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revol†  作者: HP3
1章 Red Cross Hearts
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第8話 反逆

 「わ、分かった!許してくれ!」


 ロトカに両の手を押さえられ、後頭部の薄い髪を鷲掴みにされたデブじじいが喚き散らす。


 「な、何してる!」


 それを見た背後の書記官が動く。


 書記官は端から上司の横暴な態度を見ていたが、それを正せない歯痒い思いをしていた。


 そんな中、容疑者は一瞬にして手錠を引きちぎったのだ。

 上司の不祥事など頭から抜け落ち、犯罪者を抑えにかかる。


 ロトカの後ろからシャッ!という鞘から剣を抜く音がした。


 若い細身の書記官が私の後ろから急接近する。


 威勢は良いが格好があまり様になっておらず、一瞬見ただけでほぼ素人と変わらない事が窺える。文官に専念して、入隊試験以来剣など抜いた事は無いのだろう。


 錆びついた技術とは裏原に剣は綺麗なままだった。


 いつか使うかも知れないから...と手入れしていたのだろう。名前も知らぬ書記官の几帳面さが分かる。


 「男女の話を邪魔するもんじゃないですよっと!」


 私はガラ空きの鳩尾を尻尾で押し飛ばした。気絶してくれれば御の字だと思っていた。


 しかし手加減を間違えたのか。


 若い書記官君は数メートル先の壁まで吹っ飛び、石壁に叩きつけられた。すると壁が僅かに凹んだ。

 ずるずると体が地面に落ちて、メガネが取れる。


 死んでしまいましたか?


 「何、赤くなってるんですか」


 「い、いや、今『男女の話』と...」


 どんだけ馬鹿なんですか。


 「ここはどこですか」


 「き、貴様がいた闘技場から馬車で30分ほどの第1衛兵駐在所だ!」


 「そうじゃないです。国の名前ですよ」


 「く、国の名前?アレンシア王国に決まっておる!」


 「もうちょっと声は小さくできないんですか」


 「痛でででで!指を握りつぶすな!分かったから...」


 何を聞き出そう。


 「私は何ですか」


 「な、何だとはどういう意味だ...?」


 「そのままの意味です。人種は?この下半身は何?他の者達とは違う様ですが」


 「じゅ、獣人ではないのか?」


 獣人は人間よりも身体的に強い傾向がある。それを考慮してて手錠も特別製のものを掛けられていたのだ。


 「獣人とは?」


 「ひ、人の亜種みたいなものだ!様々な種がおる!」


 デブじじいは未だに声が震えている。


 当然か、私の機嫌を損ねたらペンに叩きつけられますからね。


 デブじじいこと、トーリ男爵は小さい声量で叫ぶという芸をやってのけている。


 そもそも立派な身なりのこの震えている男、トーリ男爵は本来ここに居るような人物ではない。


 偶然、闘技場から出て行く際に小隊長によって担がれた人物、ロトカを見かけたからだ。

 外套からチラリと一瞬風に吹かれて露わになった脚をトーリ男爵は見逃さなかった。人間にはない、特長的な下半身が見えたからだ。


 トーリ男爵は獣人の女に対して性的興奮を覚える性癖の持ち主だった。そのため、権力にものを言わせて、本来の尋問官と無理やり交代したのだ。


 男爵は内心、こんな目に合うなら来なければよかったと、猛烈に後悔していた。既に遅いのだが。


 「アレンシア王国の金の単位は?シリングだけ?」


 「そ、そうだ!」


 「なら...金を稼げる職業は、何ですか?」


 一番聞きたかったのはこれだ。コイツの意見を聞き入れるかは別として、参考にはなるでしょう。


 「わ、私の護衛などどうだ!?金は積んでやれるぞ!月100万シリングでどうだ?」


 この質問からロトカが金を求めている事をトーリ男爵は察した。

 懐具合には自信がある男爵はここに好機を見た。慌てて自分の護衛をしないかと持ちかける。


 100万シリングにどれだけの価値があるのか...?定かではないがコイツに雇われるのだけはごめんですね。


 「今の状況理解してますか?おじさん?」


 私の手がコイツの汗でじんわりと濡れてきた。気持ち悪い。


 お辞儀をした格好になっているデブじじいの目の前には、繊細なバランスを保ち倒立している高級そうな黒いペンが一本。コイツが使っていたものだ。


 「私のさじ加減で、あんたの目玉は串刺しになるんですよ?」


 「ひ、ひぃ〜!」


 トーリ男爵はさっきまでの威勢はすっかり失っていた。情けなく泣き声をあげる豚に成り下がった。


 よくも私の体を触ってくれましたね。


 「ねえ、おじ様ぁ?私、おじ様のお家に行ってみたいわ」


 「い、良いとも良いとも!」


 「本当?嬉しい!で、どこの辺にあるのかしら?」


 「王都の高級住宅街マーシィ通り4番地にあるんだぞ。余の家は凄いぞぉ〜世界中から集めた絵画や彫刻が唸るほど...」


 「え〜本当?凄いわ!じゃあ...今度行かせてもらうわ」


 ロトカはトーリ男爵の頭を数センチ上に上げる。


 解放されると思ったトーリ男爵はどういう訳かこの女は金に目が眩み、自分の家に来る!と、歓喜の光が宿る。


 しかし許された訳ではない。ただ男爵の頭を叩きつけるために助走を付けただけだ。


 そして無情にもロトカはそのままトーリ男爵の頭を思いっきり下げ、左目にペンを抉り込む。


 「ぎゃああああああ!目がああぁぁぁあ!!」


 トーリ男爵はあまりの苦痛に耐えられず丸っこい体で暴れる。

 短い手足を必死にバタつかせ、地面でのたうち回る。


 トーリ男爵の意思ではない。脳がこうでもして意識を痛い身以外の要素に向けないと、処理しきれないと判断した結果であった。


 ここ数年で最も俊敏な動きを見せるトーリ男爵。指にはまっているゴテゴテの指輪が地面に当たり、ガチガチガチ、と音を立てる。


 「はいはい,分かったから。少し黙っててくださいっ!」

 

 ロトカはトーリ男爵に近づき、目からペンを抜いてあげた。その際に何か抵抗があったが、そんなのお構いなしに、怪力で千切る。


 「ああああああぁああ!」


 抜き取ったペンの先端には眼球が刺さっている。綺麗な球体ではなく、生々しい組織が吸着している。


 他の衛兵に気づかれるのは時間の問題だ。ロトカはトーリ男爵を黙らせるための道具を探す。


 すると先程軽くふっ飛ばした若い書記官が目に入った。

 ロトカは素早い動きでその書記官に接近し、上着の袖から腕を抜いた。

 その際、首元をチラッと見ると脈が拍動しているので、生きている事を確認した。


 この位の力加減では人は死なないのか、良い勉強になりましたね。


 「うおおおぉぉおお!!」


 この間もトーリ男爵は叫びにならない苦悶の声をあげ続けている。叫び疲れたのか、声が掠れていた。


 ロトカは我に帰り、若い書記官の手元から離れていた剣を右手で持ち、その服の袖を肩から切り落とす。

 そしてそれをトーリ男爵の口に加えさせて、後頭部で片結びを二回して防音対策をした。


 こりゃ前もってやっておくべきでしたね。

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