第22話 歓迎会
人に優しくすることはいいことです。
先にリストランテに向かったトウヤ達は、店が混んでいたため並んでいた。だがサラ達がリストランテに着いた時、ちょうど店に入ることができたので、店員さんに1番奥の席に案内され座る。
「人気あるな⋯⋯この店」
「そりゃそうだろ! 見ろあの女の子の制服を! この制服が嫌いな男がいると思うか!? いやいない」
リョウの言うとおり、この露出が強いメイド服を嫌いな男はいないだろう。
「リョウはここの常連だもんね」
「ま、まあここは料理が美味しいからな。つい来ちゃうんだよ」
絶対嘘だ。100%女の子目当てで来ているだろ!
「いつもいつも女の子をジロジロ見ているのはわかってますから」
そういえばエリカもここで働いているんだよな? だからリョウのことは初めから知っていたのかな?
「そうよ。エリカの言うとおり女の子は視線に敏感だからリョウは気をつけた方がいいわよ」
残念ながらリョウがどこを見ているかはサラやエリカにはバレバレのようだ。
「ちなみにトウヤもだから」
「えっ? サラは何を言ってるんだね。俺ほど紳士な目をしたやつはいないぞ」
「そういえばトウヤっちは初めて会った時、私の下着をじっと見てたね」
リョウが指摘されていたので他人事だと思っていたら、ノエルンが飛んでもない爆弾を落としてきた。
ちくしょうこのアマ! 漏らしたこと言ってやろうか。
「お、お兄さん⋯⋯エッチです」
そう言って隣に座っていたアイリちゃんが俺から少し距離を取る。
お兄さんアイリちゃんに嫌われたら生きていけないよ!
「い、いや違うんだ!」
「違うの?」
俺の否定の言葉に、ノエルンは首を傾げて問い詰めてくる。
くそっ! その仕草可愛いじゃないか!
当事者じゃなければノエルンは小悪魔に見えるが、今の俺には悪魔に見える。
「ちょっとあなた達⋯⋯勝手知ったる店だからといってあまり騒がないでね。他のお客さんだっているんだから」
天の助けとばかりにオカマの店長であるスカーレットが現れた。
「そうだぞ! ミスタースカーレットの言うとおり静かにしようぜ」
「ミスター⋯⋯だと⋯⋯。やっぱり私もノエルちゃんの話が聞きたくなったわ」
し、しまった! ついいつものノリでミスターと言ってしまった! 店長は男扱いされるのを嫌っているんだった!
「私の権限で多少うるさくしてもいいわ。それでノエルちゃん続きを言って」
まずい。このままではアイリちゃんやエリカの俺に対する評価が大暴落してしまう。何とかしなければ。
「そ、そういえば店長ってノエルンと知り合いなんですか? 親しげに話してますし」
話を反らしたい気持ちもあるが、店長がノエルンのことを名前で呼んでいたから気になったのも本当だ。
「私と店長? 引っ越す前にいた街にリストランテの本店があって、そこで知り合ったの」
「へ、へえ⋯⋯リストランテってアストルム以外にもあるだ」
「そうね⋯⋯私が住んでいた街にあるリストランテは本店でこっちは支店なの。以前店長が本店にいた時、一緒に働いてたから」
ということはノエルンもここの制服を着ていたのか。ちょっと見てみたいかも。
「話すのもいいけど早く何か頼まない?」
サラがメニューを見ながら全員に早く注文するよう促す。
「そうだな。とりあえず話すのは後にして何か頼もうぜ」
みんなメニューに書いてある料理や飲み物を店員さんに注文していく。
よし! どうやら俺がノエルンの下着を注視した話は終わったようだ。このまま誰かが話を蒸し返さなければいいが⋯⋯。
「だから本当だって! 嘘なんか言ってねえよ!」
「別に嘘だとは思ってないけど」
突然3つ後ろの席にいる男性2人組の話し声が聞こえてくる。
「何ですか? 少しうるさいですね。私達も大きな声で話していたから人のこと言えませんが」
「そうだな」
「まあ騒いでたのは先輩達で私じゃありませんけど」
「そ、そうだな」
隣に座っていたエリカが正論を言って俺をディスってくる。
「俺は自分とは違う奴の記憶があるんだ」
「記憶?」
「そうだ! その世界では魔法はないけどカガクってやつが発達してて」
カガク? 何だそれ?
