第27話 中層のモンスター達
街に帰りたいと駄々をこねるレイナは己が生き残るためにはロトカに着いて行くしか道はないと気が付き、何とか一か月を中層で過ごすことにしたのだった。
「ところでレイナはこんな所に何しに来たんですか?」
「私ははるばるこのヒサワガニを捕まえにきたんだよ」
「こんなカニなら街近くの川にもいそうなもんですが。海だってあるんですから、もっと食べ応えのある大きなやつも採れるでしょうに」
「別に食すために此奴を探しにきたんじゃないよ。このカニにはある容疑が掛けられていてね。その名の通り、火を吐くのを見たと言う証言が複数寄せられてるんだよ」
「この小さい奴がですか?」
ロトカはカニを突っついてみる。
「私も気になってね。わざわざここまでその噂を確かめにきたんだよ」
レイナは死んだふりを続けるヒサワガニをじっと観察している。
「しかし、此奴はピクリとも動かないね。ほら、オスなら気張って火を吐くのを私に見せてよ」
微動だにしないカニにしびれを切らしたレイナはつんつんとカニを突く。
「ところで、あなたは冒険者なんでしょ」
「そうですよ」
「なら、色々とモンスターやら動物に明るい?このヒサワガニについて何か情報は持ってないの?近所の寝しょんべん小僧とリュウマチ持ちの酔っぱらいでは情報源にいささかの不安が残るんだよね」
「さあ。私は最近なったばかりの新参者ですからね。生憎知りませんよ。尻でも小突けば、驚いて火を出すかもしれませんよ」
水生生物のカニが火を噴く姿に興味を惹かれたロトカはレイナと共に、カニを突き始めた。
「何ですか?」
レイナの手が止まったので、ロトカはレイナを見上げた。レイナはロトカの方を見ていた。
「いや、『カニが火を吹くわけない』と言われるかと思ったけど。ロトカがそれを言わなかったから驚いて」
「火を吹くカニがいても良いんじゃないですか?しょっちゅう血を吐く女もいるくらい、世界は広いですし」
「そうだよね!ロトカもそう思うよね!」
レイナは気分を良くして、ロトカの背中をバシバシと叩く。
「ロトカは修行でこの中層まで来たんだよね?何か倒したいモンスターでもいるの?」
「いや、これといって倒したいモンスターがいるわけではないですよ。でも最終的に触れた物全て破壊出来るくらい強くなりたいですね」
「そんな怪物になってどうしたいのさ。鶴亀屋の餡蜜あんみつも柏かしわ屋の大福も食べられなくなってしまうよ」
「比喩ですよ、比喩。まあ長期目標ですね、それは。それよりも今は基礎体力を付けたいんですよ。金棒の構えとかを模索してる段階ですしね。金棒をよりコンパクトに振った上でパワーが発揮できる様な振りに近づける様に修行していきますよ」
「うーん、聞いといてなんだけど。てっきり何か倒したいモンスターでもいるのかと思ってたよ。その為の修行だと」
「私、モンスターに詳しくないですよ。耐久力には自信がありますし、試行錯誤で攻撃を打ち込み続ければモンスターは死にます」
「なんで冒険者がモンスターのついて知らないの!ロトカの耐久力が如何程凄いか知らんが、モンスターについて知っておいて損は無いよ。中には毒を使う奴も、武器を使ったり、集団で巧みに戦闘をする小賢しいのもいるから」
ニシキは少し体制を崩して地面に尻を着いて、足を解いた。
「少し、私が講義をしようか。私たが”モンスター”と呼称しているのはただの動物の一種。この事は『Catalog of all living things』という古い書物に記載されている。特定の馬や魚となんら変わらないんだよ。ただ一般的に人類の生活に害をなす動物をモンスターと読んでいるだけさ。つまり凶暴な牛や犬もモンスターになり得るってこと」
レイナの話が長くなりそうだと察知したロトカは舟を漕ぎ出し始めた。それでもレイナは全く気が使かず解説を続ける。
「今度はこの森に生息するモンスターを解説しよう。脚に緑の斑点があるデカイ蜘蛛はスペルグモ、毒はないが火を使ってくる。もしこれ以外のクモ型モンスターに遭遇したら必ず逃げな。毒を持ってるから。ボロい布切れを着たノールよりも大柄で筋肉質なテオノール、武器は冒険者から奪ったもの剣や斧、鉄槌などを使っていることが多い。大柄な尻尾が蛇のトラはウルムト、爪が鋭くただの鉄なら綺麗に切れる程らしい。全長8メートルはある翼竜はゼリウス、ある程度社会性があり10頭程でグループを形成している事が多い。仲間を呼ばれる前に決着を付けないと1人で多数を相手取る事になる。それは絶対に避けるべき…。これっ!聞いてるの!」
「っはぁ!地震!?」
「どんだけ深く寝てんの。折角、私が有難い講義をしてやってるのに。こんなの基学に入ってるか、お金を払わんと教えてくれないよ」
「いやぁ。つい、大きな茶色い蛇と戦ったばっかで眠くなってきちゃいましたよ…ふあ〜。解説が真面目すぎて、少女と話してる気がしないんですが。もう少し年相応に好きな男の子話とかしましょうよ」
「う、うるさい!お祖父様の影響で学問の話となるとな…あれっ!ヒサワガニがいないっ!私のカニが!」
レイナが気がついた時にはヒサワガニは自由を求めて支配の手から脱走した後だった。




