抜ける。


 まるで帰路を急いでいるように思える程のスピードだが、実際に急いでいた。主に私と部隊長がだ。このままだと間に合うか間に合わないかという焦りからだ。

 これは部隊長が起きてこなかったのが原因だ。恐らく昨日は一人で色々楽しんでいたのだろう。かなり遅い時間に機嫌のいい酔っ払いが戻ってきた気配があったので、そのまま寝過ごしたと思われる。


 朝日が昇り、王都の人々が活動を始める時間に何とか騎士団本部にたどり着くことができた。

 私と部隊長はルーフェイスに騎獣を騎獣舎に戻すようにお願いをして、激おこのオカンの怒りを背中で受けながら、私は収納袋から一番大きな炎牛(プロクスブル)を取り出して、急いでとある場所に向かっていく。


 未だに炎が燃え盛る炎牛(プロクスブル)を私は頭上に持ち上げ駆けていく。因みに私はコレぐらいでは燃えない。これが我々の一族がレッドドラゴンの末裔だと言われる所以だ。


「お!何とか滑り込みセーフだ!」


 私に並走する部隊長の声に、ホッと安堵する。目の前には高い塀が立ち塞がっている。その塀を飛び越える為に更に身体強化を行い、地面を蹴り上げる。

 五メートルはあるであろう塀の高さまで飛び、塀の上に立ち止まり、辺りを見渡す。眼下には全身に鎧を身に着けた騎士たちが朝の訓練を行っていた。


 そして、一点を見つめ声を上げる。


「とうちゃーん!肉祭りしよー!」


 私の声に多数の視線が突き刺さる。そして、こちらの方を見て慌て出す者、肩が揺れている者、私に剣を向ける者、反応は様々だ。

 その中でも、ひと際体格のいい鎧を着込んだ人物が声を上げてきた。


「エミリア!まだ職務中だ!」


 そんなことはわかっている。だけど、今が一番美味しいのだ。


「昨日の夕方に狩ってきたばかりの炎牛(プロクスブル)を今食べずにいつ食べるの!今でしょう!!」


 そして、あちらこちらで笑いが聞こえてくる。それは古参の人たちで、若い人たちは何が起こっているのかわかっていないのか、微動だにしていない。


「おい!食いたいやつは解体を手伝え!火が消えたら時間の勝負だぞ!」


 私の隣で同じ様に塀の上に立ち、叫んでいる部隊長。

 そう、火が消えれば毒の生成が始まる炎牛(プロクスブル)はくすぶっている状態から解体を行わなければならない。

 だが、今回の大物は7メートル級だ。部隊長と私では解体が間に合わない。なので、肉を分けるから解体を手伝えと言っているのだ。顔見知りのいる第1師団の精鋭たちにだ。ここで、燃えているからと言って戸惑っているヤツは必要ない。燃えていようが剣を振るえるものではないといけないのだ。


 すると、数人がこちらに足を向けてきた。


「おい、足一本ぐらいもらってもいいよな」

「それは取り過ぎだ」

「相変わらずエミリア嬢はめちゃくちゃだな」

「誰か食堂からスパイス取って来いよ」

「師団長。火を起こしておいてくださいよ」


 近寄って来た者たち以外は遠巻きに見ている。私は私の行動にも動じない人たちの前に降り立つ。


「一番美味しいところをもらえたら私はそれでいいよー。あ!あと第8師団長さんにおすそ分けする分と!」

「了解だ」


 私は地面に未だに燃えている炎牛(プロクスブル)を置いた。それは徐々に地面を焦がして行く。部隊長を始め、鎧をまとった者たちが剣を抜き、7メートルはある炎牛(プロクスブル)の周りに陣取っていく。

 私は炎牛(プロクスブル)のお腹側に立ち、皆が準備できたことを確認して、右手を開いてバキリと鳴らす。そして、指先を揃えてお腹側から一気に腕を差し込む、そのまま心臓の近くにある魔石をつかみ取り、勢いよく抜き取った。

 その瞬間、風が駆けぬける。


 6つの剣が火の勢いが弱まった炎牛(プロクスブル)の躯に襲いかかっていった。一瞬だ。一瞬の内に雄牛の形をしていたモノが肉の塊になっていた。流石長年共に戦ってきただけのことはあり、息はぴったりだった。


