第33話 棺桶の依頼
昨日は掲示板をざっと見た後、ロトカは寝てしまったアイナを背負い、近くの宿で就寝した。
ところでフェン一行は棺桶をメインに活動しているため、家を賃貸していた。
勿論男女別の家だが、距離としては相当近いため打ち合わせや簡単にパーティーする程度なら何の支障もない。
フィーネとサラはロトカ達を泊まる様に誘ったが、ロトカは勿体無いことに断った。
一応、宿のレベルなどを知っておきたかった様である。
ロイから説明があった通り、ロトカは宿の値段は高いと感じた。
取り敢えず、1日だけ予約したが3万シリング程要した。
因みに朝食付きで5分無料のシャワールームがある。
部屋自体は大きめのベッドが2つあり、ちょっと頑張れば4人で生活出来るくらいの空間だった。
ロトカは朝の5時には目覚めていた。その後、宿の裏で素振りを2時間くらい行って、汗を流した。
現在、朝の7時半だが木窓を開けて外を見てもまだ人通りはまばらであった。
冒険者は遅くまで飲んだりと夜型の生活をする者達が多いので、朝は弱い傾向がある。
ロトカは素振りから部屋に戻り、アイナを見るとまだ寝ていた。
アイナは結構疲れが溜まっていた様だ。
アイナは一応、ロトカが背負って一緒に宿まで連れて行った。
気まぐれとはいえ、アイナを一時的に保護する事を決めた。その為ロトカは責任を感じていた。その結果、一緒に行動して本人と相談する事にした。
一応、これと言ってロトカに予定は無い。
当初の予定では修行のために大森林の中層まで来たのだ。アイナを連れて外に出る余裕はない。
「さて、活動を始めますかね」
まず、ロトカはすべき事を考えた。
シャワーを浴びて服を着た時、汗くさいと感じたため、早急に服屋に行く必要を感じた。
戦闘中に脱いでいると言っても何日間も着続けていた。女性といえども汗臭くなるのは避けられない。ましては普通に生活しているわけではないので尚更であった。
加えて、こんな穏やかな生活を送っている訳にはいかないので暫く外で修行するつもりだ。その為に服が何着か必要であった。前回の反省を活かした結果であった。
ロトカの頭には一貫して金儲けのために強くなることしか無かった。金銀財宝を好きなだけ手中に収める為には圧倒的な強さが必要になる。
仲間を作るとかは正直、二の次だと感じていた。
勉強のためにギルドに所属しては見たが、愛着など微塵も湧いていない。必要ならいつでも辞める考えであった。
「雷ぃよ、起きろ。常闇を照らせぃ。新雪の頭をサンっと切れぃ。切った頭で真白に染めて、原始の色で力を示せ。雑煮、ごった煮、溺れ死ぃ〜♪」
適当な歌詞を口ずさみ、顔を洗い歯を磨き外に出る支度をする。
『さあ、アイナはどうしましょうかね』
アイナを連れて、修行に行くつもりは微塵もなかった。わざわざ危険な所に子供を連れて行く必要もないし、何かあったら多少なりとも良心が傷つく。
フェン達に押し付けようとも、フェン達も依頼で数日留守にする事が多いためアイナの面倒を四六時中見れるわけではないはずだ。
『取り敢えず、フェン達に相談してみますか』
ロトカはフェンの家に向かったが、不在であった。ロトカはきっとフェン達はギルドに居ると思った。
ギルド広場は昨夜とは様変わりしていた。屋台がたくさん出店しており、人の数も段違いであった。
大掲示板の前は人だかりが出来ており、何か新しい情報はないかと目を通していた。情報を知っているかどうかが時に生死を分けることもある。
また、ランキングに載っていないとは知りながらも何かの手違いで乗っている可能性を信じて、自分の名前を探すお調子者の冒険者も少しいる。
モンスター討伐・捕獲・発見【エスタ】の一位は昨日確認した通り、ギルド(エスコンシエラ)のウィンターズパーティであった。
ロトカはそれほど興味を持ってはいなかったが、頭の片隅には置いておこうと思っていた。
『とうにかくこうでなくてはね』
人がいて活気がある方が何かとやる気が出るものである。ロトカも多少気分が高揚していた。
ロトカは口笛を吹きながら、ダンスしながらギルドに入った。
「なんだい、あんた朝から酔ってんのか?」
「いえ、急に楽しくなってね」
「じゃなきゃ頭がおかしくなったのか。まあ珍しい事じゃない。荒っぽい職業だからね」
女は興味なさそうに捲し立てる。
ロトカは女よりも手に持った石ころに興味を持った。
「それなんですか?大きな石ころなんて握りしめて」
「見なよコレを!」
彼女は手に持っていた黒くキラキラ光る拳代の石を見せつけてきた。
「だから何ですかこの石ころは」
「石ころ!?これがその辺に転がってる石ころだと思うならアンタの目は節穴だね」
女は全く心外だ、という様子であった。
「コレはセントラリット鉱石。中々の武具を作るのにピッタリの材料…ってのは流石に知ってるか。まあ、まだ品位は調べてないんだが見るからに60%は硬いはずさ」
女は興奮気味にそう言った。
「まあ場所は教えんがね」
女は自慢をするだけして勝手に奥に引っ込んでいった。
「金の匂いがしますね」
ロトカの嗅覚に引っかかるものがあるようであった。
「ロトカさんじゃないですか、おはようございます」
フィーネであった。
「ああ、おはようございます。フィーネ。数時間ぶりですね」
「よく眠れました?アイナちゃんは一緒じゃないんですか?」
「ええ、ぐっすりとね。ちょっと宿代が高かったですが。アイナはまだ宿で寝ていますよ。多分疲れが溜まっていたんでしょうね」
「そうですか…暫く外にいましたし、50kmは大変な道のりでしたでしょうから」
一般人にしてみたら、しかも少女であれば50kmというのはかなり長い道程であったはずである。
「やあ、フェン」
