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第35話 襲撃と決着

 燦々と輝く脚光を浴びて私は舞台の上に立つ。

 前世では大勢の前に姿を見せることは殆どなかったので普通ならびくついてしまうのだが、不思議と堂々とすることが出来た。周囲から注がれる視線も、拍手喝采も気にならない。スカートの裾を摘まみ、軽やかに淑女の礼をするだけで周囲から息を飲む声が聞こえた。

 この光景を私はよく知っている。

 そしてこういう時に、私の傍にはいつも彼がいた。


(ああ、そうだ。こうやってよく大勢の人の前に姿を見せていた)


 薄っすらと自分が何者だったのか、記憶が浮かんでくる。


()()()()()()()、よくも私のルーファス様を奪ったわね!!」

「!?」


 舞台の上には灰色の短くなった髪の女性が佇んでいた。血走った瞳に修道服を着た彼女は煉獄から這い上がってきた幽鬼のようだ。

 悲鳴が上がった。他の参加者の女性たちは勿論、舞台に集まっていた人たちは彼女の持っているそれに気づき、一斉に逃げ出した。脈打ち膨れ上がるそれは周囲一帯を吹き飛ばす第一級危険鉱石、焔魔石。


(ヴェロニカ姫? 姫? 私の事?)

「アンタだけ幸せにさせるものか! こうなったら道連れよ!」


 キンキンと耳鳴りのような声。

 それも前にどこかで聞いたことがあった。

 あれは──どこだったか。


『いたわね。……泥棒猫』

『そんなことはどうでもいいわ。よくも、よくも、よくも、よくも私のルーファス様を奪っておいて許さない!』


 ああ、そうだ。()()()()彼女は怒っていた。

 ノイズとともに失った記憶が脳裏にちらつく。膨大な記憶と溢れる様々な感情に押し潰されそうになるのを、無理やり抑え込んだ。


(今は、この場での爆発は何としても避けなきゃ。でも私に何が出来る?)


 ふと彼の姿が脳裏をよぎった。

 白銀の長い髪、甲冑を着こなす──騎士。


『ヴェロニカ姫。なんで助けを呼んでくださらないのですか!? あと私の名前も呼んでくださってない!』


 それは私の知らない──でも私の中にある記憶。

 色褪せる事ない彼への想いが、行動を起こさせる。

 来てくれる、そう信じて私は口を開けた。


「──助けて、ルーファス!!」


 あの夜の時に遅れてやってきたルーファスは血塗れだった。でも来てくれた。

 彼が来なかった時は一度だってない。

 呼んでなくても颯爽と現れるのだ。だから彼に助けを求めたのは──たぶん、出会った時ぐらいだ。


「ヴェラ!!」

「!」


 それは流星のように文字通り空から降ってきたかのようだった。

 ルーファスは私の目の前に着地。その衝撃で舞台の木材が軋んだが、そのまま跳び、修道女に容赦ない膝蹴りを食らわせた。


「がはっ……」


 次いで手にしていた焔魔石を力いっぱい空へと放り投げる。瞬き一つする合間の出来事だった。

 焔魔石は打ち上がる花火のように空へ舞い上がり、オレンジ色の爆炎と共に弾けた。

 轟ッツ!!


「──っつ」

「ヴェラ!」


 爆風に吹き飛ばれそうになる私をルーファスが抱き寄せる。

 あの夜とは異なり、彼に怪我はない。彼は大きく息を吐くと、私を抱き上げた。宝物を扱うように優しく、温かい。


「ルーファス」

「遅くなりました。怪我はありませんか?」


 涙が零れ落ちた。恐怖からではない。安堵したからだ。

 怖がっていた過去の記憶。

 確かにルーファスの言動に傷ついていた。けれどもそれ以上にルーファスを愛していたのだ。


「許してあげる。……それに今回は私も貴方に助けを呼んだのだから、褒めて欲しいわ」

「ヴェラ?」


 ルーファスはハッと私の顔をまじまじと見つめる。

 爆風から刺客が数人ほど彼の背後から襲い掛かろうとしていた。


「死ねぇえええ!」

「打ち取った!」

「ル──」


 私が何か言う前に刺客たちは爆風の中から消え──いや誰かが刺客を連れ去ってこの場を離れたのだ。ジュリアも衛兵に取り押さえられている。


(今のは? 味方?)

「ご安心ください。これで敵の全ては制圧しました。……それより、ヴェラ」

「ルーファス?」


 そっと頬に触れる彼の手は温かくて心地よい。

 ああ、そうだ。私は普通に恋人として傍に居たかった。ぐるぐると遠回りをしてしまったけれど──最終的には彼の胸の中にいる。


「もしかして思い出されたのですか?」

「……鋭いわね。まだ困惑しているけれど、だいたいは思い出したわ」

「ヴェラ、私は」


 私は彼の言葉を遮って唇に触れた。ついばむように何度もキスをする。

 ルーファスはきっと謝罪をしようとするだろうから、それを封じよう。


「この一件が終わったら私と結婚式を挙げてくれるかしら?」

「ヴェラ」

「昔話した、盛大な式にしたいの。叶えてくれる?」

「……ええ、もちろん。七年前の貴女の描いた結婚式をしましょう。ドレスの採寸を再度行う以外はいつでも可能です」


 ルーファスはもう一度私を力強く抱きしめる。これが夢でないと実感したいのかもしれない。互いの温もりが、心音が現実だと告げる。


「愛しているわ。ルーファス」

「私もずっと愛しております、ヴェロニカ姫──いや、ヴェラ」


 爆風が晴れると割れんばかりの拍手と歓声が中央広場に響いた。いつの間にか中央広場には人が戻ってきていた。

 今までの一部始終を見られていたのだと気づき、私は顔が熱くなる。ルーファスはにこやかに微笑み「私はアイシア領の現当主ルーファス=オクリーヴだ」と自らの名を明かす。

 彼の言葉に民衆は拍手を止め、静かに耳を傾けた。


「そして彼女はカルム王国第五王女ヴェロニカ=レノン・ラティマー様、私の妻となる方である。長年続いていたネーヴェ帝国の残党も討伐した今、私は彼女と一緒にこの領土の復興に尽力していく。どうか私たちの結婚を祝福し、力を貸して欲しい!」


 先ほどよりももっと大きな拍手が鳴り響いた。こうしてネーヴェ帝国の残党襲撃事件は未遂に終わり、私はオクリーヴ夫人として公式発表の場となった。

いつも読んでいただき、ありがとうございます(о´∀`о)

毎日更新を予定しておりますが、「いつも楽しみです!」と思ってくださったら嬉しいです。

最終話まであと2話。本日完結します


下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマ・感想・レビューもありがとうございます。

執筆の励みになります(о´∀`о)

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