第28話 寝床
現在、陽が傾き始め、あたりが黄金色に染まり始めた。
「本当にここで寝るの?」
ロトカに連れてこられたのは河原からすぐの所だった。
巨大な岩に人1人分の幅くらいの亀裂が入っており、ここに寝ようというのだ。
「そうですよ?なんか文句でもあるんですか。なかなかないですよ、こんな良物件は。ちょうどモンスターも入ってこれないですし」
「いや、てっきり拠点拠点に行くのかと思ってたよ...」
「拠点?...ああ、あの冒険者が集まってるところですか?どこにあるかなんて知りませんよ。急いで来ちゃいましたし」
「さっきから聞いてると冒険者とは思えないんだけど...」
「大丈夫ですよ、やってるうちに覚える様になっていきますから」
「本当に?心配なんだけど...」
レイナは文句を少し文句を言いながらも、ロトカに追いて亀裂に入っていった。
「レイナは街ではどこに住んでるんですか?」
「私?リニアのコリンズストリート4番地に住んでるよ。最近は隣にパン屋ができて、毎週食べるのが楽しみだったんだよね」
「そんなに美味しいんですか?」
「そりゃ勿論。じゃなきゃ、毎週食べる様になんかならないよ。他の店のパンよりも柔らかくて。私好みの少し甘い味付けなのが、高得点。ロトカはどこ住み?」
「私がリニア来たのが数日前でしてね。それ以来野宿か友人の家に居候してましたよ」
「もう少し安定した生活が欲しいとか思わないの…」
レイナが横になりながらそう言った。
「安定ねぇ。あまり興味はないですね。取り敢えず、将来は超巨大な宝物庫を作って、その中で暮らしたいですね」
「どんだけ欲まみれなの、いい歳して。そんなの子供でも言わないよ」
「いえ、大人こその発想ですよ。濃い人生経験を積む事で、こういったフリーダムな発想ができる様になるんですよ」
レイナの頭をポンポンとして、劣等感を与える。
「金貨、財宝のベッドで寝たら堪んないでしょうね。きっとその人は世界で一番幸せだと感じる事でしょう」
ロトカは笑いながらそういう。
「そんなに宝を掻き集めるには相当な時間が必要だね。それこそ一人の人生では足りんじゃない?」
「一足飛びには無理でしょうね。まず世界の1%の富を得ることを目標に活動します」
「1%?そんなにあったらベッドどころか海ができるよ。第一どうやってそんな途方もない量を集めるの?悪いけど、私にはただの夢物語にしか聞こえないなぁ」
「ふふふ…私には壮大な計画があるんですよ。その為に冒険者になったのですから」
「なに、オールスターで勝つとか?確か称号も貰えたしね。確か…ネギステイ・ネギだがなんとか言った様な…」
「何ですかそれ。新種のネギかなんかですか」
「うる覚えだから…うーん。計画とやらについて聞きたいような聞きたくない様な…」
「まあ教えませんよ。真似されたら困りますし」
「別に真似しないよ!そこそこお金があれば十分」
「随分とまあ控えめですね。そんなんじゃ胸も控えめになっちゃいますよ」
レイナは自分の胸に手を当てて長考し始めた。思い当たる節があるのか、それとも素直に信じてしまったのか。
ロトカは申し訳なさを1ミリくらい感じた。
「そーいえば、受付嬢も言ってましたがオールスター戦とかいうイベントで各ギルドの冒険者どもが集結するとか聞きましたが」
「そうだね。まあ全員じゃないだろうけど、アラゴルム級、通称A級のメンバーもある程度出てくるらしいよ」
「A級ってそんな名前だったんですね。他の階級にも正式名称ってあるんですか?」
「勿論。Fから順にファランクス、エルデン、ダグラス、ケイティ、バリー、アラゴルム」
「誰ですかその人たちは?」
「大昔に活躍した偉人の名前だよ」
「どうりで人の名前っぽいと思いましたよ」
亀裂の丁度真ん中あたりが少し幅が広くなっていた。
二人はここで寝ることにした。
地面の凹凸があったので、ロトカが尻尾で整地する。