「とうちゃーん!朝ごはんにしよぅー!」


 無事に肉の塊になった炎牛(プロクスブル)を指して私は父に手を振りながら、こちらに来るように促す。


 父は若干呆れたような雰囲気を纏いながら、このままではどうせ訓練の続きはできないと理解たようだ。この場にいるものたちに解散を言い渡し、私がいる方に足を向けてきた。


「エミリア。もう少し落ち着きというものはないのか?」


 私の行動を苦言するように言う父だが、これが演技だとわからないので致し方がない。


「えー!とうちゃん。エミリアは美味しいお肉の為ならどこへだって行くのですぅー。とうちゃんもお肉が食べたかったら、火を出してねー」


 私の言葉にフルフェイスを取って私と同じ赤い髪に金色の目が顕わになった厳つい顔の父が、渋々手から火を出して地面を燃やす。

 はっきり言って炎牛(プロクスブル)の肉は普通の火では火が通らない。元々燃えている肉に火を通そうとしても、焦げることはないのだ。だから、それよりも高温の火が必要になる。私も出せるが、何もせずに肉にはありつけないのだ。


 各々が自分の剣に肉を突き刺して、火であぶり出す。普通の剣では父の出した炎に耐えきれないけれど、父の側で剣を振るうということは父の出す火に耐えきれない剣では戦えないということなので、特別製だったりする。

 私も自分の剣に肉を突き刺して、火であぶり出す。辺りには肉の焼ける香ばしい匂いが満ちてくる。どこからか、ぐぅ〜とお腹が鳴る音が聞こえてきた。

 そうだよね。朝食前から訓練をしていたら、お腹が空くよね。


 自分の好みの焼き加減になったら火から離し冷めるのを暫し待つ。私はレアが好みなので、それほど火は通さない。


 脂が地面に滴る様子を見ながら思わず、喉がなる。少々熱くても私は火傷をすることはないので、剣に刺した肉を一口ぱくりと食べた。


 甘い脂が舌の上に広がり、弾力のある肉を噛みしめれば、肉の旨みと脂が混じりあって濃厚さが増してくる。

 くー!!このなんとも言えないとろけるような美味しさは炎牛(プロクスブル)ならではだ。


 もう一口食べる。咀嚼する度に増す肉の旨みと口の中に溢れる肉汁。なんて幸せなのだろう。

 皆が無言で食べ続けている。


 私は再び肉の塊を剣で刺してあぶり出す。しかし、先程からグーグーとうるさい。そして、視線も鬱陶しい。

 同じく部隊長も思ったのだろう。


「てめぇーら、解散を言われたのなら、さっさと戻れ!炎牛(プロクスブル)を倒せる実力がないヤツは食う資格はない!」


 まさにその通り!この味は倒せてから食べるべきだ。


「おい!聞こえなかったのか?竜剣が与えられてないお前らにはまだ早い!」


 そう言われ渋々去っていく者もいるが、やはり中には納得できない者もいるようで、古参の人たちに突っかかる若者がいる。


「第3部隊長!ですが、そこのアホそうな子供が食べているのは、おかしいじゃないですか!」


 ん?あれ?あれだけこの師団を率いる第1師団長の父を『とうちゃん』呼びしていたのに、娘だと思われていない?それも子供扱い。


「そこの新人、覚えておけ。アホそうな子供じゃない。第0部隊のフィアロッド班長だ。きちんと覚えろ」


 うん……アホそうな子供と再度言わなくてもいいよ。


「第0部隊だって?」

「あの頭のおかしな奴らが集まっているという部隊じゃないっすか」

「やばいよな」

「なんで、そんなヤツがここにいるんだよ」


 お肉にありつきたくて留まっていた者たちが次々と口にしだした。あれ?私フィアロッド班長って紹介されたはずだけど?