「ロトカ、疲れも取れてそうだね」
フェンは先ほどロトカの目の前から去っていった女冒険者を一瞥する。
「さっきの彼女は『未踏破地域・その他資源の発見【マウイ】』が専門だから、新しい鉱床の手掛かりを見つけて喜んでいたんだろう」
新入りのロトカに少し説明してやる。
「フェン達は何でギルドに?昨日まで仕事してたんですから、もうちょっと休んでもバチは当たりませんよ」
「私たちは依頼を見に来たんです。流石に今日はお休みですがいいクエストは人気で直ぐに無くなってしまいますから」
「良くまあこんな辺境に沢山依頼がありますね」
掲示板にはかなり依頼が張られていた。
「ここの依頼者は棺桶の冒険者か、ギルドのどっちかが多いね。一般の人からの依頼は街のギルドに比べると大分少ないと思うよ」
街から棺桶までは相当な距離があり、円滑に連絡し合う体制が求められている。
現在は信頼のおける冒険者に依頼して、荷物や伝言、業績、依頼内容などを街のギルドとやり取りしている。
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クエスト名:金ピカ鯉鯉
種別:モンスターの捕獲
ランク:D
捕獲対象:金色のゴライアス鯉
報酬金:500万シリング
期限:2週間後の13日、午後5時
【依頼主:自慢したい貴婦人】
友人を招いた大きなパーティがありますの。インパクトを与える為にゴライアス鯉がいればと考えています。2匹を捕まえてきてくださいまし。
【注意事項と申し送り】
・西の12番湖で金色のゴライアスの目撃例が複数あるため、大森林中層の本拠点に依頼が回ってきました。
・資料室にゴライアス鯉について纏められた書物がある為、確認してください。
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「この依頼は難度高めだな」
「水性生物ですし、名前が可愛くないですしね」
「可愛いって言うかどっちかと言うとゴツい部類だなありゃ。体長も1メートル位ある、まじで黄金色の鯉らしいぜ。見たことあっても黒系の色が多いんだ。黄金色のやつは数が少ないし貴族連中がこぞって欲しがるもんだから、需要は高いんだな」
「…捕獲は面倒。別の依頼にすべき」
一向の評価がビミョーであった。
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クエスト名:闘牛士と火葬舞
種別:モンスターの討伐
ランク:D
討伐対象:フェトルゴ
報酬金:200万シリング
期限:1週間後の7日、午後5時
【依頼主:ブルーゲイザー】
コメントなし
【注意事項と申し送り】
・大森林には珍しい炎を扱う角牛種のモンスターです。火対策を講じて臨んでください。
・タックルを正面から受けることは非常に危険です。装備品などの点検を今一度よろしくお願いします。
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「ギルドポイント…あぁ、確か点数を集めると色々な物と交換できるんでしたっけ」
「そうだよ。ギルドポイントでしか買えない特殊な物品も多いからギルドに所属するって人も結構いるんだよね」
「…それからフェトルゴは3m位の雄牛で物凄い炎を吐く」
「山火事にはならないんですよね」
「そうですよ。中層の木々は火耐性がかなりありますから。建設用の木材としてうってつけです。更にすぐ生えて来ますから。本当に不思議です」
ギルド内の掲示板は部門ごとに分かれている。どの部門の掲示板も同じくらいのサイズであった。
「この辺で一番強いモンスターはどれですか?」
「中層で特に強い奴ねぇ」
「特に強いモンスターは何体か思い浮かぶけど、最強は分からないな」
「相性とかにもよりますからね」
「物理攻撃で腕力特化ならヒルゼンかも」
「それって鈍猿ヒルゼンでは?」
「…まあそう呼ばれることもある」
「【鈍猿ヒルゼン】は背丈は2メートルくらいで、腕が特に発達した猿です。特徴は二尾であること。しかも名前の通り鈍色の体毛をしてるよ。"二尾"と鈍色の”鈍”がかかっていてなかなかオサレな名前なんだよ」
「ヒルゼンは強ぇぞ。パワーとスピードを兼ね備えてるからな。俺たちが一撃でもモロに食らったら、戦闘不能になるだろうな。ついでに死ぬ可能性も割とな」
「戦った経験がおありで?」
「私たちはまだ、戦ったことはない。けど、モンスター同士の戦いを遠目から見たことはある」
「僕たちがボア・ティティアを討伐した時だっね。体力は使い果たしていた。もう後は帰るだけだった。そんな時、低い音を響かせて悠然と何かがやってきた。それがヒルゼンだった。でもあいつは僕たちを一瞥してただ歩き去った。いやーあの時は怖かったよ、本当にね。まあ今となってはいい思い出さ」
「クエストで出るならCかBだろうな」
「ちょうどまだ、ヒルゼンがいる時期だから勝てるが知らんが戦うことは出来るぞ」
「時期によっていなくなるんですか?」
「まあ、極端に目撃例が少なる時期があるというだけね?本当に中層からいなくなるのかは誰も分からないんだよ。なんせ中層は馬鹿でかいからね」
「一斉に死んじゃうとかですか?」
「いやあ、それも分からないんだ。ただ死体は見つけられないから下層に行ってる可能性が高いと思われてる」
「案外ちょっとバケーションに行ってるだけかもしれませんよ」
「もしそうだとしても誰も信じんだろ」
「素材だと特に尾が高値で取引されるね。貴族達の観賞用だとか箔付け、お守り、防具に使用されたりする。尻尾の毛は特に耐衝撃性に優れてるから」
いい機会だったので、暫くロトカはフェン達に質問をして情報収集に努めた。




