第31話 棺桶
ちょうど歩き始めて5時間後には運搬道と呼ばれる、少しばかり整備された道に出られた。
途中に休憩を入れながら、フェンパーティとロトカ、アイナは歩き続けた。結局アイナは足が疲れて、途中からテオノールと共に荷台に乗っていた。荷台はテオノールの地で汚れていたが、渋々の決断であった。
途中からは他の冒険者パーティに遭遇することも多かった。ほぼ全てのパーティが何かしらのモンスターを運んでいた。
フェン達の知り合いも合流し、互いに近況などを報告しあっていた。
アイナはモンスターに興味があるらしく、周りの冒険者達に何やら質問をしまくっていた。
10時間ほど歩き続けると、馬鹿でかい大きな岩が見えて来た。高さは40メートルほどだ。
「うわっ!でっかい」
「ふふふっ!皆さん最初はそう言いますよ」
「まあな。俺たちはもう慣れちまってなんとも思わねえが」
「そうだね。大きいと目標になって遠くからでも分かり易いから助かるよ」
「もうすぐ拠点なんですか?」
「そうだよ。っていうかもう見えてるよ」
「もしかしてあの岩ですか?」
「ああ、そうさ。まあ行けば分かるよ。もう少しの辛抱だ」
当然だが、拠点はモンスターに見つかりづらい場所に設けるのが鉄則だ。
「どうだ。立派だろう?ここが東の拠点だ」
離れていると分からなかったが、大岩の一部に高さ15m、横幅10mくらいの入り口が設けられていた。
そしてモンスターの侵入を防ぐための、大扉があった。今は左右扉が開けられていて、来る者を歓迎し、行く者を励ましている。
扉の面には「飲め!騒げ!よく休め!」と印字されている。ロトカ側からは見れないが、内側には「犠牲無くして勝利なし」というメッセージがある。
「いいですね。規模がデカくて、テンション上がりますね」
「バカでかい岩を削って、無理やり建設した拠点だ。全ギルドがそりゃ大金をつぎ込んで作ったんだ。俺たちが生まれるよりも相当昔の話だが」
ロイが自慢げに解説し始める。
「高さは約50メートル、最大直径は1キロの一枚岩だ。世界広しと言えど中々ねぇぞ、この規模の一枚岩は」
確かに外面からは継ぎ目などは見られなかった。
「縁起が悪いが、形が似てるから棺桶って呼ばれてるぜ」
「せめて桶だけでいいじゃないですか。“棺”が余計なんですよ」
「私もそう思うんですが、皆さんに浸透してしまっているので今更変えられないんですよ」
「私は棺桶って名前イカしてると思うけど」
「おお、フェンパーティか。帰りが遅かったな。テオノール討伐は4日の計画だったんじゃなかったか?」
いつの間にか大門の前まで来ていた。
拠点に入る者を一応、札付きかどうかチェックするために門番が10人もいた。それだけ捌く必要がある人数が多いと言う事である。
「そうなんだよ。捜索に時間がかかっちゃって。途中でこっちのロトカ君に譲ってもらったんだよ」
「へぇ。こんな別嬪さんならいつでも棺桶にウェルカムだぜ。っはっはっは」
門番は一眼見ただけでロトカが初めてここに来た者だと看破した。
「で、こっちの嬢ちゃんはフェンの子供か?にしても似てねえが」
一応、フェンは26歳なので、アイナくらいの見た目一桁の子供がいてもおかしくない。
「私は珍しい生物を調べるために、中層まで来たんだけど、途中で冒険者に見捨てられちゃったってワケ」
「マジか…と言いたいところではあるが。まあ冒険者だしな。ギルドのペナルティなんてクソ喰らえって奴も結構いるからな。嬢ちゃんはいい勉強代にはなったか?まあその冒険者達がクズって事には変わりねえがな」
一応、形式上ではあるが各人のギルドカードを確認し、カードに記載された似顔絵と照合している。
