第22話 ナンシーの視点2
「本当にヴェロニカ姫は甘くて、優しくて、ちょろいですね」
「……そうやって、いつも私を馬鹿にして楽しい?」
「とんでもない」
優しい声音で、王国最強騎士は否定する。けれどその言葉がどれだけヴェラを傷つけているのが分かっているのだろうか。向き合うルーファスは紳士的にヴェラの手を取って傅く。傍から見たら騎士と姫の仲睦まじい姿だが、内容はあまりにもかけ離れている。
「ヴェロニカ姫には私が居ないとダメダメだって分かって欲しいだけです」
「それのどこが馬鹿にしていないというの?」
震える声で我慢しているヴェラは傍目から聞いていて辛そうだった。私には関係ないのに、それでも胸が熱くなって、涙が出てきそうだった。どうしてこの男は彼女の欲しい言葉ひとつかけてやれないのだろうか。
「ヴェロニカ姫が大事だからこそ、私の重要性を理解して欲しいのです。でないと姫様が余所見をしてしまうでしょう」
「余所見?」
「私以外の虫けらと会話をしたり、微笑んだりしているではないですか」
それは間違いなく嫉妬だ。
なぜその気持ちが湧き上がってくるのか分かっているのだろうか。
「私にだってルーファス以外の人たちとの付き合いはあるのよ」
「ダメです。そんなのは許せません」
「大事で、大切で、誰にも渡したくないのですから、ちゃんと私に頼って頂かないと困るのです」
もう告白しているようなものじゃないか。これなら多少すれ違っていたけれど、結ばれる展開に十分なりえる。そう期待したのだが──。
「でもそれは……私を好きだという事ではないのでしょう」
「もちろんです。私は貴女の騎士なのですから、あんな低俗な感情を姫に向ける筈がありません」
漫画みたいな展開になることなんてない。
あまりにも残酷な言葉が返ってきた。『好き』という感情そのものが『低俗』だというのだ。『恋』を『愛』を『恋愛』を馬鹿にして、汚らしいもので一括りにしている。
それが私には許せなかった。
「結婚をするのなら、亜麻色の髪、エメラルドの瞳、胸が大きくて、家庭的な人がいいのでしょう」
「はい。その通りです」
「死ね」
「酷い」
なんでこの王国最強騎士はここまで酷いことが言えるのだろう。何より酷かったのはヴェラの言葉を最後まで聞かずに消えたことだ。
あんまりじゃないか。
確かに後からヴェロニカ姫を狙った賊を討伐して戻ってきた時は、若干だけれど溜飲が下がった。でもヴェロニカ姫はそれを知らない。
午後の授業で思わず「あの午前中に講師を務めていたのって、ヴェラの何?」と尋ねてしまった。
ゲームのイベントらしいフラグは立たないし、そのせいで攻略キャラとの接点もない。でも何とかしなきゃ、何も変わらない!
それにこれは賭けだ。
ヴェラは『光の加護』以外に『転生者』だという噂を聞いた。幼少時代にその黄金を生み出すような対策や知識の数々で国を救ったとか。ただすぐに緘口令が引かれてしまって事実かどうかは不明だ。
ヴェラが転生者かどうかを知る際に一番いい方法は、前世の文字つまり日本語を見せる事。それとこの世界がゲームに近いことを知れば何かしら役に立つかもしれない。そう思ってノートをわざと落とした。
次にやることはギルバート殿下にヴェラの状況を話して打開する事だ。実はギルバートルートの最期の最期で後で、妹を溺愛していた云々が語られる。ノートにはネタバレになるからと、その事実を文章に残そうとした時に悪寒が走ったので書かなかった。どちらにしてもヴェラ溺愛の設定までは崩れていないことを祈るばかりだ。
入学前から手紙を送りまくって、やっとギルバート殿下との約束を取りつけることに成功した。私が『転生者』であるということと、今後の国の行く末について話したいと入学当日から手紙を送っていたのが功を奏したようだ。最初の手紙はイベントが発生しなかったものの、図書館から飛び出した日に授業をボイコットして急いで宮廷へと馬車を走らせる。
急な来訪だったため、ギルバート殿下との面会は日を改めてとなった。いつ呼び出しが来るか分からないので学院を何日か休んで、わたしの補助魔法を使っていろいろと調べてはその報告書もギルバート殿下に届けた。
それから数日後に呼び出されて私は宮廷に呼び出され──馬車で到着するとギルバート殿下が直々に出迎えてくれた。
ギルバート第二王子との対面は驚きの連続だった。
金髪の美しい髪、整った顔立ち、空色の澄んだ瞳と長い睫毛、白く滑らかな肌、眩しいほどの王子様が私を出迎えた。見た目だけなら──。イケメンでやっぱり格好いい。
だがまあゲームの設定通り、いやそれ以上に腹黒かった。うん、ルート選択からやり直したい。全然ヒロイン補正されてないのですが、神様!
「ふーん、へぇー」
(笑顔なのに空気が凍り付く)
「ヴェラを囮にしているのには色々と理由があるけれど、僕が妹を手駒代わりにしているだなんて心外だな」
「も、申し訳ありません。……しかし傍目から見ると、どうしてもそのように感じてしまうのです」
ニコニコと笑っているのに、目が一切笑っていない。
さらに圧倒する覇気をまとったギルバート殿下は小さくため息をついた。
「まあ、そのぐらいしないと妹を守れないからね。周辺国を油断させるためにも必要な事なんだよ。まあ、その手も使えなくなってきたから婚約でまとめようとしていた矢先、あの馬鹿騎士がまた余計なことをしでかして状況をややこしくしてね」
「王国最強騎士のルーファス様ですか」
「そう。あの男の実家は少々複雑でね。女性関係で若いころに色々あったせいで女嫌いになったんだ。特に他人との接触が嫌で、彼にとっては『愛』とか『恋』などの好意的な感情は全て醜悪なものだと決めつけている」
「(触れるのが嫌、潔癖症?)……そのせいでヴェラ……ヴェロニカ様への想いに戸惑っていると?」
ヴェロニカ様の愛称を呼んだ瞬間殺意が跳ね上がった。うん、この人は腹黒大王様+ドS+重度のシスコンだと認識を改めよう。すごいな。属性がてんこ盛りだ。私、生きて帰れるかな。
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