「だから道具があれば誰でも火を起こせたりするんだぜ」
「へ、へえ⋯⋯」
もう1人の男はその話をあまり信じている様子ではないな。
それにしてもカガクか⋯⋯意味はわからないけどどこかで聞いたことがあるような。
「先輩⋯⋯先輩はカガクっていう言葉を知っていますか?」
エリカが何かを考えながら俺に問いかける。
「いや、聞いたことないと思うけど⋯⋯何か引っかかるんだよな」
「実は私も同じです。これって⋯⋯」
「御客様。他の御客様もいらっしゃるので声のトーンを落としてください⋯⋯でないと⋯⋯」
エリカが何かを言おうとした時、店長が2人組の男性客を注意する。
「ひぃっ!」
「す、すみません!」
男性客達は悲鳴を上げ、中断していた食事を急ぎ始める。
そりゃあ怖いよな。パンチパーマのオカマにメンチ切られて注意されたら誰もが恐怖で悲鳴を上げるだろう。
「お待たせ~⋯⋯ごめんなさいね騒がしくて」
店長がお姉言葉で俺達が注文していた飲み物を置いていく。
「いや、俺達も騒がしかったから⋯⋯すみません」
自分達は良くて他の人はダメ⋯⋯そんな大人にはなりたくないものだ。
「それより早く乾杯しましょ。けど回りに迷惑かけないよう小さな声でね」
サラの言うとおり、みんなも早くドリンクを飲みたくウズウズしているみたいだ。
「じゃあ乾杯の音頭はリーダーのトウヤに」
サラの言葉で皆の視線が俺に集まる。
これはやるしかないな。
「今日は新しいパー⋯⋯」
「かんぱ~い」
「「「「「かんぱ~い」」」」」
「えっ? えっ?」
だと思ったよ。俺がスピーチしている間にサラが乾杯の音頭を取りやがった。ただアイリちゃんだけは状況が飲み込めなくて混乱しているみたいだけど。
まあみんなが楽しければそれでいいけどさ。
「ん~さすがリストランテのピザは美味しいですね」
「そう言ってくれると嬉しいわ」
エリカは俺には見せてくれない笑顔でピザを食べ、店長はそんなエリカを見て喜んでいる。
「ていうか何で店長も俺達の席に座ってるの?」
「良いじゃない。私も久しぶりにノエルちゃんに会えたからお話したくて」
まあここにいるメンツは皆店長のことを知っているから別にいいか。だがリョウだけは露骨に嫌な顔をしているけど。
「でもこの席には店長とタメを張れるような屈強な男子はいませんよ」
「この子ったら相変わらず失礼ね」
一応オカマだから念のため俺のことを狙ってこないよう牽制をしときたい。
「そうよトウヤ⁉️ あんた失礼じゃない。店長は如何にもカタギじゃない見た目をしてるけど心は繊細なんだから」
「いや、サラの方が失礼じゃね?」
「こ、この子達は⋯⋯」
ほら店長がワナワナと震えて怒ってるじゃないか。
「前にここに来たときも思ったけどあなたとサラちゃんは似てるわね」
「俺が? こいつと? それは心外ですね」
「それは私のセリフ! ちなみに店長。私とトウヤのどこが似ているんですか?」
「イラッとするとこ」
「「おいこらっ!」」
「ひぃっ! そういうところよ」
不覚にもサラと店長を脅す言葉とタイミングが合ってしまった。
「あなた達恋人同士なの?」
「「違います」」
また同じタイミングで⋯⋯だが俺とサラが恋人になると思うか? いやない。
「店長も面白い冗談を言うわね」
サラは店長に笑顔で話しているが、目が笑っていない。
「わ、私もトウヤちゃんは他の娘が好きだったと思ってたんだけど⋯⋯」
オカマのパンチパーマがトウヤちゃん言うんじゃない! 背筋が冷たくなってきたぞ。
「だったら店長はトウヤっちは誰狙いだと思うの?」
おいおいノエルンよ。それってもし店長の言う娘がここにいて、俺のこと好きじゃなかったら微妙な空気が流れるプラス俺の心が傷つくじゃないか。
「言わなきゃダメ?」
店長の言葉に俺以外の全員が頷く。
何? 俺の好きな人をみんな知りたいの!? いや、ただネタになるから聞きたいだけってやつかな。
「え~と⋯⋯エリカちゃんかアイリちゃん」
店長は一度溜めを作って、俺の好きな人が誰か言葉にする。
まあ2人とも可愛いし良い娘だと思うけど。何か共通点でもあるのかな?
