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第23話 エリカの母親

親とはいえわかりあえないときがあります。

 ある程度お腹がいっぱいになり、最後のデザートを注文した頃。


「それにしてもあなた達仲が良いわね」


 店長が今までの様子を見て、不意に問いかけてきた。


「そうですかね? まあアイリちゃんとは昔からの知り合いですから仲が良いですけど」

「リョウちゃんとサラちゃんの方が付き合いが長いんでしょ」

「そうですけどあの2人はすぐに俺を陥れるようなことをするから」

「そういうのって仲がいいからできるのよ。サラちゃんは⋯⋯とりあえず置いといてリョウちゃんはあなたのことを信頼してるからそういうイタズラもしてくると思うわ」


 まあ俺もリョウのことは信頼してるし、何よりバカ話ができる同性がいるというのは嬉しいものだ。


「さすが店長。男として人生経験が豊富だから言葉に重みがあります」

「私やっぱりこの子嫌いだわ」


 だっていかにも突っ込んで下さいってネタを振ってくる店長が悪い。


「とりあえずリョウちゃんやサラちゃんに限らずだけど人との繋がりは大切にしなきゃダメよ。人間は1人でいるとどうしても自分主体に考えてしまって悪い方へと行ってしまうからね」


 その気持ちは何となくわかる。幼き頃親にかまってもらえずグレた身としては痛い程に。


「トウヤちゃんは天へと続く島を目指しているんでしょ? 仲間と力を合わせてがんばってね」


 そう言って店長は俺の方にウインクをしてきた。

 気持ち悪いのでやめて下さい本当に。


「お待たせしました⋯⋯こちらパンケーキになります」


 ちょうど店長の話が終わったタイミングで店員さんがデザートとして頼んだパンケーキを持ってきた。


「うわぁ⋯⋯すごい美味しそうです」


 アイリちゃんは⋯⋯というか女性陣はパンケーキを見て目を輝かせている。

 かくいう俺もパンケーキから出ている甘い匂いを嗅ぎ、早く食してみたいという思いに刈られる。

 俺はパンケーキをナイフで切り、フォークへ使って口の中へと運ぶ。


「な、何だこのふわふわ感は!」


 絶妙な甘さが俺の舌を楽しませてくれる。これ以上甘かったらくどくなるし、これ以上甘くなかったら物足りなくなる⋯⋯ギリギリを見極めているんだ。

 そしてなんと言ってもこのふわふわ感⋯⋯口の中に入れると蕩けるように消えてしまうため、またその感触を味わおうと次々とパンケーキを口に入れてしまう。


「店長⋯⋯このパンケーキの作り方教えて下さい」

「簡単そうに見えるけどけっこう難しいわよ」


 けどこれが家で食べれたら最高だ。もし店長がレシピを教えてくれなくてもサラやエリカはここで働いてるから作り方を知ってるかもな。


「先輩って料理できるんですか?」


 エリカが訝しい目で俺の方を見て問いかけてきた。


「ある程度はできるつもりだ⋯⋯そういうエリカはどうなんだ?」


 見た目お嬢様っぽいエリカは、高級なコース料理とか作れそうだけどな。


「で、できないこともないかもしれません」


 よくわからないがエリカの今の言葉で、全然料理ができないことが予想される。


「今度何か作ってやろうか?」

「本当ですか? それじゃあ私は醤油か塩でお願いします」

「即席ラーメンじゃねえよ!」


 やっぱりエリカは俺の料理の腕を疑っているようだ。こうなったらいつか俺の料理を披露してギャフンと言わせてやる。


 そして楽しい雰囲気のまま終わると思われた食事会だが、これより思わぬ乱入者によりリストランテは騒然となる。



「エリカ!」


 突然リストランテに大きな声が響き渡り、1人の女性が俺達の席に迫ってくる。


 エリカ? この人エリカの知り合いか? それにこの容姿ってエリカにそっくりだ。お姉さんか何かか?


「ママ⋯⋯」

「えっ?」


 今エリカはママって言わなかったか⁉️ そうなると少なくとも40歳近くの年齢ってことだ。正直20代前半と言われても俺は信じるぞ。


「あなたその格好⋯⋯まさか魔物の討伐でもしていたの⁉️」

「う、うん」


 何だかエリカのお母さんはここに怒鳴り込んできたことといい、とても怒っている気がする。

 ひょっとしたらエリカは魔物を討伐することを親から反対されているのか?


