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第14話 ルーファスの視点4

 姫の護衛の任から離れて一カ月が過ぎた頃だろうか。

 最初はこれを機に別のことに興味を持つかもしれないと思い、色々と試してみた。最初こそ面白そうだと思ったがすぐにつまらなくなった。どうやら私はかなりの飽き性のようだ。


(ヴェロニカ姫の傍はいつだって退屈しなかったのですがね。毎日のように襲撃があった訳でもないですし、穏やかな時間はありましたが、退屈だとは思わなかった……)


 結局、私はヴェロニカ姫の傍を離れられずにいた。少しでも近くに居たら退屈が埋まる気がして。けれど、近くに行こうとしてもどんどんヴェロニカ姫が遠くなっていく。姫と騎士の距離感に戻りたくて、姫様に会おうとしてもなかなか上手くいかない。

 あの手この手でヴェロニカ姫と一緒の時間を捻出したが、物理的距離は近いはずなのに心の距離が縮まりはしなかった。学院に臨時講師として彼女の近くに居ても──駄目だった。

 最後の手段と、昼休みの昼食を待ち伏せしてようやく、本当に久しぶりに二人きりになれた。ヴェロニカ姫の近くはやはり心地良い。自分の居場所はやはりここだと実感する。


(ああそうか、姫様がいつものように私に頼ってくれないからですね。だから近くに居ても、寂しいと感じてしまう)

「結婚をするのなら亜麻色の髪、エメラルドの瞳で、胸が大きくて、家庭的な人がいいのでしょう」

「はい。その通りです」

「死ね」

「酷い」


 こんな風に軽口が叩けるのも貴女だけ。

 ヴェロニカ姫が特別なのは認める。

 けれど──。

 この感情は、この想いは──違う。

 傍に居てほしい。

 だがその為にヴェロニカ姫への想いを『愛』や『恋愛』や『結婚』という最低の形で縛り付けたくはない。義務であってほしくない。護衛は任務だったが、私が望んで選んで仕えている。だが結婚は違う。あれは義務で互いの感情など入る余地のない儀式であり、()()()

 呪いでしかない──そう思っていたのに。ヴェロニカ姫を自分の傍に置く手段が、もう結婚しかないというのだから、皮肉なものである。騎士ではもう、ヴェロニカ姫との距離を縮められない。それでもようやく出会えた本物を──尊い存在を呪いで溢れた、あの領地に迎え入れることなど誰が出来ようか。守りたいと誓った相手を、私が穢していいわけがない。


「私はルーファスが大切で、大事で、好きだったわ。ずっと隣にいて欲しいとも思った。でも私の想いも貴方の言う低俗な感情が『恋』や『愛』と同じなのでしょう」

「ヴェロニカ姫……!」


 胸が軋むように痛んだ。

 何か言いたいのに声が出ない。

 ヴェロニカ姫は笑おうとして、無理やり口元に笑みを付けていた。今にも泣きそうな顔は──私から平常心を奪いそうになる。

 泣かないで。私の大切な人。

 悲しまないで。私の────。


「でももういいの。社交会デビューをしたのだから、ずっと未定だった婚約者を決める必要がある。だからルーファス」


 駄目だ。

 これ以上、ヴェロニカ姫の心が離れる前に──。

 そう思った矢先、()()()()()()()()()()()()()()()。距離からして約五十。森の木々の上に潜んでいる。数は十五。ヴェロニカ姫との関係を終わらせたくない。けれど、今動かなければこの場が戦場になる。

 決断は早かった。

 私はヴェロニカ姫の騎士。

 彼女の笑顔を、彼女自身を守る。


 敵兵を皆殺しにして戻ってきた時にはヴェロニカ姫の姿はなかった。息切れするまで必死に走ったのは久しぶりで、自分がどれだけ愚かな選択をしてきたのか嫌でも気づく。

 それでも私は──自分の過去を、自分の想いをヴェロニカ姫に打ち明ける勇気がない。

 今までひた隠しにしてきた過去を──知られたら──。

 何が王国最強か。

 自分があまりにも臆病で、愚かで、自分が彼女に取っていた行動は、騎士ですらなかったのだと思い知った。そうエリオットの護衛する姿を見て、まざまざと見せつけられた。本物の騎士がどういう者なのかを──。


 ***


 それは数日後、ヴェロニカ姫を迎えに学院入口で待機していた時だった。私ではない別の騎士にエスコートされて馬車に乗り込む姫の姿を見てしまった。


『挨拶が遅くなって申し訳ない』

『いえ。エリオット様は第一騎士団副団長でお忙しいところすみません』

『そう言っていただけると助かります。では、城までお送りいたします』


 ヴェロニカ姫の隣にいたのがエリオットだと気づいた瞬間、後頭部を殴られたような衝撃を受けた。それは私の、()()()()()()()()()()()()

 自分の中にどす黒い感情が渦巻くのが分かった。噴き出す殺意を抑える。

 同じ馬車に乗っているのを見た時に、エリオットの言葉を思い出した。


『あーそうかよ。なら、ヴェロニカ姫が今後、誰を隣に置いても、結婚しても文句をいうな』


 確かにこれでは文句は言えない。


(実際に目にすると半身が引き裂かれたような──ああ、これは正直、きつい)


 ヴェロニカ姫の隣は私だったはずなのに、笑いかける声も、笑顔も、私ではない誰かに向けられていた。

 理解していたつもりだった。ヴェロニカ姫の隣にいた時の充実感や、楽しさが永遠に続くと思っていた。居心地がよかったのは、姫がそうなるように気遣ってくれていたから。

 ヴェロニカ姫の隣に他の男が居るのは許せない。

 姫が誰かに微笑むのを看過できない。

 姫に触れたい。姫からも触れてほしい。傍にいたい。この抱いている感情は──だ。


(ああ、なるほど。複数ではなく一人に対して執着が激しいのは、あの両親の血を継いでいるのからか)

いつも読んでいただきありがとうございます(*´ω`*)

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。



執筆の励みになります(*'▽')感謝感謝

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