第30話 拠点へ
『っふう。これでは戦い損じゃないですか』
テオノールは筋骨隆々といった感じで明らかに食用には向いていない。
ロトカが触った感じでは、筋肉自体も堅く、おいしさを全く舌に感じなかった。
ロトカがどうしようかと悩んでいると、100m先くらいの茂みからパーティーが一組向かってきた。
パーティーは4人、男女混合であった。
ロトカまで30mほどの距離でパーティーは立ち止まり、何やら話を始めた。
そこで男2人は後ろを向き、女2人だけがロトカの方に向かってきた。
「色々突っ込みたいんですけど、まず何で裸なんですか…」
1人はボーイッシュな印象を受ける冒険者であった。ぼけーっと死んだ様な目をしているが、油断なく意識は周りにも向いている。中層においては何気ない油断が命取りになるからだ。
「一枚しか服を持ってないのでね、戦闘で汚したくないんですよ」
ロトカは腰に手を当てて、惜しげもなく上半身を晒していた。
「それにしたって、着るでしょ…あげようにも私たちのじゃサイズが違うわね」
「大丈夫ですよ。そこにありますから」
ロトカは木の下に置いてあったシャツを叩いて土を飛ばして服を着た。
シャツを抜いで戦闘をしているといっても、汚れるものは汚れる。しかもシャツは白いため、汚れが少し目立ってきた。
「わざわざ私の服の心配をして来てくれたんですか?」
「いや、本題はそこでは無くてですね。因みにこのテオノールはどうする予定ですか?」
もう一人は少し静かそうで丁寧な冒険者であった。
「ああ、これの事ですか。倒しましたけど、食用ではありませんでしたからね。このまま置いておく予定ですよ」
ロトカは倒したモンスターがテオノールだと言う確証はなかったが、合っていたようだ。
「もし良かったら、譲ってくれない?あなた、見たところ1人だし、運搬する方法なんてないでしょ?」
「サラちゃん、もうちょっと丁寧な言い方があるでしょ!」
「いや、だって早く帰りたいし…この人的にも時間取られないで済むと思って」
サラはフィーネに叱られて、言い訳をごにょごにょ言っている。
一応サラとしても相手を考えての発言であった様だ。
ロトカは改めて2人を観察した。
サラという人物は身長が160cm位で、黒いキャップを被っておりショートヘアであった。口調からわかる様にボーイッシュでサバサバした感じだ。
もう1人は身長が150cm位でサラよりも小さかった。少しカールされた髪は肩くらいまであり、髪飾りを一つつけていた。
2人とも冒険者なだけあり、おしゃれとは程遠い服装であった。過度な配色は避けてあり、薄い茶色や緑などのトップスと防具が一体と化した衣服を身に着けていた。防具は動きを阻害するほどの熱い装甲や重厚な装備ではない。
サラもフィーネも臀部から首元までは防具で、脇腹は布生地の服であった。防具の部分は互いに一致しているが、装飾や配色が全く異なり、個性が出ていた。
サラとフィーネの得物はそれぞれ短剣と直剣であった。
「別に良いですよ。持っていっても」
「本当ですか!有難うございます!私たち3日間も探し回って痕跡すら見つからなくて…本当に助かりました!拠点に着いたら、お礼をお渡ししますね!」
フィーネはかなり喜んでいた。もちろん休憩もしていたが、もう3日間も森を歩き回っていた。遂にヘトヘトになった苦労も報われたのだ。
「あ、そーいえばモンスターを譲る代わりに頼みがあるんですが…」
† ☆ † ☆ † ☆ † ☆ † ☆ † ☆ † ☆
「さっきのロトカって奴は、変わった獣人だったな。下半身だけ獣人の特性が出てるなんてな」
「でも、稀にそういう人も見かけるよ。僕は3人くらいしか見かけた事ないけどね」
「俺は初めて見たぜ。尻尾も銛みてーだったな。『危ないから尻尾に近寄らない様に』なんて、何の注意だったんだ?」
「デリケートなところかも知れませんよ?」
「そうだね。普通の人とは違って恥じらう感覚が別にあるのかもね」
ロトカがアイナを連れ出しに行っている間、パーティーは近くで待機していた。
わざわざ岩まで全員揃っていく必要がないのと、テオノールは巨体なので運び回るのが面倒だったからだ。
「つーかなんだよこの死体」
テオノールの体には不自然なへこみが多数あった。
「譲ってもらったのは心底ありがたいが、何だか殴り合いでもした様な跡じゃないか?」
「ああ。僕もそう思う。しかしあの人の得物は金棒だったよね?どう金棒を使ったらこんな外傷になるんだい」
「まあ、そうだけど。後で本人に聞いてみれば済む事」
無口なサラも気にはなっていたらしい。
「しかし、さっきは驚いたね。上半身裸で戦ってたなんて。非常識すぎるよ」
「ロトカさんは服を一着しか持っていなかったと言ってました。戦闘で汚したくなくて、脱いで戦ってたらしいです」
「俺たちみたいな、割とまだ良心的な方のパーティだったから良いものを。悪い冒険者だったら、色々問題になるだろ、ありゃ...おっと戻ってきたぞ」
