田舎育ちの青年?
「ししょー、どこですかー」
雑踏の中、青年は人探しをしていた。しかも探し始めてから3日目である。
最初はこの繁華街から離れた場所に仕事に来ていたのだ。いざ仕事が終わり、寝て起きたらメモだけが残されており、青年の師匠は姿を消していた。
メモには「ルーカスに向かえ」とだけ書いてあり、具体的な行き先も、そして何故1人で出発したのかという情報が一切なかった。メモとしてはお粗末な紙切れといったほうが正しかろう。
一日は同じ場所で待機していたが、一向に師匠は帰ってこなかった。
過去に似た様なことは何回かあったが、1 日帰ってこなかったことはなかった。そのためわざわざ街まで探しに来たのだ。
「それにしても人がいっぱいいるなぁ」
時刻は夕暮れ。
繁華街が盛り上がり始めた頃である。
青年と同じ様な歳の者、防具を着込み如何にも討伐に行ってきた様な男、事務仕事を終えたスーツ姿の男女のグループなど挙げればキリが無い。
物珍しげに周りをキョロキョロしている青年は何処か田舎から出稼ぎに来た、今時良くいる奴だろうと思いながら皆そばを通り過ぎてゆく。
「店も凄いなぁ。センテラス…何屋なんだ?」
中には店名だけでは何をする場所か分からない店も多々あったが、青年が今まで生きてきて見たことない程の物量だった。
「腹減った….」
師匠を探す事などすっかり忘れてしまい、目を引くものに徒然なるままに歩き回ると、腹の虫が鳴った。
「食事処でもお探しで、お兄さん?」
青年はそこでスーツを来た男に話しかけられた。
「ええ、もう3日も何も食べてなくて…お兄さん何か食べ物でもくれるんですか?」
「い、いや。そうじゃなくて、いいお店知ってるから教えてあげようと思って」
何のことはない。この男はただのしがないキャッチである。
この男は客を物色していたところ、腹が減っていそうな青年を見つけて声をかけたのだ。
声をかけたが良いが、食べ物を持ってないか?という予想外な言葉を返されたため少し怯んだのだ。
内心、『こいつ貧乏人じゃねぇか?』と思っていたが、話を続けることにした。
「いいお店?」
「そうさ。海鮮、肉、カルディア料理…なんでもあるぞ。ここルーカスにはな!それから…」
この地は名をルーカスといい、レイグミシア王国の中央に位置している。
昔の首都だった事もあり国内で2番目の都市である。
青年は国を転々とする生活をしていたので、一応自分が何処にいるのかはちゃんと把握していた。
「さすが大都市ルーカスですね。全部美味そうだけど、悩むなぁ…」
「おいおい、人の話は最後まで聞くもんだぜ?悩んでる兄ちゃんにもう一個選択肢がある。綺麗な女の子と一緒に食べれる所もあるんだぜ」
「本当ですか!なんだぁ、お兄さんも人が悪いなぁ。それを早く言ってくださいよ!」
『綺麗な女の子』という何とも魅了的な言葉以外は頭から吹っ飛んだ青年はその店しかないと決めた。
「おっ!あんたも好きだなぁ!」
キャッチの男も青年の人の良さそうな表情に少し気を緩めて、親近感が湧いてきた。
「じゃあそっち系統で行くか。で、あんちゃんはどんな女が好みだ?綺麗系か可愛い系かコスプレ系か何でもいいぜ」
キャッチとしてはいわゆるキャバクラに連れ行った方が報酬が多くなるため、そっちの方を勧めたかったのだ。
思いの外青年の食いつきが良かったので、張り切って良い店を紹介しようと思っていた。
「綺麗系で!綺麗なお姉さん系で!!お願いします!!!」
「あっはっは。相当な田舎から来たのか?テンション上がりすぎだろ。綺麗なお姉さん系か…選択肢がまだちと多いな。衣装はどんなのが良い?」
「衣装まで選べるんですか!?」
「店によって違ったりするからなぁ。ドレスやナース服、普段着、東ノ極の何つったっけな…浴衣とかな。まあ無難で人気なのはドレスか」
「ショートパンツのガーターベルトで良いですか!?」
「な、なかなか業が深いな…(お人好しな見た目とは裏腹にとんでもないコアな好みをしてやがる…)」
「あのベルトからムチッと太腿がはち切れんばかりの存在感を無理やり押さえつけられてる感じが最高ですよね!」
「そ、そうか。まあそれも分からなくもないが…流石にその衣装を着てる子がいる店は知らねぇなあ。まあ無難にドレスにしとくか?」
「じゃあそれで!」
「おっし。じゃあ…そうだな、ちょっと着いてきてくれ」
「はーい!」
もう青年のテンションはマックスだった。
スーツの男について行き、3分くらいで店に着いた。
腹が減っていて青年は今まで気がついていなかったが、繁華街とは少し趣が違う所に来ていた。
道も少し狭くなり、様々な店がギュッと収納されたかの様な印象を受けた。
店の名前は『Grace』らしい。綺麗な金色の飾り文字で看板に書いてあった。
店には先にスーツの男が入り、後から青年は付いて行った。
「うおー、豪華なお店だ」
店内は少し暗く、灯りが等間隔で壁にかけてあった。壁紙は黒ベースで、金色の模様が描かれていた。下品すぎず、シックすぎない程よい加減である。
「よし、俺はここまでだ。後は楽しんで来な」
「はい!ありがとうございました」
キャッチの男は店の店員に何やら話をつけて、店から出て行った。
親切な人だったなあ
1人残された青年はそわそわと興奮を抑えきれぬまま、言われた通りにソファーで少し待機する事にしたのだった。




