聖女になってしまいました
「えっと……終わりましたよ?」
「あ、今のは……」
神官長も夫妻も今目の前で起きた事が信じられないという顔をしていた。
「もしや、ミーシャ様は……」
「聖女に選ばれたようです」
あはは。と困った顔で笑うミーシャだが周りはそれ所ではない。まさかこの端にある神殿で聖女が誕生するとは! 更に自分の子がなるとも思ってもみなかった夫妻。
その日、新しい聖女が誕生した事を民に知らせ国中がお祝いする日となった。
聖女が誕生すればすぐ様王宮に連絡をしなければならない決まりで、聖女は王宮の神殿に住み修行を行う。それからのんびり屋だったミーシャの生活がまるっと変わってしまい、朝起きたら本を手に庭で読書していたのが朝早くから起きては祈りを捧げ奉仕活動と忙しい日々を過ごす事になったのだった。
※
そんな日々を過ごして5年。ミーシャは15歳になっていた。
のんびり屋だが根は真面目なのでコツコツと修行をし奉仕活動も積極的に行っていた事で、民からの信頼も厚くまた癒しの力は高まり今や王宮の最高神官長よりも強くなった。
今日も神殿で祈りを捧げ、民に癒しの力を施す。
「お身体は如何ですか?」
「わぁ! 動かなかった足が動くぞ! これで仕事が出来る家族にもちゃんとした飯をあげられる! ありがとうございます聖女様!」
涙ながらにお礼を言うのは、足が事故で動かなくなってしまった男性。医者にも匙を投げられ一生動かないままだったのだが、ミーシャが奉仕活動で彼の家の近くをたまたま通り周りの人達が助けてやってくれと声を掛けて来たのだ。
本来であれば治療にはお金が掛かるが、彼には医者に掛かるお金や家族を養うだけでいっぱいいっぱだったのだ。それ故に、ミーシャは無償で彼の足を治す事にした。
無償で治すと他の人も殺到してしまうからするのは良くないと神殿の人達にも言われているが、救えるのにしないという選択肢はミーシャにはなかったのである程度の重症患者のみにする事を約束していた。
「ふぅー」
疲れた身体を労る様に部屋のソファに沈める。
「もう長い事しているとはいえやっぱり長時間は疲れるわね」
15歳になったミーシャは大人になるにつれてどんどん美しくなっていった。元々艶があった髪は、神殿のお世話役の人が「この艶は私が守ります!」と意気込んでくれたお陰で継続されている。
顔は特別美人という訳では無いが、素朴な美人といった感じで化粧をすると更に豹変する。
『ミーシャ疲れた?』
『ミーシャ頑張ってる!』
『ミーシャ無理すんなよ』
あの日からこの妖精達はずっと傍にいてくれた。修行が大変だった時や力が足りなくて助けられなかった人がいて辛かった時。いつも傍にいて、私を励ましてくれた。
「ありがとう。ミルク、マカロン、チョコ」
この3人は名前がないと言っていたので名前をつける事にしたんだけど……センスが無さすぎて食べ物の名前で落ち着いてしまった。
ミルクは金色のふんわりした髪で優しい性格の男の子。マカロンはピンクの長い髪にぱっちりの目で元気いっぱいの女の子。チョコは赤い髪にツンツンした髪型に猫みたいな目で少し言葉が乱暴だけど言っている事は優しい。
私1人だったら絶対挫けていたと思う。この3人がいてくれて良かった。
「まぁ、まさかこんなに忙しいとは思ってなかったけど……」
のんびりしていたあの頃が懐かしい。と浸っていると……
コンコン、ガチャ!
「ミーシャ。そんな風に座っているなんてはしたないぞ」
返事もしないで勝手に入ってきたのは、この国の王子ヘンリー・モーティス第1王子だった。
「ヘンリー殿下失礼致しました」
「聖女がそんなのだと知られれば婚約者の俺の評価も下がるからな気を付けろよ」
「…………」
2年前にヘンリー殿下と婚約する事になったのだが、最初は物語の様な王子様みたいでドキドキしていた時もありました。
…………えぇ、ありましたよ! 一瞬で覚めましたけどね!
ヘンリー殿下は見た目は王子様だが、中身は氷の様にカチカチでこう! と思った事は中々意見を変えるのが難しかった。要は融通が利かないのだ。少しでもミーシャが気を抜くとすぐ様一言申して来る為、自分の部屋でも気を張る事が増え精神的にしんどくなってきていた。
『うわー、また来たよ!』
『こんなカチカチ王子は本当に氷の様にカチカチにしちゃえ!』
『こんな奴の言う事なんか気にするな!』
(ありがとう皆。でも悪戯はだめだよ?)
殿下の婚約者になった頃は、令嬢達からのやっかみが凄くそれを見た精霊達が蜂に追いかけさせたり10歩歩く毎に躓かせたりしていた。