「学園の勉強はしっかりやっているの⁉️ 大人になって学びたいって思っても時間がなかったり、しがらみがあって勉強する時間なんてないのよ」

「わかってるよ! でも今は友達もいるからその話はやめて」

「いいえ、わかってないわ。私はエリカのためを思って言っているのよ⁉️ 最低限の知識がないと大人になって恥をかくのはあなたなんだから!」


 今この話を聞いただけだが、エリカのお母さんは教育ママって感じがするな。

 とりあえず周りの目もあるし俺はこのまま見ているわけにはいかない。


「お母様申し訳ありません。エリカさんとお話があるのでしたら別室を御用意致します」


 俺がエリカのお母さんに話しかける前に、店長がこの店の主らしく2人を止める。


「お騒がせして申し訳ありません。私はこの娘をすぐに連れて帰りますから結構です⋯⋯ほらエリカ。行くわよ」

「あっ! ママ!」


 そしてお母さんはエリカの手を引き、リストランテの外へ出ていってしまった。


 この場には何とも言えない空気が流れる。


「サラはエリカのお母さんと会ったことあるのか?」

「何回かあるわよ。いつもはあそこまで強くは言わないけどちょっと教育ママって感じね」


 俺が思ったことと同じか。

 もしかしたらエリカはお母さんに天へと続く島に行くことを反対されて明日から俺達の所に来ないかもしれない。


「とりあえず食事は終わったし今日は解散するか」


 俺の意見に皆は賛成し、何とも言えないままパーティー結成会は終了となった。



 リストランテからの帰り道


「そういえばエリカの家も私達と同じ母子家庭なのよ」


 サラが自宅へ戻る途中、俺とアイリちゃんにポツリとエリカの家の諸事情を語る。


「そっか⋯⋯エリカは姉弟とかいないのか?」

「いないわね」

「なら尚更1人娘が大切というわけだな」


 もし俺も家族が1人娘しかいなかったら、大事に育てると思うからエリカのお母さんの気持ちも少しはわかる。


「お兄さん⋯⋯これからもエリカさんと天へと続く島に行くことが出来ますかね?」


 アイリちゃんは不安そうな表情で誰もが思っていたことを言葉にする。


「大丈夫⋯⋯もしもの時は俺が何とかするから」

「本当ですか? お兄さんがそう言ってくれるなら安心です」


 いざとなったらエリカのお母さんの所に直接話に行くしかないだろう。


 そして俺やサラの自宅の前に到着すると⋯⋯。


「今日は私、この後親戚の所に泊まりに行くから夕食はなくて大丈夫だから」

「わかりました」


 サラの言葉にうちの台所を預かるようになったアイリちゃんが返事をする。


「明日はそっちで食べるからよろしくねアイリちゃん」


 そう言ってサラは自分の家へ入って行ったので、俺達も自宅へと向かった。



 その日の夜


 今日はパーティーの結成、ジェネラルオークの討伐、そしてリストランテでエリカのお母さんの乱入と色々なことがあった。

 18歳以下のアイリちゃん、エリカが通ってる学園は3日後から長期の休みに入るため、是非とも最北の都市エルダルキアに行って天へと続く島の試練を受けてみたい。低層階であるなら今の俺達でも攻略することができるだろう。

 さて、そろそろ寝るか。


 時間は現在23時。俺はベットに入ろうとする。


「それにしても今日は寒くないか?」


 掛け布団だけでは風邪を引いてしまいそうなので、押し入れから毛布を取り出そうとしたその時、俺宛にメールが届く。


「こんな時間にメールが来るなんてめずらしいな」


 俺は届いたメールを見ると差出人は⋯⋯エリカ?

 初めて来るエリカからのメールにドキドキする。


 だがおそらく色っぽい話ではなく今日の食事会でのことだろうと予測してメールを開くとそこには二文字だけしか書かれていなかった。


 先輩


 何だこのメールは? まだ書きかけで間違えて送信してしまったのか?


 俺はエリカからのメールの意味を考えていると窓から小さな音が聞こえてきた。


「あ~あ⋯⋯降ってきた」


 どうやら寒かったのも雨が振ってくる予兆だったのかもしれない。

 俺は窓の側に行き外を見てみると雨が少しずつ強くなっていることが見れた。


「えっ? あれって?」


 窓の外に視線を向けるとそこに力なく俯いたエリカがいた。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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