「何でその2人なのかな? 私が入ってない理由を聞いてみたいけど」
入ってた方が良かったんかい! とノエルンに突っ込みたかったけど色々ややこしいことになりそうなのでやめておく。
「ぶっちゃけロリコンだと思っていたから」
「そこのパンチ野郎! 表に出ろ!」
「ひぃっ! だから言いたくなかったのよ!」
俺の言葉に図体のでかいパンチパーマが身体を縮こまらせて、怖がっている。
「けど確かに2人とも可愛いからトウヤっちが選ぶのも不思議じゃないね」
「そうね。何かエリカやアイリちゃんには優しいよねこいつ」
「そうか?」
あまり自覚はないが、周りから見るとそういう風に見えるのか。
「アイリさんはともかく先輩は私には優しくないですよね。この間ブサ可愛いって言われましたし、もう少し私に優しくしてくれてもいいんですよ? 」
この娘はまだ不細可愛いって言ったこと根に持っていたのか。
「大丈夫よエリカ。トウヤは本当にブサイクだと思ったら口に出したりしないから」
さすが幼なじみ。わかっていらっしゃる。
ブサイクにブサ可愛いなんて言っても何だかイジメみたいじゃないか。
今後エリカに根に持たれるのも嫌だからここはハッキリと言ってやろう。
「いいかエリカ⋯⋯お前は見た目だけならトップクラスの持ち主だぞ」
「そ、そんな⋯⋯って! 見た目だけならってどういうことですか!」
「すまん。言葉のあやだ」
「やっぱり私には優しくないです」
エリカが拗ねて明後日の方を向いてしまった。
根が真面目というかエリカってからかいがいがあるんだよな。
クイクイ
突然左側から洋服の袖を引っ張られたので顔を向けるとそこには上目遣いで俺を見るアイリちゃんがいた。
「わ、私なんかとお兄さんは釣り合わないですよ」
「そうだね⋯⋯俺とアイリちゃんは全然釣り合いが取れてないね」
「ごめんなさい⋯⋯」
アイリちゃんは俺の言葉を聞いて悲しそうな表情をする。
「だってアイリちゃんみたいに可愛くて優しくて料理もできる娘と俺なんかが釣り合うわけないよ。俺がアイリちゃんの親なら貴様のような奴にうちのアイリをやれるか! って殴るかもしれない」
というかもし本当にアイリちゃんに手を出したら、母さんとマリーさんに何をされるかわからないぞ。
「そ、そんな⋯⋯私なんて⋯⋯」
先程の悲しそうな顔とは違い、アイリちゃんは顔を赤らめて俯いてしまった。
「アイリちゃんは素敵な女の子なんだから、もっと自分に自信を持ってもいいと思うよ」
「は、はい⋯⋯お兄さんにそう言って頂き、嬉しいです」
そしてアイリちゃんは照れながらも俺に笑顔を見せてくれた。
くっ! この娘は本当に可愛いな。けど俺に向けられてる感情ってお兄さんに対するものなんだよな。その期待を裏切ったらダメだぞトウヤ。
「やっぱり先輩はアイリさんには優しいです」
「私のロリコンだっていう見立ては間違っていないようね」
俺は周囲の声に対して聞こえない振りをして食事を取り、そして歓迎会はまだまだ続くのであった。
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