第20話 相手が逃走した時こそ油断してはいけない
経験値が多く貰える敵を倒して一気にレベルが2、3上がるとワクワクします。
「逃げるぞ!」
俺達はジェネラルオークに背を向け、洞窟の最深部から入口の方へと走り出す。
俺を含めた遠距離組の4人は初めから後方に下がっていたから問題ないが、サラとリョウはまだジェネラルオークの側にいるため、2人を優先して逃がさなければならない。
そしてジェネラルオークは今にも逃走するサラとリョウの背中に向けて槍を突き出そうとしている。
「炎の矢」
「光弾魔法」
しかし俺とアイリちゃんの魔法がジェネラルオークに直撃し、2人を攻撃することを許さない。
ダメージはほとんど当たってないがこれでいい。今はジェネラルオークの動きを止められれば。
だが俺達の攻撃は一瞬ジェネラルオークの動きを静止することはできたが、ダメージがないとわかるとすぐにまた2人を追いかけていく。
「雷光矢魔法」
「ストレートアロー」
しかしジェネラルオークが動き出すと同時に今度はエリカとノエルンの追撃の魔法と矢が放たれる。
そしてジェネラルオークが2人の攻撃を槍で払っている間に、サラとリョウは俺達の所まで逃げてきた。
「死ぬかと思ったぜ」
「みんなサンキュー。助かったわ」
リョウは言葉だけ聞くと大変そうに感じるが、表情は笑顔でまだまだ余裕がありそうだった。
「サラ先輩無茶しないで下さい」
「けど強い相手がいると戦いたくなるのが女ってものでしょ」
サラの問いに女性陣は首を横に振る。
お前はどこかの格闘家か! と突っ込みたくなるが今は時間がないので諦める。
「おい! ジェネラルオークがこっちに来るぞ!」
リョウの叫び声が洞窟内に響き渡り、後ろを振り向くとジェネラルオークはものすごいスピードでこちらに向かってきていた。
俺達は洞窟の最深部から通路の方へと全速力で走る。
「きゃっ!」
「あ、足が!」
冒険に慣れていないせいかアイリちゃんとエリカは後ろから迫ってくるジェネラルオークに恐怖し、足がすくんだのか転んでしまう。
このままだと2人は追いつかれてしまう。
「イグニッション!」
俺は自分の身体能力を上げ、倒れているアイリちゃんとエリカを両腕で抱え、走り出す。
「お、お兄さん!」
「先輩、ごめんなさい」
だがその様子を見て好機と捉えたのか、ジェネラルオークは手に持っている槍を俺達の方に投擲してきた。
「くっ!」
さすがに2人抱えている状況でジェネラルオークの槍をかわすのは難しい。
だが俺には頼もしき仲間がいる。
「頼む!」
「任せろ」
俺が叫ぶと後ろを走っていたリョウが大楯で、投擲された槍を防いでくれたが、威力が強すぎてその場に倒れる。
まずい! 今度はリョウが狙われてしまう。
しかし俺の心配とは裏腹に前方からジェネラルオークに向かって矢が放たれる。
ジェネラルオークは槍を手放してしまったこともあり、その矢をまともに食らった。
「大丈夫⁉️」
どうやらノエルンがジェネラルオークに向かって矢を放ってくれたようだ。
「まだよ!」
そしてサラが後方に下がりジェネラルオークに向かって渾身の一撃を放つ。
「ペネトレイト!」
ジェネラルオークはノエルンの矢で体勢を崩していたこともあり、サラの攻撃でノックバックする。
「今のうちよ!」
俺達はノエルンとサラのおかげで体勢を立て直すことができ、再び通路まで走る。
「お兄さんごめんなさい」
「先輩すみません」
俺の腕の中でアイリちゃんとエリカか申し訳なさそうに謝罪してくる。
「ごめんな。危険な作戦を立てて⋯⋯けどここからは2人が頼りだけど行けるか?」
アイリちゃんとエリカがもう戦えないというなら作戦は失敗だ。撤退するしかない。
だが⋯⋯。
「やらせて下さい」
「必ず先輩の役に立って見せます」
2人の戦意は無くなったわけではなかった。
むしろさっきより気迫を感じる。足がすくんでしまったミスを取り戻そうとしているのかもしれない。
