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第23話 ナンシーの視点3


「ギルバート殿下! やはりヴェロニカ様でなければダメなようです!」

「!?」


 部屋に飛び込んできたのは話題の張本人である王国最強騎士ルーファスだった。この騎士も黙っていれば眉目秀麗で目の保養になる。今日は甲冑ではなく、紺色の軍服に身を包んでいる。その姿も凛として美しい。

 黙っていたら。もう一度言うけれど、黙っていたら。

 後ろには警備兵が転がっているのが見える。見ちゃいけない気がする。この人、予想以上に無頼漢のような荒々しさがある。涼しい顔をしているが激情型なのかもしれない。こんな規格外をヴェラは本当によく手懐けたものだと拍手を送りたい。


「あー、ルーファス。今は来客中だから後で」

「いえ、ギルバート殿下。私は構いません」

「はあ。……じゃあ、同席してもらおうか。ルーファスも問題ないな」

「承知しました」


 ギルバート殿下は部屋に入り込んだルーファスへと視線を向ける。


「それで、ルーファス。会合の時間はもう少し後だったけれど、検証結果は出たのかな」

(検証結果?)

「はい。やはり他の令嬢では触れるのも、触れられるのもダメでした。不愉快極まりない手の感触、生ぬるい温度、吐き気すら覚えるような感覚は最悪で──思わず手首を切り落とそうになりました」

(サラッと恐ろしいことを言った!?」

「手袋越しでもか?」

「はい。手袋越しでもダメですね」


 話の内容から察してルーファスは自分の潔癖症が完治したかを試すために、サロンやパーティー会場にいる令嬢たちで試したのだろう。結果はごらんのとおりというわけだ。そう考えるとあれだけヴェラに過度な接触をしていたのが嘘のように思える。


「なるほど。ああ、でも君の、好みの、亜麻色の髪、エメラルドの瞳の彼女は? ほら、従兄妹の」

(単語一つ一つに凄まじい圧を感じる。腹黒大魔王怖い)

「ジュリアですか。他の女性と同じ、触れるだけで吐き気を覚えます。何よりあの視線は、正直耐えらませんね」

「ふーん、へー、でもヴェラは違うと」

「もちろんです。天と地の差があります」

「じゃあ、君の体質が完治したわけじゃない。となると君の中で応えは出たのかな」


 ルーファスは首肯する。


「ええ……。そもそもヴェロニカ姫とあの群がる害虫とは何もかも異なります」

(害虫って言い切ったよ、この人……。さっきから手首を切り落とすとか、本当に騎士道精神をどこに捨ててきたのだろう)

「化粧臭い匂いに、強烈な香水、下卑た笑みに、物欲しそうな欲の塊をした双眸。あんな害虫たちよりも、ヴェロニカ様にお会いしたい。たった数日、会わないだけで千日も経ったかのように心が渇き、悪夢を見るのです……」

(予想以上に拗れて重症だな、この人)

「……一刻も早くヴェロニカ姫の隣に戻らなければ、私以外の男が並んでしまう。既に護衛で並んで歩く姿を何度も見ました。あんな光景、そう何度も見続けられません」

「別の男って……護衛騎士のことか?」

「はい。正直、斬りかかりそうになりました」

(恐怖! 予想以上にサイコパス! ヤンデレ属性が付きそう)

「ふーん、で。ルーファスのいう感情の名前ってなに?」


 今まで食い気味で応えていたルーファスは、顔を歪め葛藤しつつも答えを導き出す。いや、遅いから。その葛藤もっと早くしてあげて欲しかった。


「………………『愛しい』という感じの意味合いが近いかと考えています」


 葛藤の末、ダメかと思ったが、思いもよらぬ進歩に正直驚いた。


「なるほど。まあ、そっか。ヴェラは君が護衛騎士になって八年間、その隣を独占していたのだから気付かなかっただろうね。ヴェラの隣に居る心地よさが当たり前で、ずっと続くと思っていたのだろう」

「その通りです」

「残念。騎士ではその位置を続けるのは、もう限界なんだよ。だってヴェラは大人の女性になったのだから」


 ルーファスはグッと唇を固く結んだ。

 当たり前の事実ほど見逃しやすい。


「彼女の夫が隣を奪っていくのは当たり前じゃないか。でも君はそれでもいいからヴェラの気持ちに応えなかったのだろう」

「それは──」

「君の事情は理解している。でも本当にヴェラを諦めたくないなら、一つ策があるけれど、やるかい?」


 その問いかけにルーファスは即決する。

 計画というのは、アイシア領の問題解決と絡めた政略結婚だった。もっともその意図は護衛騎士という立場に戻っても、差し迫っているのは第五王女(ヴェラ)との縁談話を断り切れないということだ。婚約の場合では隣国の求婚話を断ることは既に難しいそうだ。「貧困しているアイシア領を救うため当主の息子と結婚して復興支援を行う」という大義名分で、他国からの縁談を断る強硬手段しかないらしい。

 そうしなければ待ったなしでレガーメ国、ネーヴェ帝国が荒手に出るという情報を得たそうだ。

 ヴェラを宮廷に呼び出して、ルーファスからの告白や謝罪をすっ飛ばして、政略結婚話が進行。


(いやいやいやいやー! 待って。待って。順序が違うぅうううううううう。これ失恋した相手に政略結婚させられる話になるから! なに鬼畜な所業を妹にさせるの!?)


 盛大にツッコミたかったが、ギルバート殿下が笑顔で「黙っていろ」と圧をかけるので殆ど無言に徹するしかなかった。

 アクセサリーも全てはヴェラを守るためであり、ギルバート殿下としても可愛い妹のために出来るだけの助力をするつもりだった。傍から見たら一ミリも伝わってないが。


(いや、うん。最初に告白して、そして求婚すればよかったと思うのにぃいいいいいい! 俄然、ややこしくなった!)


 結果。ルーファスが「ヴェラのことを愛している」云々の告白や、隣国の情勢などをすっ飛ばして本題に入ったのが悪かった。

 もろもろの説明を終えた今、順序が逆になったがここからルーファスは自分の本心を語って、ヴェラに受け入れてもらえるかどうかは──賭けに近い。いやもはや奇跡じゃないか。

 なにか助言や気に聞いたことを言おうと口を開いたものの、ギルバート殿下の視線が怖すぎて私は終始置物のように固まる事しかできなかった。ごめん、ヴェラ。

いつも読んでいただきありがとうございます。

ナンシーよく言った笑


下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。凄く嬉しいです(*´ω`*)

執筆の励みになります╭( ・ㅂ・)و̑ グッ


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