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第十三話 刃の塔へ行こう!


 俺とランスァこと女体化した蒼覇光剣は、ヤルバタヤを出て西へ向けて歩いていた。


 草原の中を曲がりくねる土の道は、行き交う人々に踏み固められてできたもの。その先には刃の塔がそびえ立っているのが見える。


「ねー主様、あれなぁに?」


 ランスァが指差したのは左手の平原。そこには先端を尖らせた丸太が、数本斜めに立てかけるように組まれた構造物がある。その尖った先端は刃の塔の方向に向いている。

 同じ物が平原の中にチラホラと点在していた。


馬防柵(ばぼうさく)だな」


「馬防柵?」


「刃の塔から出てくる刃魔を食い止めるために国が設置したんだよ。昔はもうちょっとズラッと並んでたそうだけど、たいてい刃魔にブッ壊されたそうだ」


「あらら」


「まあほんとは騎馬兵の突入を防ぐための障害物だからな」


 平原には馬防柵だけではなく、落とし穴がわりの溝が掘られている場所もあったはず。だが今平原を眺めてみても、草に覆われどこにあるかまでは視認できなかった。


「ふーん……刃魔ってどんな魔物なの? 柵で止められなかったってことだよね?」


「たいていは動物の姿をしてるな。体の一部から刃物が生えてるんだ」


「動物……」


「小さい奴は素早くて厄介だし、デカい奴は重くて突進力がある。馬防柵はデカいのにやられたんだろうな」


 俺は歩きながら後ろを振り返った。


 もうかなり遠くなったが、ヤルバタヤの街壁が見える。

 俺はそれを指差しながら、ランスァに説明してやった。


 大陸の中の外国には、侵略に備えて街を囲う壁があると聞いたことがある。

 だがハシラルにはあまりそういうものはない。小国で、他国からそこまで強烈に攻められたこともなかったから、そういうものはなかった。


 ヤルバタヤは特にそう。ハシラルの中でもそれほど重要な町でもなかったから裸の状態だった。

 だが数年前、ヤルバタヤ西の遺跡から突如現れた刃の塔から化け物が攻撃してきた。


 それでなんやかんやあったあげく大急ぎで造られたのがあの壁だ。

 一部は木造だったり、またある一部はいい加減に土を積み上げただけだったりして割と不恰好である。おまけに町の塔側を囲っているだけなので、実は半分しかできてなくて、カーブを描く壁が横から蓋をかぶせるように町を隠しているだけ。


「ふーん……横から入ってきたりしないの?」


「相手は動物だからな。塔を中心になんとなく広がって行動してるだけだから。たまには横からくる奴はいるけど、両サイドは国の兵が固めてる」


「この辺は? いないの?」


 ランスァは目をギョロギョロさせて平原を見回す。


「それを斬りたいっ!」


「今はもうだいぶ数が減ったんだよ。俺たち冒険者がヤルバタヤに集まって毎日狩ってたからな。最近は塔の中ぐらいでしか滅多に見かけねえ」


「えー……いてよ……今この場に……」


「落ち着けって……だからこれから塔へ行くんだろ」


 そういうことだ。

 今日俺とランスァこと女体化した蒼覇光剣は、刃の塔へ魔石狩りに行くことにしたのだ。


 曲がりくねる道はやがて森となった。ほどなくして、その森が拓けた空間となる。


 その中に台形の建造物があった。

 ヤルバタヤの遺跡だ。


「おっきいね」


「昔は何かの祭壇だったらしい。俺もよくは知らねえけど」


 石造りのそれは四面にそれぞれ石段が頂上まで続いている。祭壇の頂上からは、刃の塔が生えていた。

 俺はしばらく立ち止まり、木の陰に隠れつつ辺りをうかがった。


「主様何やってるの?」


「……よし、誰もいねえみてえだな」


「刃魔?」


「いや、他の冒険者」


「いたら困るの?」


「……前の仲間がいたら嫌だろ。顔合わせたくねえ」


 実は、時間はもう昼頃に差しかかりつつあった。

 冒険者はたいてい朝方に出かけるが、俺はわざわざ時間をズラしたのだ。行きの道やこの遺跡周りで、ディーン達に会いたくなかった。


 そうやって木陰でコソコソしている俺を、ランスァは木の反対側から覗き込むようにして笑った。


「ふふ、変なのー! そんなこと気にすることないのに」


「気にするだろ……気まずいよ」


「もしいてもすぐいなくなるよ」


「なんでだよ」


「あたしがブッた斬ってあげるから!」


「ありがとう。ますます顔合わせづらくなったわ」


 俺は他に人影がないのを確認してから木陰を出て、祭壇の南側へ回る。


「ほんとに誰もいないねー?」


「刃の塔にはいくつか入り口があるんだよ。みんなここじゃなくて、森の中にある別ルートへ行ったんだろ」


 草を踏みながらランスァは首をかしげた。


「別ルート?」


「ああ。以前はみんな攻略のためにこの祭壇から普通に上がっていったんだけどな。でもな、この遺跡、地下があるんだ」


 俺は歩きつつ、右手に見える遺跡の下の方を指差す。


「この祭壇の中に入ったら、地下と祭壇内の通路をぐるぐる通って塔に入ってくことになる。で、中には刃魔がいるから倒しながら進んでいかなきゃならねえ」


「ふむふむ?」


「けど、冒険者の中の誰かが森の中にある別の祠から塔の下部までつながってる別ルートを見つけたんだ。そこはほぼ直通だからあんまり歩かなくていいし、刃魔もほぼいねえ。上を目指すならそっちが楽だから最近はみんな祠の方へ集まるんだ」


 角を曲がって南側に辿り着く。


「じゃ、あたし達は?」


 ランスァが尋ねた。

 俺は立ち止まり、祭壇の壁中央に伸びる階段の、左横を指差した。祭壇は段状になっていて、いくつも入り口のような穴が空いている。その二階部分を指す。


「あそこから入る。それで、魔石の採取をやろう」


 ランスァはそこを見上げた。


「刃魔、いる?」


「そんなにはいねえ。たくさんの冒険者が何年かルートを調べまくったけど、あの入り口が比較的刃魔が少ねえルートってことがわかった」


「つまんない」


「まあそう言うなよ。いるっちゃいるんだ。だから最近は、全然いねえ祠ルートにみんな走っちまったんだから」


 俺はランスァの顔を見やり、


「だからこそここなんだ。刃魔はいるが、多くないし、下層の奴らは強くねえ。ちょうどいいウォーミングアップだ」


 彼女は小首をかしげる。


「俺と、おまえ。新しいチームなんだ。おまえが刃魔相手にどんな動きをするのか確認したい」


 俺がそう言うと、ランスァは何度か階段左の入り口と、俺の顔を見比べた。

 それから俺への視線で止めると、にっこり笑った。


「斬らせてくれるってこと?」


「ああ。行こう」




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― 新着の感想 ―
[良い点]  適度な飴をあげる主様。 刃物が生えた動物刃魔をどんどん斬っていいぞと許す主人公。助走回。塔の説明。無邪気なランスァに癒される。
[良い点] ようやくランスァちゃんとの冒険ですね。刃魔をバッサバッサと斬り伏せる姿が想像できそうです。 [一言] 更新楽しみにしています。
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