第34話 異変
褒めることは大切です。
「か、勝ったんですか⋯⋯」
エリカは信じられないという表情を浮かべ、消えたゴーレムがいた場所へと視線を向ける。
「ああ、エリカとアイリちゃんの魔法のお陰で勝てたんだ⋯⋯お疲れ様」
俺は2人に労いの言葉をかけるとエリカとアイリちゃんは抱き合い喜びを爆発させている。
「アイリさんやりました!」
「やりましたねエリカさん!」
この経験が2人の自信に繋がるといいな。俺は保護者のような心境でアイリちゃんとエリカを見つめていると他のみんなも集まってきた。
「あ~あ⋯⋯私も頑張ったのになあ」
「俺もがんばったぜ」
「トウヤっちとサラっちを救うために私も頑張ったよ」
何これ? オークを倒した時もそうだったけどリーダーは毎回みんなを褒めなきゃ行けないの?
「もちろん3人の活躍があってこそエリカとアイリちゃんは安心して魔法攻撃に専念できたんだ」
そう称えると3人は満足そうな表情をしていた。
「そ、それより新しい扉が現れたぞ」
俺の言葉通り部屋の中央にはこの階層に来るために通った扉と同じものが出現していた。
「早くいくぞ」
俺は扉を開け中に入る。すると目の前にはまた50段ほどの透明な階段が現れ、その先には同じ様に扉があった。
「せ、先輩~」
「お、お兄さん⋯⋯」
先程より高い位置にいるため、エリカとアイリちゃんは恐怖でまた俺に抱きついてくるがすぐにサラとノエルンに奪われ、両腕が寂しい状態となる。
「ほらいくわよ」
「残念だったね~」
くそっ! サラとノエルンは俺の心情を見透かしているのかニヤニヤと笑いながら階段を上がっていく。
そして俺達が階段を昇りきると⋯⋯。
「トウヤっちなんかあるよ」
ノエルンの言うとおり扉の横には魔方陣があった。
「これは下にあった魔方陣と同じ形状をしているな。たぶんここに乗れば下層に戻れると思うよ」
「えっ? 先輩下にあった魔方陣の形を覚えているんですか?」
「だいたいだけどね」
「お兄さんすごいです」
「トウヤは無駄に分析力があるから」
サラの奴、無駄にってなんだ無駄にって!
「なるほど⋯⋯だから先輩は私の⋯⋯し、下着も詳細に覚えていたのね」
こんな時にエリカはとんでもないことを口に出してきた。
「そういえばトウヤっち、私の下着も覚えていたよね!」
そしてノエルンもエリカの話にのりさらに飛び火が広がっていく。
「トウヤてめえ! パーティーメンバーにセクハラするなんて最低だぞ!」
今のリョウのセリフ⋯⋯先程ハーレムを作ろうとした奴の言葉とは思えないな。
「3人共1つ言えることは、うちのパーティーの男共はスケベだから気をつける必要があるということね」
「いやいや俺は紳士オブ紳士だから。リョウと一緒にしないでくれ」
「そのセリフそっくり返すぜ。アイリちゃんもトウヤは最低だと思うよな?」
正直リョウやサラ達に何を言われても全く痛くない。だがもしアイリちゃんに言われたら⋯⋯。
「お兄さん⋯⋯」
アイリちゃんは目をうるうるさせてジッと俺の顔を見る。そして⋯⋯。
「エッチです⋯⋯」
ぐはっ!
俺はアイリちゃんのエッチという言葉を聞いて心が折れ、その場に崩れるように倒れる。
「トウヤ⋯⋯遊んでないで今日は先に進むの? それともやめるの? リーダーなんだから早く決めて」
サラの言うとおり遊んでいる場合じゃないな。
俺はスクッと立ち上がりサラの質問に答える。
「今日は戻ろう。転移の翼を使っていつでもこれるし、また別の日にチャレンジしよう」
経験値が少ないエリカやアイリちゃんに負担をかけたくないしな。
みんな俺の意見に異論はなかったため魔方陣へ入ると試練の説明をしてくれた兵士2人がいる場所へと戻ることが出来た。
「本当に入口の所に戻っちゃったね」
ノエルンの言うとおり、戻れるとは思っていたが実際に転移すると驚くものがある。
だがそんな感動に浸っている暇もなく辺りの様子がおかしいことに気づく。
「人が多いな。何かあったのか?」
周囲の人は慌てている様子で、何か焦っているように見られる。
そしてこの時俺のシステムにメールが来る⋯⋯いやみんなにもメールがきているようで内容を確認している。
え~と2件メールがあるな。
差出人は母さんと⋯⋯セレナかよ!
母さんはともかくセレナが俺にメールをするなんてまさかスカイガーデンでお土産を買ってこいとかいうつもりじゃないだろうな。
俺は楽観した気持ちでメールを開くと⋯⋯。
あんた今どこにいるの!? アストルムに魔物が攻めてきたから絶対に外に出ちゃだめよ。私とセレナは自宅にいるのでメールを見たら連絡を下さい。 母より 11時20分
魔物が街の西側からいっばい来て怖いよ。助けて! セレナより 11時05分
「トウヤ!」
「ああ、アストルムに魔物が攻めてきたみたいだ! 急いで戻るぞ!」
普段おちゃらけたサラが真剣な声を出していることから焦っていることが理解できる。
そして母さんとセレナからは連絡はきたがシーラ姉からは連絡がない。まさか魔物にやられてしまったのか? 逸る気持ちがあるが今リーダーの俺が取り乱すわけにはいかない。
「11時06分に店長からリストランテの周囲に魔物が現れたってメールが来てる」
もう街の中にも魔物が入り込んでいるのか! だがミスタースカーレットなら何とか1人でも大丈夫だろう。
「お兄さん、セレナさんとお母さんからメールが!」
「ママ⋯⋯」
「カイト、ニナ⋯⋯お父さん、お母さん⋯⋯」
アイリちゃん、ノエルン、エリカの顔が真っ青になっている。あまりの突然の出来事に動揺しているんだ。
だが今は時間がおしい。俺はアイテムBOXから転移の翼を25枚取り出し、それぞれに5枚づつ渡す。
「お兄さんこれは⋯⋯」
「今はいち早く行動する時だ。アストルムに行こう。それで大事な人を他の街に逃がすんだ」
本当はアストルムの街の人達全員を助けたい⋯⋯しかし俺は神でも英雄でもない。手の届く人達を助けるだけで精一杯だ。
「そう⋯⋯ですね。今は行動しないと」
「すみません先輩」
「早くアストルムに行こう」
俺達は転移の翼を使って魔物に襲撃を受けているアストルムへと移動するのであった。
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