第32話 ランキング
「ブルーゲイサー、ゴルドベルガ、エスコンシエラ、セログランデ、ガッシャーブルム、バトリックスの6つは中心の方に棺桶支部がある。アルカナだけはない」
サラがボソッと言う。
「どのギルドも同じランク分けだ。FからEvまで8階級だ。昨日の言った様にここ中層に来んのはD、C、Bがボリュームゾーンってとこだな」
「言ってなかったかもしれないけど、僕たちはCランクでね。もう結成してから6年くらいだ」
「見えて来たぜ」
周りには店が沢山あったが、暫くメインストリートを歩くと大きな広場に出た。
広場には20メートルくらいの建物が6つあった。
「俺たちの左からゴルドベルガ、ガッシャーブルム、エスコンシエラ、ブルーゲイザー、バトリックス、セログランデのギルドだ。用事もないのに別のギルドに入らない様にな」
「ブルーゲイザーは一番奥だからね。大した距離じゃないけど他のギルドと比べると不便さがあるよね」
「覚えておきます。ところで、なんで私がブルーゲイザー所属って知ってたんですか?」
「ああ、ギルドカードだよ。同じギルド所属の冒険者同士だとちょっとだけカードが光るんだ」
「そんな機能あるんですか?私が聞きそびれたんでしょうか」
「多分そうだね。最初にきっと説明されるから」
「結構便利な機能ですよ。知っておいて損はないと思います。お互い危ない時は助け合う事もできますしね」
ギルド広場は時間が時間という事もあり、チラホラと冒険者が出入しているだけであった。
皆、寝床に戻り休むか食事に出掛けていた。
「結構閑散としてるね。色んなモンスターを観れると思ったんだけど」
アイナは重い瞼を擦りながらも、見たことないモンスターが居ないかと探していた。
「それはこんな時間だから。いつもはもっと人がいる。皆寝床に戻ってるかさっきの繁華街に行ってる」
周りを見る限りモンスターを運搬しているのはフェン一行以外に3組くらいであった。
「こうもギルドが密集してると最初はどれがどのギルドか分かりにくいよね。建物も似てるし」
「ブルーゲイザーの冒険者は他と比べると多少大きな武器を持ってる奴が多いんだよ。討伐メインの人達が多いから。だから武器の大きさも一つ特徴になるかな」
「さあ、やっと着きましたね」
ブルーゲイザーの建物の入り口両脇に松明が二つ設置されて、揺らめいていた。
入り口の上に《Blue Gazer》という看板が掲げられていた。
「じゃあ俺とフィーネは解体場にテオノール持ってくから。手続きしといてくれ」
そう言ってロイはフィーネと共にギルド裏手にある解体場にそのままモンスターを届けに行った。
「さあ、その間に僕たちも早く手続きしようか。皆んな疲労が溜まってるからね」
フェンとサラ、アイナそしてロトカの4人がギルドに入った。
入口には扇型の段差が3段あり、大きな押し扉が開いていた。
室内は冒険者が10人くらいいる程度だ。私服の者が殆どだった。
天井の蝋燭が仄暗く室内を照らしていた。
ブルーゲイザーの棺桶支部はサンダーバーグ支部と同じくらいの大きさだ。
建物は3階建で、一階が受付などになっている。2階は資料室で、3階が一部の人間しか入らないエリアになっている。
「やあ、フェン。今おかえりかい?」
「そうさ。ギリギリになっちゃって」
受付には女性が一人もいなかった。代わりに男の受付が1人だけ眠そうに座っていた。
頬杖を付いて船を漕ぎ出そうとしていたその時、フェン一行が現れたのだ。
受付の男はフェンに気がつき、やっと仕事だとばかりに両頬を少し叩いて気付をしていた。
「ロイとフィーネはどうした?」
「テオノールを解体場に置きに行ったよ」
「そうか。一瞬何かあったと思ったぜ。まあもしそうならもっと大事になってらぁな。とにかく良かったぜ。サラも無事で良かったぜ」
「どうも」
サラも満更ではない様子で受付の男と握手する。
冒険者は一回の依頼が命懸けであるが故に無事で帰還する事が重要なのだ。
「そりゃ話が早い。ちょっとお前らの依頼用紙を探して来るから待っててくれ」
男の受付は寝ぼけ眼で資料を探しに奥に引っ込んでいった。
「ははっ。きっとあの調子じゃ時間かかるだろうね。まったくマイクは」