「ここの奴らも男女関わらず荒っぽい奴らが多いから気をつけておけよ。なんせ街から離れて容易には辿り着けねえ、猛者達の楽園だ。なにが起きてもおかしくねえ、絶海の孤島なのさ。お嬢ちゃんも寝る時は首に気をつけな。へへへっ」
「何、小さい子を虐めてるんですか!」
「いやっ!悪ぃ悪ぃ。ついサービス精神でよ」
「幼女を痛ぶるとは、いい度胸してる」
フィーネとサラの女性陣が幼女を庇う。
当の本人であるアイナは大丈夫なふりをしているがこっそりフィーネの袖を掴んでいた。それに脚も震えている気がしなくでもない。
「まあこいつの言うことも一理ある。荒いやつが街よりも多いからな。マジで気をつけねえとな」
「そうだね。強盗とかもない話じゃないからね」
一応、アイナに注意させるためにロイとフェンが念を押しておく。
確かに門の先に広がるは薄暗い、冒険者達の帝国である。松明がそこらじゅうに設置されており、中を照らしている。
ロイがさっき言っていた通り、無理矢理大岩を削って人が住める様な拠点をこしらえた。その為、採光状況が異常に悪い。今は夜中だが、日通でも日光が当たるのはごく一部のエリアだけである。しかも太陽の光度によっては当たる所も当たらない。その為、中の住人達は定期的に日光を浴びなければ病気にかかってしまう。
しかし、中の住人の声は外にも聞こえており、十分活気があることも分かる。まあただ声だけではなく、物が壊れたり人の叫び声なんかも聞こえてくる。
「脅かせて悪かったな。まあ身の振り方はフェン達に聞いてくれ。俺が説明しなくてもこいつらならもっと丁寧に教えてくれるさ…。お嬢ちゃんは冒険者じゃないよな?」
「そうだよ」
「じゃあこの用紙に住所と氏名を書いてくれ。もし住所がないならどこら辺に住んでいるかを。あと名前もその下に書いてくれ。後でその情報が間違ってたら面倒な事になるから、正しく書いてくれよ…さて、ロトカは冒険者だよな?カードを見せてくれ。う〜んと、ブルーゲイザーで冒険者番号が…似顔絵良し…札付きでもないな。おいおいこりゃあ珍しい」
「何ですか?」
門番はこっそりロトカに聞こえる様に小声で囁く。
「ランクだよ。Eってお前…最低ランクでよく来れたな。まあ制限とかないから別にいいんだけどよ。俺が見て来た中で最低ランクでここにきた奴はお前で5人目だ」
「あらら。一応いるんですね」
「まあな。でも滅多にある事じゃねえ。本当に強いやつか、運が良かったやつ、金で護衛を雇ってここまで来たやつの3パターンがいたぜ。お前さんは前者って感じがするが、身の振り方とかはフェンに聞いとけよ。あいつ面倒見いいから」
この門番は親切心でアドバイスしているのか、フェンに自分の仕事を押し付けているだけなのか。
「どうも。まあ、楽しみますよ」
「おう。お前も通ってよし!よーしこれで全員チェックしたな。じゃあな。よーし、次のパーティこっちだ!」
門番は話しすぎたのか、休み暇もなく次のパーティのチェックに行った。
「相変わらず忙しそうだね。オーウェンは」
「そうでしたね、オーウェンさん。まだ結構パーティが待っていましたからね」
「あいつは喋りすぎなんだよ。黙々とやったら2倍は早く終わるっての」
フェンパーティはチェックをクリアして拠点内部に入った。一番入り口手前は大きな広場になっていて、テントが何十個もあった。
「ここはテントを使って宿泊する冒険者が使うエリアだ。大体、短期滞在だけ奴らだな。誰でもテントを貼っても良いが、一時的な使用だけだ。一週間以上利用されていなかったら撤去されるからな」
広場の真ん中にモンスターや大きな荷物を運ぶために20メートル以上幅がある道が真っ直ぐずっと奥まで続いている。
「この道を行けば遂に冒険者ギルドに到着だよ」




