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「記憶がない…?」
彼女は不安そうにコーヒーの入ったマグカップを見ていた。
「気がついたらあそこにいて…自分の名前すら思い出せなくて…でもなぜかはわからないけど冷静だったんですよね…」
彼女はポケットに入っていた携帯を見せてきた。
「とりあえず自分は何者なんだろうと思って、携帯を開いたらメモがあって…」
そのメモはこう書いてあった
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私は病気を治す代わりに私の寿命を残り1年とした。
そして紙にサインをして貰った人から寿命を何年か貰えるらしい。
契約上これ以上書き留めて置くことはできない。
「このメールを見て私病気だったんだ…ってことと寿命が残り1年しかないってことが分かって…でも不思議とこわくはならなかったんです…
焦りとか…そういうの無くて…」
彼女がなぜ次のページを見せてくれないのかが不思議だったが、あまり気にはならなかった。
「じゃあ何で…僕なんかのためにあなたの残された1年を使おうとしたんですか?」
そう言うと彼女は「うーん」と少しなげいていた。
「あなたが…なんだろ…可哀想に見えたんですよね…」
「可哀想?」
「普通の人なら寿命くださいって言われても、適当にあしらう所をあなたはしっかりと最後まで話を聞いて、自分の悲痛な体験談を語って…まるで死に場所をさがしていたかのような感じで…」
初対面の人にここまで見透かされているとなると自分は本当に溜め込んでいたんだなと実感した。
自分は黙り込んでいると、何かを察したように彼女は口を開いた。
「人はいずれかは死んでしまうし…それがいつなのかが分からないから人生というものを送っているんだと思うんですよ、だけど後1年で自分は死ぬって分かりながら生きても、生きている心地がしなくなるんですよ
…でも誰かのために生きてるって思えたら生きている心地が取り戻せるんですよ」
彼女はニコッと笑った。
「あなたと話してやっぱり思いました…
生きている心地がしたんです」
彼女はコーヒーを口に含んだ。
そして、「苦い」と言い微笑んだ。
「やっぱり、さっきまで味のしなかったコーヒーも苦いっていうのがわかって…
あなたには感謝してます、
生きててくれてありがとう」
彼女はお辞儀をした。
初めてなのかもしれない、
生きててくれてありがとうと言われたのは。
不思議と自分も微笑んでいた
「…苦いなら牛乳いります?あと砂糖も…」
「はい!お願いします!」
彼女と出会った時はあまり気づかなかったが…
こう話していると、彼女が美人だと言うことに気づいた。
「…どうしたんですか?まじまじとこちらを見て…」
自分は…今日からこの人と生活するのかと思うと少し緊張してきた。
「…?」
彼女は首をかしげた。
「す、すみません!僕はもう寝ます!明日も学校あるので…シャワーとか適当に使っても良いです!あと…一階に部屋あるんでそこで寝泊まりしてください!」
そしてリビングから急いで出て彼女が寝泊まりする用の一階の部屋に布団を敷いた。
敷き終えるとすぐにその部屋から出て、2階の自分の部屋に入った。
「…明日は休日なのに学校があるのか…」
彼女は首をかしげた。
翌朝、いつものように目が覚めた。
そして一瞬で昨日起こったことを思い出した。
「何してるんだろ…俺は…」
それと同時に友達が言っていた言葉を思い出した。
「良いよなぁ、朝おきたら奥さんが朝御飯を作って待っててくれるという光景が堪らなく俺は好きだわ」
「…まだ経験したことないだろ…」
その時はなんとも思わなかったが、なぜか今では滅茶苦茶心に刺さってしまった。
そして唐突に脳内で妄想が始まった。
暖かい味噌汁、そしてご飯の炊ける音、
その後に香ばしく香る…焼き魚の匂い…
すると香ばしい匂いがしてきた…?
その匂いは一気に焦げ臭いものに変わった。
「…火事!?」
急いでリビングに向かうと、そこには食器類が散乱したキッチンと「やらかした」と言わんばかりの表情でこちらを見る彼女がいた。
「…おはようございます」
「おはようございます…」
そして不安だらけの彼女との生活2日目が始まった。