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僅かに残る人生の記憶

 僕が両親のことで覚えていることは少ない。

 ただ、僕にとって両親の象徴というのは、温度を感じなくなった自分の肌だった。

 熱湯をかけられたのだ。

 ただ衝撃と共に激しい痛みを感じ、意識が朦朧とする。

 激痛が続くが、しばらくすると感覚がふっと消失する。

 自分がそこにいるのにそこにいない感覚。

 自分の身体が人形になってしまったような……自分が自分から切り離されてしまったような……。


 次に思い出すのは、僕にとって唯一の救いの記憶だ。

 死にかけの僕を掬い上げてくれたのは、シスターだった。

 シスターが何の宗教を信仰していたのかはよくわからない。

 一般的なキリスト教ではなかったようだけれど。

 でも、大事なことは僕を助けてくれたことだった。

 それだけが僕の人生における光だった。

 人生に何の希望を持っていなかった僕にも一つだけ夢ができた。

 僕もシスターみたいになりたい。

 誰かの窮状に手を差し伸べられる人間になりたいと……。

 しかし、シスターの経営する孤児院を取り巻く状況は厳しく、闇は唐突に再来した。


 親戚に引き取られた僕は、限りなく嫌悪されていた。

 食べ物は与えられず、暴力は容赦がなかった。

 叔父叔母の夫婦仲は良くなくて、僕は都合のいいサンドバックだった。

 僕は初めて養ってくれる相手に反抗するという行動をとった。

 その日はとても激しい雨が降っていて……僕に行けるあては一つもなかった。

 少しでも暖かさを求めるように、路地裏に辿り着いた僕は、もう一歩も動けなくなった。

 建物の壁に背を預けたまま、僕は静かに息を引き取った。


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