「わかった⋯⋯頼んだぞ」
「「はい!」」
俺はその答えを聞いて2人を地面に下ろし、再びジェネラルオークから逃走する。
ジェネラルオークは仲間を殺された恨みか、雄叫びをあげながらこちらに向かってくるが、俺達は何とか通路の所まで戻ることができた。
通路は洞窟の最深部と比べて狭いとはいえ、身長3メートルほどのジェネラルオークが通れないわけではない。
俺達は通路の端の方を使ってジェネラルオークから逃げていると突然後ろからズドーンと大きな音がなったので足を止める。
「どうやら作戦成功のようだな」
俺は背後を振り向くと先程追いかけて来たジェネラルオークは見えず、あるのは地面に大きく空いた落とし穴だけだった。
「ふふ⋯⋯後はこちらが一方的に攻撃できるわね」
サラがニヤリと笑いながらドSな根性丸出しで落とし穴に落ちたジェネラルオークを見下ろす。
そう。俺は土魔法で唯一使える土穴魔法を2回使って縦横3メートル、高さ6メートルの落とし穴を設置していた。
灯りを点けているとはいえ洞窟内は暗いので、落とし穴に土を被せていれば簡単に落ちてくれると考えた。それにジェネラルオークは仲間を殺られたこともあり、頭に血が昇って冷静な判断ができなかったはずだ。
「さあ! ここからはアイリちゃんとエリカのターンだ」
2人は恐る恐る落とし穴に近づいて雄叫びを上げているジェネラルオークを見下ろす。
「何だか少しずるい気が⋯⋯」
「そういえばサラ先輩がトウヤ先輩のことを卑怯なことをやらせたら右に出るのはリョウ先輩しかいないと言ってたのを思い出しました」
「何で俺までトウヤと同じ扱いなんだよ!」
エリカの言葉にリョウは突っ込みをいれる。
ふふ⋯⋯何とでも言え。俺の座右の銘はずるいと卑怯は敗者の戯言だ。戦いで負けて死んでしまったら意味はない。
「聖十字架魔法」
「炎鳥魔法」
2人の魔法が逃げ場のないジェネラルオークに直撃しHPを減らしていく。
HPの減り具合を見るとこれを後7、8回くらい繰り返せば、ジェネラルオークを倒すことが出来そうだ。
もしジェネラルオークが槍を持っていたなら、落とし穴の下から投擲で一撃くらい攻撃することができたかもしれないけどその槍は洞窟の最深部で投げてしまったからな。
「先輩! ジェネラルオークが!」
突然エリカが大声を上げたので、落とし穴に落ちたジェネラルオークに目を向けると奴は右に左にと土に拳をめり込ませて徐々に地上へとよじ登っていた。
エリカとアイリちゃんの魔法でダメージを食らっているが、ジェネラルオークは苦痛の表情を浮かべながらもその手足が止まることはない。
ジェネラルオークのHPは後1.5ゲージほど⋯⋯どうやらエリカとアイリちゃんが倒すより先に落とし穴を脱出してしまいそうだ。
「2人とも離れて!」
俺はエリカとアイリちゃんに落とし穴から離れるよう指示し、ミスリルの剣を抜く。
「トウヤっち何を!」
ノエルンの声が聞こえたが、俺は気にせず飛び上がり落とし穴から這いずり出たジェネラルオークに向かって、上段から剣を振り下ろす。
「メテオブレイク!」
これは今俺が使える最も強いスキルで、相手の周囲を重力で固定し、上段から一撃を食らわす。このスキルで重要なことは2つ。1つは相手を重力魔法で動きを鈍くして剣をかわすことをできなくさせること。そしてもう1つは相手の周囲に重力が働いているので、上段から剣を振るうと俺の剣速プラス重力の力が働いているため、剣のスピードと重さが増し相手に大ダメージを与えることが出来る。
俺はジェネラルオークが落とし穴から出てきた所を狙って頭にメテオブレイクを食らわす。
「グォォォッ!」
するとジェネラルオークは、断末魔をあげながらHPが0になり、この世界から跡形もなく消えて行くのであった。
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