フェンも付き合いが長いので、きっと眠そうにしてるんだろうなと予想していた。
「今の内に、ロトカとアイナにちょっと中を説明しようか。棺桶支部は全部で3階建てで、ここが一階の受付兼談話室兼軽食屋だよ。色々役割が混ざってるけど、そこは気にしないで。多分一番使う事になるエリアだね。2階は資料室兼ギルド職員の職場さ。それで3階は物置になってる」
「フェン、あれは何?」
骨の腕が入口付近の大円机の中央にポツンと置かれていた。
虚空の何かを掴み取ろうとするかの様に指が少し開いていた。
「骸の索腕といって、モンスターの居場所を示してくれるんだ。これが重宝してるんだよ」
「どんな原理で立ってるんですかこれ。気味が悪いんですが」
「あんまり考えたこと無かった。最初見た時は驚いたけど、慣れた」
「どうやって使うんですか?」
「心の中でモンスターの名前を思い浮かべるんだよ。そしたら人差し指が水平360度の何処かを示すから。そこの方角に標的がいるってことさ。難点は自分が見たことあるモンスターにしか対応して無いところだね」
「これを持って冒険に行けば、すぐに標的を見つけられたのでは?」
「皆んなそう考えるんですけど、相当な確率で不幸が降り掛かるので、ここで使うだけなんですよ。その上他の人が使えなくなっちゃいますから」
「それに死んだら紛失して大ごと」
「おかえり。何も問題なかった?」
「無かったぜ。係員の奴らがやたら眠そうだったくらいだな」
「しょうがないですよ。こんな時間ですし」
「だが、フィーネを見て目が覚めたようだぜ。デレデレしてやがった」
「そんな事ありませんよ。いつも通り優しかったです」
「それはいつもデレデレしてるからだろ」
ロイが呟く。
「フェン、待たせたな。やっと見つかったぜ。ロイもフィーネも無事で何よりだ」
手続きをするために受付に集まる。
「依頼主、報酬金他の内容はこれで良いよな?」
声に出して第三者に聞かれるのを防ぐために、全て用紙でやり取りが行われる。
フェンは慣れたもので、スラスラ一読した。
「そうだね。これで正しいよ」
「よし。討伐したモンスターは裏の解体場に持って行ってくれたから…」
「はい。係の方達にお渡ししました」
「それについてなんだけど、あのモンスターは”譲り”でね。こちらのロトカさんから貰ったんだ」
「珍しいな。あぁ、ロトカ?ロトカさん?」
「どっちでも良いですよ」
「じゃあロトカ、冒険者カードをちょっと見せてくれ」
「ええ、持ってますよ」
「はいどうも…成程。それで、ロトカは討伐対象のモンスターをギルドまで運搬する予定はあったか?」
「いえ、持ち帰る予定は無かったですよ。デカいし拠点が何処にあるのか分からなかったので」
「拠点が何処にあるか分からない!?…いや、それはいい。まあとにかく持ち帰る予定はなかったと。それじゃあ、放置予定のモンスター譲受に関する規定に基づき、報酬金を半分をロトカに渡す。フェン一行もこれに異論ないな?」
「ああ、ないよ」
「お金貰えるんですね」
「ああ。どんな理由であれ、実際にモンスターを倒した者にも報酬が行き渡るべきという考えがあるからな。因みに依頼外モンスターの場合は引き取り額が下がるから注意してくれ」
受付の男はロトカのカードを見て、冒険者になって日が浅いことは明らかだった。その為、補足情報も伝えた。
結局、ロトカとフェン一行はそれぞれ70万シリングずつを受け取った。
手続きも終わり、アイナも眠気が限界な様子だったので手早くギルドを後にした。
「何ですか、あの掲示板。やたらと大きいですね」
来る時はフェン達と話していて気が付かなかったが、大きな掲示板がギルド広場の中心にあった。
「ちょっと見てみるか」
一応、両脇に一人づつ甲冑を着た見張人が配置されている。落書きをする不届き者がいないかを目を光らせているのだ。
この大掲示板には周辺国王からの知らせなど公的文書もあるため、わざわざ見張りをつけるのだ。
もちろん張り出されているのは真面目な政治関連の情報だけではない。というかそれは割合としては圧倒的少数だ。
何処からでも見やすく、目立つように政治関連の御触書は中央に大きな文字の紙がある。
