第3話 骨の山
夢を見ていた気がする。果てしない空を飛ぶ夢を。
重荷から開放されて自由になった夢を。
しかし、いつかは目覚めなければならない。
寒い...暗い...重い...
自分は上から巨大な質量によって押し潰されていた。床は冷たくひんやりしている。このまま長時間ここにいれば、体の機能に何らかの不調をきたす。
視界は暗黒と言っても差し支えないくらい、ただただ黒かった。
少し身動ぐとガラガラっと乾いた音がした。自分の上に乗っているのは一つの物体ではなく、幾つもの小さな物の集合体だろう。このままでは死んでしまう。
上を目指すべきか...押し潰される前に、何とか物体をかき分けて上にいかなければならない。
「あああぁぁ!」
筋肉を駆動させてもがく。両腕で姿勢を整えながら、上の物体をかき分ける。
上に少しずつかき分けて進む。
それとだんだん、この物体の正体がわかってきた。これは骨だ。大きさも形も尖り具合も違う。しかし太さや形状が見えなくとも質量と乾いた音でそう分かる。
視界は上に行けども真っ暗なままだった。ここはどこなのか。全く分からない。
自分は何なんだろう。何故こんな場所にいるんだろう。全く分からない。
...考えてもしょうがないですか。上に行きましょう。
小休憩を挟みながら、骨をかきわけていく。腹も減ったが、食べる物が無い。骨を食べるわけにもいかないし。
...やっと上に出れた。
体感で3時間位骨をかき分けて、やっともうそれ以上何も無い空間に出れた。パンパンと自分の体を叩く。
上半身は普通の肌が露出している感じがする。筋肉質でバキバキという表現が合っているのだろうか...
腰から下は毛?羽?の様なものにびっしり覆われている。足は5本指。尻尾がニュルっと体と同じくらいの長さで伸びている。直径7センチ程でそこから先細りしている。
真っ暗な空間で自分の体を触りながら確かめる。
そこで周りの環境に嬉しい変化があった。
急に光がはるか上の天井から自分の方に一筋指してきたのだ。その光は揺れながら自分の周りだけを照らしていた。火か?
そこからちょろちょろ...と赤い血液が落ちてきている。
...ここってゴミ箱じゃないですよね?
自分の体を見渡すと、先程の考察で合っている事を確認できる。腹筋ははっきり破れていて胸板も厚い。厚いのだが、少しふくらみがある。
髪は肩まで黒い髪が伸びている。腰から下も黒かった。尻尾は柔軟性に優れ、ハート型や正方形、ひし形なんてのも作れた。
寝ぼけている所為か、未だに自分自身を俯瞰している様な感じがする。
どこか他人事の様な。そんな感覚がする。
突如射してきた光のお陰で周囲が、少し見えるようになった。自分が立っていたのは骨の床だった。そこにポツンと立っていた。
足に広がるのは大きな何かの肋骨やネズミほどの小さな骨まで様々だった。
30メートル四方くらいはありそうだ。そこから光源に向かって100メートルくらいの壁が上に向かってそびえ立っている。色までは分からないが、そこにあることは分かる。
こんな空間にいてもやる事がない。用事もないし、腹は減った。寒いし暗い。脱出しない理由がない。
そう決まった自分は脱出に向けて、何をするべきか考え始めた。ジャンプで届けばいいんですが。
下半身に力を込めてジャンプしてみる。地面のコンディションが悪いという事もあるが、結局5mほどが限界だった。
「壁を登っていくしかないのか...一苦労ですよこれは」
これしか方法はない。翼でもあれば飛んでいけたのだろうが。
幸い足場に使えそうな骨は沢山ある。これを壁に突き立てて登って行きましょう。