第18話 森の中
何を境目にしているのかは分からないが、森は横まっすぐに同じ境界から始まっていた。
お爺さんがいつも使っているだろう道が1つあるだけで、他は完全に木が生い茂っている。
ロトカは金棒を振り回しながらその道から森に入っていく。
その道はかなりの回数踏み鳴らした後がある。小さな雑草が生えているところもあるが、地面は堅い。
ロトカの伸長が高いせいで、お爺さんでは問題ないような木でも低すぎて邪魔になるものが結構ある。それはへし折りながら進んでいく。
森は多くの生命に溢れていた。野鳥やサルらしき動物の鳴き声、何かが這いずる音、木々が風でなびく音。
よく聞けば安らかな気持ちになるような音に気を取られることもなく、そしてあてもなくどんどん真っすぐ進んでいく。
10分ほど歩いたところで道が途切れた。おそらくお爺さんはここまでしか入ることはないのだろう。
そこからは完全に道なき道を開拓しながら進むことにした。
このまま進めば、お爺さんがどこまで進んでいたか忘れてしまいそうだ。
ロトカはそう考え、近くの木をいくつか金棒で叩き折って目印とすることにした。
彼女が片腕で金棒を振りかざし、木の根元を1回叩いただけで、音を立てて木が倒れ込む。切断面は荒く、鋭利な刃物で切り倒した様な綺麗な断面にはなっていない。金棒が接触した部分がひしゃげて、ボコボコになり、年輪は見分けがつかない。
4本ほど切り倒して目印としたところで、先に進む。そこからの景色もそれまでと違うようなところはない。
ここまで何も考えずに来てしまったけど、何を狩りましょうか...というかそもそも簡単に獲物に遭遇できるのかどうかが問題ですね。
記憶も生まれたのもつい先日なのに獲物の探し方なんて知るわけない。さあどうしたものか。
「ああ面倒くさい!何か出て来い!」
乱暴に金棒を振り回して木々ごと叩き折っていく。太い幹が軽々粉砕されてそこら中に散乱していく。
そこでポトッと何かが落ちてきた。
なんですかこれ。
10cmくらいの塊がジタバタしている。それは羽が生えた亀だった。
ちょうど休んでいた木がロトカの癇癪の餌食となった。突発的な出来事に対応しきれなかった亀が飛べずに落下してきたのだ。
「ふふっ」
ロトカに嗜虐心が生まれ、金棒で突っつく。
すると亀は頭と手足を深緑の甲羅の中に収納して丸まってしまう。
明らかな肉食の捕食者から反射的に身を守る。
「おらおら」
しばらく突っついても変化がなかったので、そのまま手でひっくり返してやる。
すると亀は目にも留まらぬ速さで羽だけ動かし、飛んで行った。
そんな出来事を楽しみつつどんどん先に進んでいく。時折見つけた木の実をもぎ取り、その不味さにぼやき、小動物を弄ったりして真っ直ぐ進んでいく。
3時間程歩いた所でロトカはある変化に気がついた。
森の入り口と比べて、木々の感覚が広くなり、1本1本が太くなってきたのだ。背も高く、幹に爪を研いだ後や地面に何らかの足跡を見る事も多くなってきた。
そろそろ食料出てきて...
グゥ〜と腹もなり始めた所でモチベーションがガクッと下がる。
最初は大物を捕まえようと息巻いていたが、数時間も飲まず食わずで歩いたせいで飽きが来ていた。
ロトカは少し休憩を兼ねて近くの大木に腰を下ろし、尻をつけて座り込む。
「ああぁ〜、水でも持ってくるんでしたね」
少し休憩しようと思い、目を瞑る。
そうすると視覚の情報が消えて聴覚が少し研ぎ澄まされる。
すると右の方から滝の様な音が運良く聞こえた。
ロトカの四肢に力が入り、周りの木を倒しながらそちらの方向に進む。20分くらい進むと、30メートル以上隆起した岩壁から水が落ちて池を形成している所に出た。
ロトカはすかさず池に近づき、顔ごと突っ込んで水をガブ飲みする。
「ぷはぁ!美味い!」
水をしこたま飲んだ所で周りの景色を観察する余裕が出来た。
水たまりの水深は相当深く、かなり大きな魚から小魚の群れまで何でもいる。
池の直径は50メートル程だ。自然にできたとは思えない程綺麗な半球状の池である。
中心に何か大きな衝撃があったかの様な、そう思ってしまう。
そもそも30メートルしか滝の高さがないのに、この大きさはおかしい。
この水も変だ。岩壁は恐らく一部だけ隆起しているだけで丘の様になっている。しかしこれ以上の所には何もない。
何故この岩壁から水がこんなにも出ているのか?下から来ているのか?どうやって?そんな細かいことに注意を割く余裕はロトカにはなかった。
水の中に魚を見つけたからだ。
さっそくロトカは金棒を地面に置き、屈伸や前屈を行う。
そして肺一杯に空気を取り込む。その際、入水時間を多くするために鯉のように口をパクつかせて空気量を増加させる。
限界まで空気を溜めた所で綺麗な飛び込みをして入水した。
水面に波紋が広がり、数分後に池から勢いよく魚が飛び出して陸で跳ねる。
その後にロトカも水面から顔を出した。
大きな桜色の鯛らしき巨大魚がロトカの目の前で跳ねる。3m程の巨体をしているだけあり、地面から1mもジャンプしている。
鯛にしては歯が発達しすぎて下の2本が上に突き出している。もはや歯というよりは牙という表現の方が正しい。従って、ただの鯛ではないだろう。
ロトカは金棒で魚の頭をかち割って大人しくさせる。
二股に分かれた尻尾の付け根を自身の尻尾の刃で真っ二つにして血抜きをする。頭を切断し、内臓を掻き出す。鱗を自分の尻尾で剥いで食べやすくする。
そして近くの木を切り倒し、自分の尻尾で細長く加工して魚の中に通す。そのあと、池の水を大きな葉っぱで掬い取り魚に掛けることで血を洗い流す。
「さて」
下処理が終わったので、魚を丸焼きにしていく。
木の枝を薪代わりにする。
その内Y字の枝を支えにして魚を洗濯物干すようにかける。
肝心の火は木と木を擦り合わせることで起こした。
普通の人では単純に木だけで火を起こすことは難しいが、ロトカの腕力はそれを可能にする。
種火を魚の下に敷いた木の枝に移し、息を吹きかけて大きくさせる。
良い感じに燃えている所で魚の面倒を見る。焦がさないように時折、回転させるのだ。
ちゃんと火が通った所で、魚にガッつき食べ始める。
数分後には魚は綺麗に骨だけ残って山となっていた。
ロトカは満足してすぐ横になり、寝始めた。
しかし目覚めた頃には夕方になっており、急いで持って帰る獲物を探し始めるのだった。