ロトカとアイナが大岩から出てきた。
「この生意気な子がアイナです。ほら、挨拶してください」
「貴方は私のお母さん!?...まあはじめまして。アイナです。宜しくお願いします」
それぞれ挨拶を交わした後、さっそく拠点に帰還するために進み始めた。
テオノールはフェンパーティが近くまで持ってきていた大きな荷台に乗せ、ロープで縛り、運搬している。フェンとサラが戦闘でけん引し、ロイとフィーネが周りを警戒しながら荷台の左右で護衛している。
「ねえ、拠点までどのくらい?」
せっかちなアイナがフェンに聞く。
アイナは先頭のフェン達に並んで歩ている。
「そうだね。歩いて丸一日だから…50キロくらいかな。森だし、モンスターを運搬しないといけないしな」
「50キロ…」
アイナは絶望した様子で呟いた。
ただの一般人、しかも少女にとって森中を50キロ歩くことは非常に過酷である。
「疲れたら荷台に乗っていいからね。というかお嬢ちゃん、戦闘ができる様に見えないんだが。どうやってここまで来たんだい?」
「護衛に連れてきてもらったらしいですよ。その護衛たちが気づいたらいなくなってて、私が保護してあげたと。まあそんなとこです」
「そんな腐った同業者がいるのか」
「まあ、疲れたら背負ってあげますよ。もし疲れたら、さっきフェンが言ったみたいに荷台に乗せて貰えば良いじゃないですか」
ロトカは名案だとばかりに言い張る。しかし、テオノールの血で荷台は濡れていた。アイナはそんな所に座る気が起きたなかった。
「運搬道までの辛抱だ。運搬道に行きさえすれば、道は割と平らだからな」
当然森の中なので、道は今のところ平ではない。凸凹もあるし、モンスターの足跡もある。石もあれば上り坂もある。それを100キロを優に超えるモンスターを運搬しながら進むのは大変であることは想像に難くない...
それが一般人なら。
今運んでいるのは冒険者であり、日々命のやり取りをしている者たちである。人間の体長の何倍もあり、鋭い爪や鞭のごとくしなる尻尾をもつ様な化け物を相手取っている者たちである。その戦闘能力は一般人とはかけ離れている。
石や凸凹を避ける必要はなく、荷台をモンスターごと持ち上げ、最短距離で運搬道を目指している。
「ロトカは冒険者歴何年なんだ?」
「何日かは忘れましたけど、一週間経ってませんよ」
「この中層はDとC辺りの連中が来るところだぜ。それを入って数日って」
「まあない話ではない。たまにいるんだよな。お前みたいなやつ。大抵は実力を勘違いした野郎だがな。それが運良く中層まで到達して死んじまうんだ」
「私もまぐれだと?」
「いやいや、そうは言ってねえよ。テオノールを単独討伐した時点で中層で活動できるだけの実力は十分ある」
「そういえば、ロトカさんはどうやってテオノールを倒したんですか?」
「素手で殴り殺しましたよ。相手が素手で殺る気だったので、それに合わせてこちらも拳でいかないとと思いましてね」
「やっば。この人頭おかしいかも」
サラがつぶやく。
「アホか。テオノール相手にそんな余裕あったのかよ。流石に素手は無理だぜ」
「っはっはっは。いやぁまったくまさか素手とはね。武器を使わないと流石に厳しいかな」
「でも勝つのに相当時間かかりましたから。持久戦なら自身はありましたから」
「テオノールは短期戦なら本当に強いけど、持久力がないからね。まあ分かっていてもやるのは話が別だけど」
偶然ロトカの戦闘スタイルと相手の弱点が一致した様であった。
「僕たちはテオノール討伐クエストを受けてたんだけど、不甲斐ないことに数日全く痕跡すら見つけられなくてね。あんまりこういうことは無いんだけど…」
「それにクエストの期限も明日と差し迫ってたからな。声をかけたと、そういうことだ」
「この森は本当に広いですから、標的を見つけるのも一苦労ですね」
所々に看板はあるが、ロトカには看板の意味が分かっていなかった。
「サラは短剣を使うんですね。他にも手段があるんですか?」
「…私は氷結攻撃が出来る。攻撃に氷結属性を乗せて攻撃すると、相手の動きが一時的に遅くなる」
「もしかして不思議な鉄塊ってやつですか?」
「そう。呪いは感覚の鈍化。足の中指の感覚が凄く鈍い。まだ呪いとしては軽い方だね」
「まあ戦闘には支障が出なさそうですが」
「ロトカさんも不思議な鉄塊に興味がお在りなんですか?」
「呪いによっては冒険者や自分の職を辞めなくちゃいけなくなるからね。よく考えた方が良い」
「それに値段が高けぇ。あとは腕が良い溶解屋に頼まないと碌なことにならなん」
「溶解屋?」
「不思議な鉄塊を溶かしてくれる人達だよ。不思議な鉄塊は普通の鉄じゃ無いから、溶かす方法も独特で変わってるんだよ。不思議な鉄塊を溶かす専門の人が溶解屋ってワケ」
「適当な扱いをしたら、危険だし呪いが重症化するリスクがあるって思われてる。本当かどうかよく分かってないけど」




