第39話 1年後
アストルムが襲撃されてから1年の月日がたった。
あの頃はシーラ姉さんが亡くなったことを認められない自分がいたが、今は時の流れのせいか、それとも仲間達がいてくれたからか、はたまたその両方のおかげで気持ちを整理することができた。
そして今この世界は崩壊の危機に陥っていた。
アストルムの襲来を境に各地でも魔物が大量発生し、緑は焼け、畑は荒らされ、街は一月に1度は魔物の襲撃を受けるようになり、今では安全な場所などこの世界にはないと言われている。
そんな中、俺達は願いを叶える宝玉を手に入れるため天へと続く島の試練に挑んだり街の防衛に当たっていた。
レベルも48まで上がり、今では俺達は天へと続く島への攻略が1番近いパーティーと言われるようになった。そしてその背景にはリストランテの店長であるスカーレットさんの協力があってこそだった。
世界各地に支店があるリストランテの情報網を使って、どの街が魔物に襲われたか連絡をくれることですぐに赴くことができ、街の防衛とレベル上げをすることができた。
そして今俺達は俺達は⋯⋯。
「今日こそこの階層をクリアしたいわね」
サラがレイピアを片手に素早い突きを繰り出し意気込んでいる。
「前回は慌てて逃げ出したからな」
リョウが浮かない顔で溜め息をつく。
「あれは反則だよね。サラっちより速くて攻撃も効かないなんてどんなチートよ」
ノエルンが理不尽なことをどこか楽しそうに話す。
「ですが魔法を効いてましたよ? まあ動きが速すぎてほとんど当たりませんでしたけど」
エリカが冷静にその時の状況を語る。
「今度は大丈夫ですよ。お兄さんが作戦を考えてくれましたから」
アイリちゃんが期待の眼差しで俺の方に視線を向ける。
「ああ⋯⋯任せてくれ」
俺はそんなパーティーメンバーに対してサムズアップをして見せた。
俺達は現在天へと続く島の試練の扉の前にいる。
これまでクリアしてきた階層は28。様々な試練を乗り越えて今俺達はここにいる。
魔法が効かないゴーレム、透明になる魔物、ボスはおらずダンジョン風の階層もあった。
だが29層ではリョウの言うとおり俺達は光輝く虎の素早さを捉えることができず逃げ出したので今日は再チャレンジとなる。
「それにしてもトウヤはよくこんな卑怯な真似思い付くわね」
「いえ、サラ先輩卑怯は言い過ぎです。先輩は小賢しいだけです」
エリカよ⋯⋯それってどっちも意味変わんなくね? せめて抜け目ないと言ってほしいものだ。
「俺としては確実に勝てる手段を選んでいるだけだぞ」
もう目の前で大切な人を失うのはごめんだ。そのためなら俺はどんな汚いこともやって見せる。
「そうだよ。トウヤっちは私達のことを考えてボスを落とし穴に落としてボコボコにしたり、部屋を燃やして酸欠にしたり、大きな音を出して気絶している間に攻撃したり⋯⋯ってやっぱりずるいね」
味方だと思ったノエルンは一瞬で俺を裏切りサラの方に寝返る。
「わ、私は安全に戦えることができて助かりましたよ」
やはりいつだって俺のことをわかってくれるのはアイリちゃんだけだ。
「私もいつかトウヤの卑怯な罠にかかってあられもない姿を見られてしまうのかしら」
サラが泣き真似をしてエリカの肩に抱きつく。
「先輩最低ですね」
下着姿ならいつもお前が自分から見せているけどなと言葉が出かかったが俺は何とか堪える。だってそんなことを言ったら女性陣から白い目で見られるのは間違いないからな。
「ほら、バカなこと言ってないで行くぞ」
「は~い」
そして直ぐ様立ち直ったサラの返事を聞き、俺達は試練の扉を潜る。
29層に転移すると吹き抜けの螺旋状の階段になっており、下を覗いていても暗くて何も見えない。このまま100メートルほど降りていけばボスとのバトルになる。
「この試練って何層まで続くんだろうな」
螺旋状の階段を降りながら不意にリョウがポツリと誰もが疑問に思うことを口する。
「初めは10層で終わりだったらいいなと思ったけど⋯⋯」
確かにノエルンの言うとおり、俺も10層は何となくキリがいいのでこれで最後かと思っていた。しかし10層を突破した後も普通に試練は続き今に至る。
30層もキリがいい気がするがもしその後も続くのであれば50層、100層まであるかもしれない。そうなったら絶望だ。いつ試練をクリアできるかわからない⋯⋯そんなみんなの士気が下がるようなことをとてもじゃないが言えないぞ。