その他はどこの商会で何が安いだの、どれが新商品だの、それから近くの居酒屋で誰の演奏が何時にあるだの、教師募集などが書かれた用紙がある。
それから1番書きやすく、目立ちにくい左角の下に誰でも自由び書き込めるフリースペースがあった。
まあ下品な言葉やマーク、反社会的な事さえ書かなければ衛兵は感知しないので結構テキトーに書き込めるのだ。
新参者が記念に何か書いていく事があるが、すぐに次の者に上書きされてしまうのが常だった。
「これがランキングさ」
フェンは特に中心の大型の容姿を指差した。
そこには3列、100行にわたってずらっとチーム名とギルドの略称が記載されていた。
しかし、掲示板自体が巨大なので、字も大きく読み取れた。
「フェンに達は…この拠点だと95位なんですね」
「そうだよ。つい最近100位以内に入ったんだよ」
「1位はウィンターズって人がリーダーのとこですね」
「エスコンシエラのパーティだね。あそこは依頼成功率が7割を下回らない上に依頼成功数、レベル、軒並み主要な指標が一番高いからね。ダントツで一位さ」
ランキングは棺桶内の各ギルドのランク毎に張り出されている。
毎月張り出されるのを棺桶の冒険者達は楽しみにしていた。
一方、お気楽な冒険者とは対照的なのがギルド職員である。各ギルドにおける数値集計担当者達は月末大忙しで、ランキングを正確に作成する。
計5人の集計担当者達は胸の内で、月末は来ないでくれと祈っていた。祈った所で来ないわけがないのだが。
「『未踏破地域・その他資源の発見』はどんな事を?」
「今でこそ冒険者と言えばモンスターと戦う人って印象が強いですけど、起源は誰も行ったことがない未踏破地域を攻略するのですからね。そういう意味で【マウイ】は冒険者の源流を受け継いでいる方達です」
「ああ。真ん中の列だね。その部門は略称で【マウイ】って呼ばれてるよ」
「因みに僕たちは『モンスター討伐・捕獲・発見【エスタ】』が専門だから別の畑だよ。ついでに言うと右の列が『遺跡攻略』だね」
「『遺跡攻略【レステ】は字面の通りの意味。大抵は地下の遺跡を攻略するのを使命としている。場合によっては新しい遺跡の発見もする。遺跡を発見すると学術的な価値がある彫刻や絵画、財宝とかが手に入る事もある夢がある職業。そう言うのがない場合でも建物自体に価値がある」
サラが続ける。
「ただし、見つけても内部にトラップが十中八九あって、死亡率はどのギルドも低くない。どの罠も侵入者を防ぐためだから死亡率高め」
「モンスターも出てくるから戦闘技術も必要なのさ。当然、何処に遺跡とか資源がありそうなのかを見当つける情報収集能力、それから考察力が必要なんだよ。まあこれはどの部門でも変わらないけどね」
「ちょっと分かってきましたよ。大きく分けて3種類あるんですね」
フェン一行が説明してくれたお陰で、ロトカとアイナも知識をつけることができた。
「ところで、最近の目覚ましい功績とかはあるんですか?」
「この拠点じゃないけど、最近はガッシャーブルムのパーティが15000m峰、14座の内最後の1座カカルー山を登頂成功したらしいね」
「15000mですか、そりゃ凄まじい。どんだけ寒いのか検討もつきません」
「同感です。水を飲むのも大変そうですよね。本当に凄い方達です」
フィーネも同意する。
「そう言う場所じゃないと育たない植物とか、鉱物が有りそうですよね」
「初登頂者の栄誉意外に、それが目的の一つだろうからな」
「珍しい鉱物や生き物、観賞用・実用ともに価値がある植物が生えてるケースが多いらしい」
「ユウランっていう淡い光を発して。ゆらゆら揺れる不思議な蘭があるんだ。それに復元薬の材料の古のマンドラゴラとかもね。全部人からの受け売りなんだけどね」
「一度は見てみたいですね」
と同時にロトカは金になりそうな話だと内心考えていた。
「肺活量に物を言わせれば、私達でも登頂できると思われる」
「そうかもしれませんが、10000mを超えると気温が低すぎますよ。私も本で読んだのですが、訓練しないと精神的に参ってしまうと思います」
「まあそう言うことで、今のところは夢のまた夢だね。それにモンスター相手で手一杯だよ」




