第1話
とある国「アレッド」
小さなその国の中央には国王や貴族といった金や権力を持つ者達が暮らしている
とある村「ゴモク村」
ここは中央から外れた村
中央の裕福な暮らしとは違い、ここに暮らす者達は貧しい生活を強いられていた
「おい!エスクードとスイフトが喧嘩おっ始めてっぞ!」
「はぁ…はぁ…」
「ふぅ…ふぅ…」
ボロボロな姿の二人の少年
「うおおおお!!」
赤髪の少年、エスクードが殴りかかる
「いいぞ!やれやれ!」
周りの大人達は止めることなく、その様子を眺めて楽しんでいた
「…………」
青髪の少年、スイフトが向かってくるエスクードをじっと待つ
ブゥンッ!!
エスクードが大振りな右フックを繰り出す
しかしそれはかすりもせず、結果として大きな隙を与える形となった
「はああああ!!」
バッキイ!!
スイフトの右ストレートがエスクードの顔面に命中する
「ぐッ!!」
エスクードがそれを耐えきる
「うらあ!!」
ズダアンッ!!
エスクードの大振り右フックがスイフトの顔面に命中する
「がはッ!!」
ドサッ!
両者が倒れる
だが
「ぐぐぐぐぐ……」
すぐに立ち上がる
「おお!今回の喧嘩はすげえぞ!」
「エスクード!スイフト!」
そこに駆け寄る金髪の少女
「ソリオ!」
「二人共!喧嘩はやめて!」
「どいてろ、ソリオ!」
「これはな……男同士の本気の喧嘩なんだよ」
「そんな……」
「いくぜ、スイフト!」
「こい、エスクード!」
「うおおおおおおおお!!」
「はああああああああ!!」
「何をやってる!!馬鹿共!!」
そこに乱入してくる一人のおじさん
「うげ!!マッカーさん!!」
「仕事放ったらかしてどこにいるかと思えば!!」
「待って!マッカーさん!」
ソリオがマッカーと呼ばれている男性を止める
「二人はね、男同士の本気の喧嘩をしてるの!」
「ソ、ソリオ!」
「ほほ~ん、本気の喧嘩か……」
「で?何があって喧嘩しとったんだ?」
「いや、その~」
エスクードがスイフトを見る
「ゴホッゴホッ」
お前が説明しろ、とわざとらしい咳払いをするスイフト
「えっとですね、仕事をどっちが一人でやるかで……」
「バカヤロウ!!」
「ひぃ!ごめんなさい!」
~~~~~
とある小さな鍛冶屋
そこで仕事をする三人
「なんで馬鹿正直に言うんだよったく」
「うるせーよ、俺に説明させたのはおめえだろ!」
「二人共ごめんね、私が余計なこと言ったせいで……」
「ソリオ、謝らないでくれ……悪いのは俺達だ……」
「そうだな、悪いのはエスクードだな」
「んだとお!?なんで俺だけなんだよ!達って言ったろが!」
「お前が「喧嘩で負けた方が今日の仕事を一人でやる」なんて馬鹿なこと言わなければこんなことにはならなかったんだ」
「それに乗ったのはどこのどいつだよ!」
「なんだよ」
「んだよ!」
「二人共!」
「……はぁ、やめよう」
「ああ、次マッカーさんに怒られたら洒落にならない」
~~~~~
仕事を始めてから数時間が経過した
ドパーン!!
