第32話 スカイガーデン
ここからが始まり⋯⋯ではないです。
「これのどこが期待してるんだ?」
「わからないの? アイリちゃんならわかるよね?」
「え~と⋯⋯」
アイリちゃんはサラの問いに苦笑いしている。どうやら俺と同じ意見のようだ。
もし本当にわかるというならやはりセレナと血が繋がっているのは俺じゃなくてサラじゃないのか? そう言われても全く違和感がない。
「まあわからないならいいわ。それより早く行きましょう」
正直な話わからなくても全く問題ない。それよりサラの言う通り天へと続く島へ行くのが優先だ。
「前にも聞いたけどみんなスカイガーデンには行ったことあるんだよな?」
俺の言葉に皆頷く。
天へと続く島へと続く階段はこの大陸の中央に位置するスカイガーデンという街の中にある。俺は今まで行った記憶はないのだが転移の翼の移動先に登録されていたからおそらく幼き頃に行ったことがあるのだろう。
「それじゃあ行こう! 天へと続く島へ!」
俺達はそれぞれ転移の翼を使いスカイガーデンへと向かうのであった。
「ここがスカイガーデン⋯⋯」
どうやら俺達は階段の中腹に着いたようだ。下を見ると街並みが広がり、上を見ると白い階段が続いている。
ここが転移の翼に登録されている場所か。街に行くには長い階段を降りないといけないから少し不便だな。
転移の翼は街に一瞬で移動できる便利なアイテムだが、街のどこに転移するかは選べない。
ちなみにアストルムの登録場所はエリカとデートの待ち合わせをした噴水広場の前だ。
「綺麗な景色ですね」
アイリちゃんの言う通りここから街の全体が見渡せて眺めは良さそうだ。彼女はいないが夜景を見る時のデートスポットに使えると思う。
「それで天へと続く島はこの階段を昇って行けばいいのか?」
俺は皆に問いかけるが誰からも返事がない。
「サラ、お前ここに来たことないのか?」
「う~ん⋯⋯全然覚えてない。そういうトウヤは?」
「俺も幼い頃来たことがある気がするけど⋯⋯」
エリカもアイリちゃんもノエルンもリョウもみんな首を横に振る。
「とりあえず冒険者らしき格好をしている人達は上に登っているから着いていくか」
「うっへえ⋯⋯これを登っていくのか」
リョウが嫌な顔をするのもわかる。一応頂上らしき場所は見えるが階段を500段くらい登ることになりそうだ。
「文句を言わず行きますよ」
「へ~い」
エリカに言われリョウは渋々階段を昇ると皆がその後に続く。
そして20分ほど階段を昇り続けるとようやく終わりが見えた。
「これは⋯⋯」
俺達は頂上までたどり着いたがその光景に絶句する。
「空中に階段が浮いているの⋯⋯」
サラの言葉通り、俺達が到着した場所からさらに50段ほどの透明の階段が空中に浮いており、その先には扉が見えた。
「ま、まさかこれを昇るなんて言わないよね」
ノエルンの声が震えるのもわかる。
透明の階段の真下は何もない⋯⋯ということはもし落ちてしまったら数百メートル下の地面に叩きつけられるため、即死することは間違いないだろう。
「これはこれは⋯⋯皆様は天へと続く島へチャレンジするのは初めてでしょうか?」
透明の階段前にいる2人いる内の1人の兵士が俺達に向かって話しかけてくる。
「はい」
「そうですか⋯⋯では天へと続く島について説明させて頂きますね。まずこの透明な階段を昇る前にパーティー登録をして頂きます。パーティー人数は6人が上限となっており少ない分には問題ありません。登録が終わりましたらこの透明な階段を昇って頂き、扉に入ると試験が開始されます。そして各階層の試練を越えることによって次の階層に行くことができ、最後の階層をクリアすると天へと続く島へと転移され、願いが叶う宝玉をもらうことができます。それとメール機能に関しては試練の扉を潜った後は使用できなくなります。何か御質問はございますか?」
「はいは~い。この試練って一気にクリアしなくちゃいけないの? 途中で戻ることはできないの?」
サラが軽いのりで兵士に質問する。
「いえ、各階層には魔方陣があり、私の横にある魔方陣と繋がっています
。そのため次回からはこちらの魔方陣に入っていただけたら、再び前回クリアした階層まで転移することができます」
情報屋に聞いていた通りだ。余裕がなければ一度戻るのも手だな。
「2つのパーティーが同時に扉に入ったらどうなりますか?」
俺も兵士に質問をする。
「試練の内容は同じですが2つのパーティーはそれぞれ別の所に転移されます」
ダメもとで聞いてみたがやはり共闘することはできないということか。
「ちなみにこれまでの最高記録とこの試練の階層は何階まで続いているかわかりますか?」
「今までの最高記録は10層でどの階層まで続いているかはわかりません」
