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第3話 ヴェロニカ姫・後編

 主語が相変わらず仰々しい。

 あと「気持ちを無視しているのはどちらの方だ」と叫びたそうになった。あの夜のセリフを私が聞いてないと思っているのだろうか。少なくとも噂ぐらいになっているのに、それすらも気づいていないとすれば酷い仕打ちだ。今まで誰ともダンスを踊らなかった『女嫌いの王国最強』が、二人とだけダンスの相手をすれば噂になるのは火を見るよりも明らかだ。そして私とのダンスは『護衛騎士として仕事の範疇』だとすれば、残る一人は本命ではと考えるだろう。

 それどころか「どちらかが恋人または愛人なのでは?」などと社交界で噂になっていそうだ。城の侍女や使用人たちは気遣う視線や言葉が正直辛い。彼の名が出るたびに胸がざわつくのに、私にはもうルーファスの気持ちが、どこにあるのか分からない。


「姫は私が居ないとダメダメなのですから、私から離れるなど言ってはダメですよ。ヴェロニカ姫、今からでも配置換えを元に戻してくださいませんか?」

「…………」


 ルーファスは今まで通り接してくる。

 魔法学院までの距離を考えると、そろそろ馬車に乗らなければ間に合わない。この一か月、平行線のまま何一つ進まず、時間切れという形で先送りとなる。


「貴方と話すことはもうないわ」

「ヴェロニカ姫。そんなことを言うと、通学中に襲われても助けられないではないですか」


 眉を八の字にして真剣に私の身を案じてくれるルーファスには悪いのだが、有能な人材を遊ばせておくわけにはいかないのだ。

 そもそも彼が私に忠誠を誓っているのは子供の姫と騎士ごっこの延長なだけで、ルーファスは私に対して恋愛感情はない。だというのに大切にされて、甘やかされて、恋人のような甘い囁きを毎日聞いていたら、誰だって気があると思うのではないか。

 実際に私は勘違いしていた。

 だからルーファスの申し入れを承諾する気は一切ない。

 しかし彼が必死なのは別の理由があるからだ。今までルーファスは「仕事命、ヴェロニカ姫以外興味がない」と断っていたのだが、守護騎士から外されたため、縁談話がひっきりなしに届いているのだろう。正直、自業自得である。

 それに彼の騎士としての忠誠心は、今後政略結婚する相手(婚約者)ができた時、有難迷惑でしかないし、私もいい加減ルーファス離れをすべきだ。

 主従関係以上に発展しないのならなおさら、離れるのは早い方がいい。そう思ってルーファスと距離を取った──というのに。この男は全くもって自分の事しか考えていないのだ。


「それじゃあ、行ってくるわ」

「姫様、いってらっしゃいませ」

「ちょ──、ヴェロニカ姫、お待ちください。話はまだ終わって──」

「ルーファス様、ここは抑えてください」


 衛兵が毎度の事に困惑しながらルーファスを止める。もっともルーファスが実力行使に出たら衛兵など瞬殺である。そのため衛兵たちも私の壁となるだけで捕縛しようとはしない。彼もその辺は分かっているのか武力で衛兵を押さえつけはせず、壁を潜り抜けようと試みる程度だ。


「ヴェロニカ姫!」

「姫様、遅刻する……」

「わかっているわ」


 玄関から現れた従者のケヴィンが私の手を取り、馬車に向かって歩き出した。

 彼は私と同い年の青年だ。黒の燕尾服を着こなして、その上から魔法学院のローブを纏う。素直に制服を着ればいいのだが、彼のポリシーが許さないらしい。ケヴィンは私の従者として一緒の魔法学院に通っている。金髪に水色の瞳、儚げで美しいその容姿は学院でもかなり目立っていた。もっとも当の本人はあまり周囲に関心がないのか、いつも無表情で基本的に素っ気ない。


 ケヴィンとはもう五年の付き合いだが、弟のように可愛い。身分は没落貴族の嫡男、現在は私の執事としているが彼の正体は人ではない。この世界で吉兆とされる聖獣である。本来の姿の方が愛らしいのだが、このことは私と王族と護衛のルーファスだけの機密事項である。それでなくとも年がら年中攫われているのに『聖獣の契約者』として、これ以上攫われる要素を増やしたくないからだ。


「ああ、ヴェロニカ姫!」

「え、ちょ、ルーファス殿。みなルーファス殿を抑えるのだ」

「ハッ!」

「ヴェロニカ姫、まだお話が──」


 衛兵たちが総出でルーファスを引き留めてくれる。

 その間に馬車に乗り込むと、御者はすぐに出発した。馬車の傍には騎士が二名、馬に乗り護衛として付いて来ている。馬車の窓から周囲を見る限り、ルーファスの姿が追ってくる様子はなかった。今日は諦めたのだろう。いい加減、私を大切に思っているというポーズもやめてしまえばいいのに。

 窓から変わりゆく景色を眺めながら私はため息をついた。


(護衛の任を解いたら喜ぶと思っていたのに……。どこまでも私の気持ちをかき乱すのね)

お読みいただきありがとうございます(੭ु ›ω‹ )੭ु⁾⁾♡


下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマ・感想にレビューなどありがとうございます。

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