外で何か音がした
「わあ!見て見て!」
ソリオが指をさす
「花火か……」
中央の方から花火が上がっていた
「チッ!金持ち共が……」
スイフトはそれを見てすぐに仕事に戻った
「…………」
「キレイだね、エスクード」
「そうだな」
~~~~~
ここは中央にある都「ヘラクレス」
そこにある一つの宮殿
今そこでは賑やかなパーティが開かれていた
第12代国王エルグランドの娘、「エムグランド」の20歳を祝う誕生日パーティ
「エムグランドよ、おめでとう」
「お父様!」
「今日は20歳の誕生日、それだけでも充分喜ばしいことだが」
「今回は特別な誕生日プレゼントを用意してある」
「本当!?」
「ああ、期待していなさい」
「ありがとう、お父様!大好き!」
「国王様!!」
駆けつけてきた一人の兵士
「どうした!」
「武装をした集団がヘラクレスに向かってきております!」
「……そうか、分かった」
「お父様?何かありましたの?」
「いいや、なんでもない」
「エムグランドはこのパーティを楽しみなさい」
「はい!」
エルグランドがパーティ会場から離れた一室へ向かっていく
その部屋には7人の者達が集まっていた
「話は聞いたぞ、エルグランド」
「アレッドに侵入した者達がいるみたいだな」
「つまり俺らの出番って訳かい?」
「いいや、今回お前達に頼みたいのはこの宮殿の防衛だ」
「なに?あくまでここを守れと?」
「ああ」
「じゃあここまで来るのを黙って待つのか?」
「いや……」
「まさか……あれをするのか……?」
「…………」
「本気か?敵は一体なんだ?」
「正体は分からない……しかし奴らはよりによって"今日"攻めてきた」
「狙いは儀式だ…奴らから儀式を守らなければならない」
「そのためなら……」
「犠牲を生むのも厭わない、か」
「…………」
「ここは…頼んだぞ」
「ああ、了解だ」
~~「ゴモク村」~~
「武装集団が攻めてきたぞお!」
一人の男性が大声で叫ぶ
「おい!エスクード!スイフト!ソリオ!」
「マッカーさん!」
「お前達、これを持て!」
「これ……」
3人に一つずつ剣を渡す
「俺がこの人生で作り上げた中の最高傑作だ」
「どうして……」
「敵が攻めてきたんだ!自分を守るために武器は必要だ!」
「でも、マッカーさんは人を斬るために作ってた訳じゃ…」
「そんなことも言ってられないだろ!」
「はやく!中央へ避難するぞ!」
「……はい!」
武装集団が中央へ走る
「目的はあくまでも「アクア」様の救出だ」
「なるべく民間人には手を出すなよ」
「了解」
その先にマッカー達がいた
マッカーが後ろに武装集団がいることに気づく
「あれは!!お前達!先に行け!」
マッカーが立ち止まり、剣を構えた
「な、マッカーさん!」
「はああ!!」
マッカーが向かっていく
「む!?あれはこの村の住人か?」
武装集団のリーダーと思われる男が剣を抜く
ガキン!!
マッカーの剣を防いだ
「スペイド様!」
「お前達は先に向かえ!他の者達やプリウス様は今も中央へ向かっているのだ!我々がここで足止めを喰らう訳にはいかない!」
「は、はい!」
「行かせるかあ!!」
マッカーが剣を振り回す
ガキン!!
スペイドと呼ばれていた男が剣でそれを制御する
「ぐぬぬ……」
「良い剣を持っているな……しかし扱いが雑だ」
ズキャア!!
マッカーの剣が手から離れる
「我々はあなた達に危害は加えない」
「しかし我々の邪魔をしようというのであれば……」
「容赦はしない」
「ぐ……」
スペイドが後ろを向き、中央へ向かおうとする
その隙をついたマッカーは剣を拾い、スペイドの背中を狙う
ザシュッ!!
「がはッ!!」
血が滴る
「このような結果になってしまったのは非常に残念だ」
スペイドの剣がマッカーを貫いていた
ドサッ
「マッカーさん!!」
エスクード達がマッカーに駆け寄る
「…………」
スペイドが無言で立ち去る
「待てよ……」
「何、黙って行こうとしてんだよ」
エスクードとスイフトが剣を握る
「待って!!駄目だよ!!」
ソリオが二人を止めようとする
「ソリオ、お前は逃げろ」
「俺達はあいつを殺す!」
「君達の……知り合いだったか」
「捨てられてた俺達を大事に育ててくれた……」
「俺達の父さんだ!!!」
「そうか……それはすまないことをした」
「ふざけんなよ……」
「うおおおお!!」
二人がスペイドに向かっていく
「やめて!!」
ガキャアン!!
二人の剣は簡単に飛ばされた
「く……!!」
「私には、我々には救わねばならない人がいる」
「その方を助けるためなら、私達はどんな非道なことだってする」
スペイドが剣を二人に向ける
「しかし……」
「命を取るのは間違っていた」
剣がゆっくりと下がる
「あの者には……大事な人達がいたのだな」
「今更……」
「今更そんなこと言ってんじゃねえよ!!」
「…………」
スペイドが剣をしまい、立ち去ろうとしたその時
ズゴゴゴゴゴ!!
地面が大きく揺れだした
「な、地震……まさか!?」
ドゴオオオンッ!!
村の近くにある大きな火山が噴火をした
その勢いは凄まじく、普通の噴火ではない
「エルグランドめ、やりやがったか!?」
ドガアアアンッ!!
巨大な岩が降り注ぐ
「危ない!!」
ジャキイイ!!
スペイドが剣のバリアを張り、三人を岩から守る
「な、どうして……」
「せめて、君達だけは守る」
「そんな正義感いらねえよ!!」
「すまないな、必要とされてなかったとしてもこれは私が勝手にやらせてもらう!」
ズガアアアンッ!!
ズガアアアンッ!!
凄まじく降り注ぐ岩は辺りの家を破壊する
そしてスペイドのバリアにもヒビが入り始めていた
「くッ!!」
ピキピキ……
「頼む……」
ピキン
バアアアンッ!!