ゴールが見えればと思って聞いてみたがやはりわからないか。そもそも誰かがクリアしたという噂は流れていない。ただそうなると本当に願いが叶う宝玉があるのか疑わしいが、何故か俺の身体が、心が宝玉はあると訴えている。
「説明ありがとうございます。それではさっそく俺達スカイ・セイスをパーティー登録します」
パーティーは既に組んであるので俺は兵士の人にお願いすると目の前に立体的な画像が浮かび上がり、天へと続く島へスカイ・セイスで登録しますかと出たのでイエスを選択する。
「ではこちらの階段を上がり⋯⋯」
「どけどけ! 俺達が先だ!」
兵士の説明の途中、突如俺達の背後からガラの悪い5人の男達が現れた。
「お前達みたいなガキ共じゃ試練を受けても無駄だろ? どうせ俺達が天へと続く島に行くんだからよ」
「何なんだこいつら?」
俺とリョウは自然と女性陣の前へと立つ。
「おら! 早く俺達のパーティーを登録しろ!」
「えっ? 登録って5人しかいなくない?」
しまった! つい話しかけてしまった。こういう輩は無視した方がいいのに。
「俺たちゃつええからよ。6人も入らねえんだ」
「そうですか」
「それよりお前ら女子供を4人も入れてこの試練を舐めているのか? あっ? そうか観光に来ただけか」
いや、どう考えても舐めているのはお前達だろ? 1人少ない人数で試練を受けるなんてアホだ。
だが答えるとこういう奴らは調子に乗って話しかけてくるから無視をする。
「それにしても⋯⋯可愛い娘達を連れているじゃねえか? こんな奴放っておいて俺達と遊ばないか?」
こんな所でナンパとかお前はバカか! 俺のことならいいがさすがに女性陣に手を出そうとするなら見逃せない。
しかし俺が対応する前にリョウがナンパ男の前に出る。
「この4人は俺のハーレム候補だ! 手を出す⋯⋯ぶべら!」
バカがここにもいた。
リョウがアホな発言をしている最中に後ろから女性陣が殴る蹴るの暴行をくわえていた。
「リョウ⋯⋯いつそんなことになった?」
「これだからリョウ先輩は信じられませんね」
「さすがにそれはないね」
「嘘はいけないと思います」
試練を受ける前にリョウのHPが瀕死寸前になっている。
「おい! お前何をしてんだ! 女なんか宝玉が手に入ればなんとでもなるだろ! とっとといくぞ!」
「へ、へい兄貴!」
そう言ってナンパ男は兄貴と呼ばれた男達と透明の階段を昇り、試練の扉へと入っていった。
「ああいう輩に絶対宝玉を手に入れてほしくないわ」
「それはリョウ先輩にもいえますね」
サラとエリカが地面に倒れているリョウをまるで生ゴミを見るような目で見下ろしている。
「お、俺は皆を護るためにだなあ⋯⋯」
「だったらリョウは宝玉が手に入ったらどんな願いを言うつもりなの?」
「そんなのハーレム作るために決まって⋯⋯ぐはっ!」
こいつは本当にアホだ。
リョウのバカな願いを聞いて再度女性陣から暴行を受けている。
「トウヤ先輩⋯⋯この人パーティーから外してもらっていいですか?」
俺達のパーティーはリョウのせいで試練が始まる前からチームワークがガタガタになるのであった。
俺はリョウのために無駄な回復薬を使い、気を取り直して出発しようとしていた時。
「ヒイッ!」
「攻撃が全然きかねえ!」
「こんなの倒せるわけねえ!」
試練の扉に入ってから2分も経っていないのに先程の男達が魔方陣から現れ、階段を降りて逃げ出して行った。その逃げ出した中には兄貴と呼ばれた人物とナンパしてきた奴はいない。おそらく死んだのだろう。
ちっ! 嫌なもの見せられた。
みんなに影響がなければいいが⋯⋯⋯。
「さあ、俺達も行こう」
俺の言葉にサラ、リョウ、ノエルンは続くがエリカとアイリちゃんは足を止めたままだ。
「2人とも大丈夫か?」
俺は極力優しくエリカとアイリちゃんに話しかける。
「お兄さん⋯⋯さっきの人達は⋯⋯」
やっぱりエリカもアイリちゃんも男2人がいなかったことで死を連想してしまったか。
「それは⋯⋯たぶんやられてしまった可能性が高い」
ここは嘘を言ってもしょうがない。ばれる嘘をつくとこれから言う言葉に信用がなくなってしまうからな。
「あの男達は油断していた⋯⋯だが俺達は違うだろ?」
「そうですね。サラ先輩もいるし大丈夫ですよね」
エリカは相変わらずサラの信者だな。だがそのお陰で立ち直ることができるのだろう。
「ああ⋯⋯それにいざとなったら俺が護るから安心してくれ」
俺の言葉に2人は頷いてくれた。
とりあえず一層をクリアした方がいいな。そうすれば2人の恐怖も少しは和らぐだろう。
「そ、それなら先輩⋯⋯」
「お兄さん⋯⋯」
「「怖いので一緒に階段を昇ってもらっていいですか」」
どうやら2人は試練で死ぬ恐怖もあったが、この落ちたら死んでしまう階段の恐怖もあったようだ。
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