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クラス委員長の長澤さんは戦闘力が見えるらしい

作者: nemuru

 時刻は10時45分。2時限目が終わった後の小休憩の時間に、その告白は始まった。


「さゆりさん……好きです。付き合ってください」


 その思いを受け取るのはクラス委員長──長澤 小百合(ながさわ さゆり)


「ごめんなさい。戦闘力115は、ちょっと……。凡人ね、将来性は、ありそう。良い人っぽいし。がんばって」


 告白への返事はとても呆気ないものだった。けれど──彼は諦めなかった。二度目の告白なのだ。


「……さ、さゆり! ま、待ってくれ!」


「……なに」


 自身を呼び止める声に、長澤さんは足を止める。けれど、その顔は険しく──既に、彼女の中で彼への興味は失せており、彼へ向ける視線は同じ組に属するクラスメイトに向けるようなものではなかった。

 ──戦闘力115のモブに構う時間なんてない、と。その目は語っている(僕目線)


「……確かに今の俺は、戦闘力115かもしれない。良い子なのかもしれない。でもこの一ヶ月で──戦闘力は、61も上がった」


「そうね」


 ……そう。彼の戦闘力は一か月前まで──54だった。一度目の告白で振られて、その後のこの一ヶ月で、彼は頑張ったのだろう。少しでも、戦闘力を上げるために。


「君に釣り合おうとするため、俺はやれることをやった。休日は母ちゃんに見て貰いながら自主勉強。早起きして朝の運動、そして何より──パン屋で働き始めた」


「……そう、パン屋」


 委員長は、あまり興味なさそうだった。あれで、中々奥深い所があるのだけれどね。


「めっちゃ捏ねるぜ」


 パン屋で鍛え上げられた腕を見せつけるように、力こぶを作る。ムキムキになっていた。そう、パン屋って、力仕事なのだよね。


「篠崎くんは、頑張り屋なのね」


 その声と表情は──慈しみを伴っていた。篠崎くんの頑張りは、確かに結果を出したのだ。その頑張りは、長澤さんに届いている。


「あ、ああ! だから、もう少しだけ、待ってくれないか」


 結果を得る、確かな実感を持った。だからこそ、篠崎君は手を伸ばす。


「……?」


「もっと、頑張る。勉学も、運動も。そして──パン屋も」


 めっちゃ捏ねるぜ、と。篠崎くんは宣言する。


「だから──俺と、付き合ってくれないか?」


 その思いを乗せた言葉は、本気だった。告白の行方を見守っていたクラスメイト達が、固唾を飲む。周囲は、戦闘力115の決意を見守る他がない。


「ごめんなさい」


「……ぅ、あ」


 振られた。今度こそ、完膚なきまでに振られたという実感が篠崎を襲う。


「後、気安く名前で呼ばないでね」


 止めも刺される。たった今、この瞬間彼の戦闘力は──大きくマイナス。戦闘力100未満にまで成り下がっただろう。

 

「……最後に、教えてくれ」


「なにかしら」


 篠崎くんの擦れるような声音に、長澤さんは振り返る。


「一体……戦闘力がいくつあれば、長澤さんと付き合えるんだ?」


 名字呼びに戻っていた。そして──彼女。長澤さんがじり、と何故か僕に近づいてくる。な、なに。


「……じり」


 口からも近づいてくる。そして、僕の座席の近くまで来ると、篠崎くんへと向き直り、口を開く。


「──彼。陰満(かげみつ)くんのような戦闘力であれば、あるいは」


 ──バレていたようだね。


 僕は鷹揚に立ち上がり、口元ににちゃあっとした笑みを浮かべる。


 自己紹介をしようか。僕の名前は陰満。

 彼──篠崎くんは、戦闘力を上げるためにパン屋で働き始めたと言っていた。戦闘力を上げる為に、パン屋で働き始めるという発想は良かった。だけれど、僕に言わせれば甘い。

 僕はこの学校に入学する当日から、パン屋で働き始めていたのだ。そんな僕に比べたら──まだまだ、という所だろうか。


 勉学と運動とパン屋と、一ヶ月の期間で60程、戦闘力が上がったのだったか。成程、中々頑張っていたみたいだ。だけれど、パンを捏ねに捏ねた僕の戦闘力は──自分のことながら、恐ろしい。


「だ、誰だよ、そいつ。えっと、名前……かげ、そいつに、それ程の戦闘力が……あるっていうのか」


 同じクラスで半年ほど過ごしたというのに、篠崎くんは名前を忘れる程にまで、混乱しているようだった。ふふ、僕が怖いか。


「そう。彼の戦闘力は……3」


「……?」


 うん?


「「え」」


 クラス中の視線が委員長と、僕に集まる。その視線は──「戦闘力3って、ゴミじゃねえか」「モブじゃん」「かげみつくんって誰」と語っている。

 その視線に応えるかのように、長澤さんは鷹揚に身振り手振りを交え、口を開く。


「──そう、彼は体力F・思考力E・経済力D・将来性F。……戦闘力3。モブの極みね」


「だからこそ──良い」


 その目はキマっていた。クラス委員長を務めるような人は、ダメ人間が好きなのかもしれない。


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