「便利だね、その尻尾。っていうか切れ味良すぎない?石がスパスパ切れてるんだけど。寝るとき私の方に向けないでね?」
「ふふふ。どうですか、自慢の綺麗な尻尾ですよ」
ロトカは尻尾を褒められて良い気分になった。
「さて、ここで寝ましょうか。おいしょいっと...」
「なんで服を脱ぐの!」
「なんでって。この一枚しか服持ってませんからね。寝るときや戦う時に脱いでおかないと、帰る時に裸になっちゃいますから。こうやって小まめに脱いでるんですよ」
「もうちょっと汚れてきてるし。何でよりによって白地にしちゃったの?余計に汚れが目立つよ。しっかり洗わないと」
「まあ、洗濯は明日しますよ。それよりレイナも脱いだらどうですか?替えの服がある様に見えませんけど?」
「...護衛に預けてきちゃった...最悪!」
レイナは一か月も同じ服で生活するのかと思い、絶望した。
「ほらほら、脱いじゃいましょうよ。」
「や、やめて!自分で脱げるから!」
ロトカが悪乗りして、レイナの服を脱がせにかかる。
「はあ、外でこんな格好で寝るなんて。誰かに見つかったら変態扱いされちゃうよ...」
レイナはしぶしぶ下着姿になった。大切な服はいつもよりも丁寧にたたんで地面に置いた。
「そんな隠さなくても良いじゃないですか。女同士なんですし」
「女でも恥ずかしいものは恥ずかしいでしょ!」
二人は体を休めるために、地面に横たわった。
「受付嬢に8階級あるって聞いてたんですけど、あと2つはどうなんです?」
ロトカは疑問に思っていたことをレイナに聞いてみた。
「あと2つは…S級のサラザール級とEv級のエヴァーミリオン級かな?因みに、この階級の人たちはオールスターには基本的に出てこないよ」
「何でですか!忙しくて都合がつかないとかですか?」
「よく知らないけど、各ギルドの駆け引きとかがあるんじゃない?この二つの階級に関して、一般人はどんな人が何人くらいいるのかも知らないよ」
「だから基本的にA級が一番強いって思われてるね。3年前に見たことあるけど、A級の人たちの動きは早すぎて追えなかったよ。あぁ、もう一回見たいなあ。ロトカは冒険者だからA級の人とかみたことあるの?」
「A級の人は見た事ないですけど、海軍に強者がいましたよ」
「海軍?なんでそんなに実感こもってるの」
「この前脱獄するのに戦いましたし。そりゃ実感もこもりますよ」
「なにやってんの!?犯罪じゃんそれ!」
「まあ終わった話は良いじゃないですか」
ロトカは快活に笑い、サラッと流す。
「とにかく、嫌らしいほど強かったですよ。タフでしたし、攻撃も重かった」
ロトカは一周回って冷静になり、客観的に分析できる様になってきた。
「海軍かぁ。まあ海軍は海賊をいつも相手にしてる人達だからね。鍛えられてて当然だよ」
レイナは寝付けないらしく、大切な服を渋々枕にすることにした。
「んっ。冒険者と一括りに行っても、色々な人がいる認識ですよ。まあ私たち一般人が抱いてる印象としては『何でも屋』ってとこです」
レイナは眠気のせいで、話が少し飛び始めた。
「そんな印象ですか。私はよく調べないで、登録しちゃいましたから初耳です」
「登録は本当に簡単に出来るから。あと実力もピンキリっていうイメージもあるね。特に強みがなくても成れちゃうから」
「ピンはどんだけ強いんでしょうかね?」
「さあ?噂では空を飛べたり、海の中に住んでたり、さっき言ってた様に触れた物全てを壊しちゃう様な人がいるらしいよ?」
「冒険者がクエストをしている姿なんて見る機会がないからね。そんな人達が受けるクエストになんて付いて行けるわけないし。まあ、オールスター戦に一部の人が出てくれるから、その時だけだね見れるのは…」
二人とも眠気が強く、徐々に会話が少なくなっていった。
「星ってこんなに沢山あったんだね」
ロトカからの返事は返ってこなかった。
ロトカは疲労が溜まっていたせいですぐに寝てしまった。