「まずは目の前の試練に専念しよう。もしかしたら29層で終わりかもしれないし、例えまだ続くとしても俺達ならクリアできるさ」
「そうだね。ニナを助けるためにもがんばらないと」
どうやら表面上はみんなの気持ちは持ち直したように見えるが、30層の続きがあったらみんなのモチベーションを保つように何か対策を立てた方がいいかもしれない。
そして俺達は地面まで20メートルという所まで降りてきた。この階層の部屋の広さは50平方メートルほどしかないため、今までの階層に比べるとかなり狭い。
そして前回は残り5メートルほどまで降りると部屋の中央に黒い歪みが出現してそこから29層のボスが現れた。
「それじゃあみんな準備をしてくれ」
俺の声に従い皆システムのアイテムを選択する。そして取り出した物は⋯⋯大量の水だった。
「いやあ⋯⋯けっこう入るものね」
「私も今まで自分が飲む分の水しか入れたことありませんでしたから」
俺達は川の水をアイテムとして収納し、地面に向かって放水していく。
するとどんどんと水かさが増していき、最終的には4メートルほどの高さまで埋めることができた。
「リョウ頼むぞ」
「任せておけ! と言いたい所だけど今回俺の役目ってほぼないよな」
この階層のボスは2メートルほどの虎型の魔物だった。その動くスピードは尋常じゃなく目で捉えることも困難で、前回は何もすることができず撤退した。
今回は脅威なそのスピードを封じるためボスを水に埋める作戦を立てた。
「行くぞ」
リョウが螺旋状の階段を降りていくと部屋の中央に黒い歪みが現れる。
そしてリョウは万が一水の中でも陸と変わらず動けた時のためにその場で待機してボスをこちらへこさせない役目を頼んでいる。
「トウヤ来たわよ!」
虎型のボスが具現化して10ゲージのHPが表示される。そしてこちらへと視線を向けてくるが、やはり陸とは同じ様に移動することができず、水の上に浮いている。
「ノエルン、エリカ!」
「任せて! スパークアロー」
「死になさい! 雷神の鉄槌」
ノエルンの雷を帯びた矢が、エリカの全てを焼き焦がす神のいかずちが階下に向かって放たれる。
だが虎型のボスは異変を察知したのか、泳ぎながら2人の攻撃をかわす。
「グォォォッ!」
だが2人の雷は水を伝ってボスにダメージを与えている。
「よし! 効いてる! 2人とも続けて」
「スパークアロー」
ノエルンが続けて雷の矢を発射するが、エリカは魔力の消費が激しいのかすぐに魔法を放つのは難しそうだ。
「まだまだ行くよー! スパークアロー」
「雷神の鉄槌」
ノエルンの3射目の矢が、エリカの2発目の魔法が放たれると虎型のボスはまともにその攻撃を食らう。
どうやら雷で身体が麻痺をして動けないようだ。こうなったら後は嵌め殺すだけ。
だが2人は繰り返し攻撃をしているが、次第にエリカの魔法の放つスピードが遅くなっていく。どうやらMPが切れかかっているようだ。
しかし虎型のボスのHPは後1ゲージ⋯⋯もう少しでこちらの勝ちだ。それに虎型のボスは雷で身体が痺れているから後はノエルンの攻撃で勝てるはず。
だが虎型の魔物は突然壁を蹴りながらこちらへと向かってくる。
「そっちに行ったぞ!」
リョウは螺旋状の階段で待機していたため俺達の防御には間に合わない。
虎型のボスは最後の力を振り絞ったのか、それとも雷に耐性ができたのかわからないが、このままでは俺達の所にくるのは時間の問題だ。
虎型のボスは器用に壁を蹴って昇ってくる。なるべくなら直接戦いたくなかったが仕方ない。迎撃するぞ。
俺は剣を構え、向かってくる虎型のボスに一撃を食らわせようとするが⋯⋯。
「守護の楯」
虎型のボスは突如現れた光の楯に阻まれ地面に落下する。
どうやらアイリちゃんが魔法で護ってくれたようだ。
そしてさすがに虎型のボスも空中では動くことができないだろう。このチャンスを逃すわけには行かない!
「サラ!」
「待ってました!」
俺とサラは螺旋状の階段から飛び降り、虎型のボスの元へ一直線に向かう。
「ラピッドストリーム!」
「メテオブレイク!」
サラのレイピアの奔流が、そして俺の上段からの一撃が虎型のボスの頭部を捉えそのまま自分達の身体ごと水の上に叩き落とす。
ボスはどうなった!?