 隣に座っている父を伺い見る。う……うん。怒るよね。自分の名を部下に覚えてもらえていないということだからね。


「頭がおかしいのはあなた達ですよ」


 高温の火の前にいて熱いはずなのに、背中が凍えるように寒い。


「先程から聞いていれば、呆れてしまいますね。あなた達の師団長の名ぐらい覚えておきなさい。それから、見た目でわかるでしょう。グレーメイア家の血筋だと。そのご息女を馬鹿にしたあなた達に明日があればの話ですが」


 綺麗な笑みを浮かべている激おこオカンが、この第1師団の訓練場に来ていた。置いて行ったことを怒りにきたのだろうか。


 ルーフェイスに指摘されて、私と後ろ姿の父を見比べ、慌てて逃げ去るように去っていく者たちとすれ違うようにルーフェイスがやってきた。


「お!ルーフェイス来たか!お前も肉を食うか?うめぇーぞ」

「残念ながらグレーメイアの火に耐えれる程のモノは持ち合わせていません」


 先程も述べたようにこの剣は特別製なので、第1師団のごく一部の者たちしか持っていないのだ。

 仕方がない、狩りの邪魔はされたけど、袋に詰めるという作業をしてくれたルーフェイスも食べる権利はある。


「ふくちょー。焼き加減はどれがお好みですかぁー?エミリアが焼いてあげますぅー」

「そうですねぇ。おすすめの焼き加減でお願いします」


 そう言いながら父とは逆の方に腰を下ろしてきたルーフェイス。しかし、代わりに父がおもむろに立ち上がった。


「とうちゃん。お肉はまだいっぱいあるよ?」


 普通であれば、その肉はどこに消えたのかっという程の量を食べる父だ。はっきり言って食べている量は満腹にはほど遠いだろう。


「エミリア。父は用事ができた。肉は家に送っておいてくれ」

「ふーん。そう?じゃ、たくさん狩ってきたから、まるまる一頭送っておくよー」


 私は父にブンブンと左手を振って送り出す。父にしては珍しい行動だ。私と同じく肉好きの父なのに。


「はぁ、最近の若いもんは口ばっかりで困るなぁ」

「俺さぁ、団長の名を出せば流石にわかるかと思ったんだけど、まさか団長の名を知らないなんて思わなかった」

「今回はどこに放り込まれるんだろうな」

「以前、嬢ちゃんを馬鹿にした奴らは、北の峡谷に落とされていたな」


 鎧を着て無心で肉を貪っていた人達が、コソコソと話しだした。どうやら父は自分の名を覚えていなかった人達に制裁を加えに行くらしい。数日は帰ってこないと、母に連絡しておこう。


 そして、私は私の分とルーフェイスの分の肉を剣に刺して、火に炙っていったのだった。





_____________


幕間


「そう言えば、団長と嬢ちゃんの肉を食べている姿って、そっくりだよな」

「それ、わかかる!」

「飢えた獣が肉を食っているって、感じだろう?」

「今は隠れて見えないけど、あの目のそっくりだなぁ」

「爬虫類系の縦に瞳孔が伸びる感じだろう?本人たちは気がついていないみたいだけどな」


 コソコソ話している男5人は、一人一心不乱に肉を貪っている男を手招きして、呼び寄せる。


「なんだ?」


 肉を食べているところを邪魔をされて、不機嫌のようだ。


「ちょっと、聞きたいんだが、あの二人が婚約したって本当なのか?」


 一人の者が少女のような小柄な女性と銀髪の麗人と言っていい男性を指して聞いてきた。


「ああ、本当だぞ。それが、どうした?」


 聞かれた男は不思議そうに首を傾げる。一般的に公表されているので、本当も何も事実でしかない。


「嬢ちゃんの男嫌いは治ったのか?」


 彼らは子供の頃から知る女性の事が心配で聞いてきたようだ。


「多分直ってないぞ。ルーフェイスが言うには悪意ある好意敏感らしいから、でろでろに甘やかせばいいだろうと言っていた」


 その言葉に、5人の男たちは目の前の光景に納得した。少女の様な女性を膝の上に乗せて、手ずから肉を食べるように促している麗人。その行為に対して顔を真っ赤にして首を振って拒否している女性。


 男たちは子供の頃から知る女性がちょっと心配になっていたようだ。グレーメイアの一族は戦闘種族のため恋愛というものは不得手だと聞き及ぶが、この分だと心配無さそうだと。



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