バリアが粉々に砕け散った
ヒュウウウウ!!
岩は未だに降り続いている
ガシッ!!
スペイドが三人を抱き、岩から守ろうとする
「何してんだよ!!」
「そんなことしたら……あんたが」
「私は構わない……私が元々救いたいと思っていた人は他の者達がなんとかしてくれる」
「しかし君達を守れるのは今、私しかいない」
ガッシャア!!
ズッシャア!!
岩は容赦なくスペイドの背中に激しく当たる
「ガハッ!!」
「あんた、死んじまうぞ!!」
「なあに大丈夫さ……これぐらい……」
「ぐッ……くッ!!はあはあ……」
噴石が止み、辺りが静かになる
「おい、大丈夫か……」
「ああ、それよりもまだ火砕流が襲ってくる」
「はああッ!!」
ザンッ!!
シャアン!!
剣のバリアで自分達を囲んだ
「これで……あとは……」
バシッ!
スペイドがエスクードに峰打ちを入れる
「うっ!」
ドサッ
エスクードは気絶した
「な、お前何を!!」
ドンッ!
「て、てめぇ……」
ドサッ
スイフトも同様に気絶する
「スペイドさん……」
「すまないな、ここは民家や人が多い」
「君達にはこれから起こる惨劇を見て欲しくはない」
ドンッ
ドサッ
三人はスペイドによって気絶させられた
~~~~~
「ううっ……はっ!!」
エスクードが目を覚ます
「スイフト!ソリオ!」
「ん~」
スイフトとソリオも目を覚ました
三人は未だにバリアの中にいた
そしてスペイドが一人で立ち尽くしていた
「おい!スペイドてめぇ!」
スペイドに掴み掛かろうとした
しかし
ガッシャアンッ!!
ドサッ
スペイドは力なく倒れ、バリアは粉々になった
「な、スペイド!」
反応はない、完全に力尽きていた
「くそッ……」
「ああッ……私達の村が……」
エスクード達は周りを見た
それは悲惨な光景だった
あの時、岩が降り注いでいたとき、自分達を守ろうとするスペイドや激しい音に気を取られ、気づいていなかったが周りの家はほとんどが崩壊していた
そして気絶した後に流れてきた火砕流
それによって村はより酷く、見るに耐えない状態となっていた
「そんな……」
「嘘だろ……」
三人は絶望した
「どうして、こんなことに……」
「それは全て、エルグランドの仕業よ」
後ろで女性の声がした
振り向くとそこには一人の男性と女性が立っていた
「あなた達は……?」
「私はジムニー・シエラ」
「俺はクロス・ビー」
「私達はこことは違う村の住人」
「しかし俺達の住む村も別の火山が噴火し、ここと同じような状態になった」
「別の火山も……噴火したんですか!?」
「ええ、そうよ」
「エルグランドの仕業って……どういうことですか?」
「この国にはね、もう一つ火山があるんだけどそっちも同じタイミングで噴火していたの」
「そしてその時、武装集団がこの国を攻めてきていた」
「武装集団の襲撃、それに合わせるかのように3つの火山が同時に噴火」
「これは決して偶然ではない、そう思わない?」
「たしかに……」
「もしも火山が噴火したのが故意だったとしたら」
「故意!?しかしそんなこと……」
「出来るのよ、この国の王「地の権利」を持つエルグランドなら」
「そんな馬鹿な……」
「どうしてこの国の王が……」
「そこまでしてでも武装集団から守りたい何かがヘラクレスにあったと考えるのが妥当ね」
「これはあくまで私達の推測でしかないわ」
「けど可能性は大きい」
「いい?これからあなた達に大事な話をするわよ」
「私達は本来、あの噴火で死ぬはずだった」
「けど今こうして生きている」
「王が「地の権利」を持っていること、そしてその力で火山の噴火を起こせることを私達は知っている」
「つまりね、私達は王にとって生きていて欲しくない存在なのよ」
「火山を噴火させたのは王であると知っている被害者だから」
「恐らく私達が中央へ向かえば何らかの形で始末されることになるわ」
「!?」
「だからね、私達はこの国から出るの!」
「そうすれば生きていくことが出来る!」
「勿論、危険はあるわ」
「他国に侵入することになるだろうからね」
「そこであなた達、これからどうする?」
「選択肢は2つよ」
「私達と一緒にくるか、それとも王を信じて中央へ向かうか」
「…………」
「俺はあんた達についていく」
「スイフト……」
「私もついていきます」
「エスクード、お前はどうするんだ?」
「……俺もついていくぜ」
「決まりね、これからよろしく!」
「そろそろ中央の者達が来るかもしれない」
「そうね、じゃあ行くわよ」