俺達は慌てて水面に浮かび上がり虎型のボスを探していると⋯⋯。
「やったあ!」
ノエルンの喜びの声が聞こえたので勝利を確信した。
虎型のボスを倒した後、エリカと俺の炎魔法で水を蒸発させ下層まで降りると部屋の中央に扉が出現していた。
「私、虎型のボスを倒すにはもっとレベルを上げなくちゃいけないと思ってた⋯⋯さすがトウヤっちだね」
「いやいやみんなが頑張ってくれたからだよ。エリカとノエルンの雷の攻撃、アイリちゃんの防御魔法、サラの高速の一撃、リョウの⋯⋯まあともかくそんな感じだ」
「おいっ! それだと俺がいらない子みたいじゃないか!」
「そ、そんなことないぞ⋯⋯リョウが⋯⋯え~と⋯⋯いるだけで安心して戦えた。なあみんな?」
「「「「う、うん」」」」
女性陣は息を揃えて微妙な返事をする。
「ち、ちくしょう! こんなパーティーやめてやるぅぅ!」
そしてリョウは新しく出現した扉へと入っていった。
やれやれ⋯⋯困ったやつだ。
今回は活躍の場はなかったが、リョウがパーティーに必要な存在だということはみんなわかってる。けど褒めると調子に乗るし、恥ずかしいから言わないだけだ。
俺は不貞腐れたリョウを追いかけて扉を潜る。
すると目に入ってきたものは今までの階段の先に新しい扉がある景色とは違っていた。
「お、おいトウヤ⋯⋯これって⋯⋯」
先に進んでいたリョウも俺と同じ様にこれまでと違う光景に驚いている。
目の前には階段⋯⋯そしてその先には建物が⋯⋯これは神殿か?
「とうとう最後まで辿り着けたの?」
「これでニナを助けることができるのね」
俺の背後からサラとノエルンが声を震わせながら階段を昇る。
「みんな逸る気持ちはわかるけど焦るな。まだこれで最後と決まったわけじゃない」
「先輩の言うとおりです」
「そうですね」
エリカとアイリちゃんも冷静を装っているが、心なしか声が弾んでいるのがわかる。
しかし今までとは違う景色になり、俺も心の中ではこの階層で終わりじゃないかと期待してしまっている。
「とりあえず進んでみるか」
俺の問いに仲間達は頷き、階段を昇る。
そして神殿は扉が開かれており、まるで中に入ってこいと言わんばかりに感じた。
「まさか罠じゃないよな?」
リョウの気持ちもわかる。今までの試練でも罠が張られている階層があった。だがもしこれが罠であるなら作った奴は相当意地が悪い。
俺達は警戒しながら神殿に入ると中は白一色でどこか神々しく感じるものがあった。
元々神など信じていない俺でもそのような感想が出てくるということはやはりこれは本物なのか?
しばらく神殿? の中を進んでいくと祭壇に辿り着き、そこには今までの試練と同じ様に扉と下層に戻るための魔方陣があった。
「お兄さん⋯⋯あれって石板ですかね」
「そう⋯⋯だね。何か書いてあるのかな」
アイリちゃんの言葉通り、祭壇の横には石板があった。これに試練のことでも書いてあるのか?
「じゃあ私が見てくる」
サラが一歩前に出て石板に目を通し、内容を読み上げる。
「え~と⋯⋯次の階層は扉を潜ったら転移の翼は使えないって」
それは重大な情報だ。そうなると試練をクリアするか死ぬしかないということか。
「それと⋯⋯この30階を攻略すると願いが叶う宝玉が手に入るって書いてあるわ」
「ほ、本当か!?」
俺は思わずサラの元へと駆け寄り、石板の内容に目を通す。
サラは石板に書いてあることをかなりかいつまんで話していたが間違いはない。
「サラの言うとおりだ⋯⋯」
みんなは俺の声を聞いて喜びの声を上げる。
「やったわね」
「やったな」
「やりましたね」
「やったー」
「お兄さん、やりましたね」
俺達はとうとうここまで来たんだ。
だがここがゴールじゃない。宝玉を手に入れることが出来て初めて目的が達成されるんだ。
ここはみんなの気持ちを引き締めないと。
「みんな今日はお疲れ⋯⋯30階の試練は万全の体制を整えて後日挑戦しよう」
皆異論はなく、俺達は終わりが見えてきた喜びを胸にアストルムの街へ戻るのであった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。




